外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第17話 はいストーーーーップ!!!!

 最初は、エリオラのことはなんとも思っていなかった。


 可愛いけど笑顔が乏しく、何を考えているのか分からない儚げな一人の魔族の女の子。それがエリオラへの第一印象だ。


 でも一緒の時を過ごしていくに連れて、実は凄く分かりやすく、笑顔が可愛く、それでいて強引で、俺のことを第一に考えてくれる……そんな存在になった。


 でも最近は、何をするにしても最初にエリオラのことを考えている。


 美味しいのを食べたらエリオラに分けてあげようとか。綺麗な景色を見たらエリオラと一緒に見たいとか……とにかく、エリオラが頭に浮かぶ。


 そんな時に現れたのが、自分のことを元カレと自称する男。炎極天のエンリ。


 その時、俺が思ったこと……ひねくれず、素直に、思ったことだけを考える。










 ふざけるな、だ。


 何が元カレだ、ふざけんな。


 エリオラがこっちの世界に戻って来たのに、今まで一度も顔を見せに来なかったじゃねーか。それなのに元カレだと? 同じ未来を見据えた仲だと? 一緒に未来を開く人だと?






 ふざけるな。今アイツと一緒にいるのは俺だ、お前じゃない。






 なのにエリオラも満更じゃない顔をしやがる。


 あ、なんかイライラしてきた。


 独占欲やら小さい男やら、言いたいことがあるなら言ってくれ。


 でも、エリオラが他の男と一緒にいるなんて我慢ならん。イライラする。


 何でイライラするのかは分からない。


 だけど、もう一度エリオラを見たら……何か分かるかもしれない。


 エリオラを独り占めしたいという思いも。
 エリオラと一緒にいたいという思いも。


 そんなフワフワした思いを確かめるため、俺は《虚空の生け簀》の出口を作り、王城へと戻っていった。


   ◆◆◆


「……会わせたい人……?」


 エンリの突然の提案に、エリオラの定まってない思考が揺らぐ。


「……そう……世界を壊せる人のところ……そして、もう一人の破壊者の復活……それが僕らの今の目的……」


「……エンリは融和勢だったはず。どういうこと?」


「……そう、融和勢だった……その方が魔族も、人間も、亜人も……進化出来ると思った……でも違った」


 エンリの感情の分からない目が、失望の色に染まる。


「……人類は進化しない……それどころか皆弱くなるだけ……平和は技術を発展させるけど……力を奪う……力を奪えば……夢も、希望も、大切な人も守れない……それに気付けなかった……それが許せない……」


 エンリの手がそっとエリオラに差し出された。まるで、悪魔の誘いのように。


「エリオラ……タナトくんが君を愛していないこんな世界……生きている価値は、ある?」


「…………」


 エリオラはタナトを愛している。それは間違いないし、今後も絶対変わらない。


 だけど……もし、タナトがエリオラのことを嫌いになれば。


 間違いなくこの世界に絶望する。


 今のエリオラにとって、タナトとの日々は何物にも変えがたく……キラキラとした素晴らしい日々に彩られている。


 そんな日常が過ごせない……それが出来ない日々。


 絶望的で、空虚で、虚しい。


 考えただけで吐き気がする。


 彼がいない世界なんてありえない。


 彼と一緒に過ごせない世界なんて──。


 麻痺する思考に、エンリの甘い言葉が滝のように雪崩込む。まるで粘性を持つ悪魔のような言葉に、エリオラの思考は徐々に絡め取られていった。


「……僕に付いてくれば……世界をもう一度、あの頃に戻せる……三〇〇〇年前の……混沌と破滅の世界に……」


「…………っ」


「……壊しちゃおうよ……自分の思い通りにならない世界なんて……そして作り直そう……タナトくんが、君を愛している世界を……」


(……タナト……タナ、ト……)


 エンリの言葉が脳にこびり付く。


 脳の奥深くまで刷り込まれていき、思考が鈍化する。


(タナトとの日々を取り戻せるなら……私は──)


 差し出されたエンリの手を握るべく、エリオラの手がゆっくりと伸び。


(──悪魔にだって、魂を売る)














「はいストーーーーップ!!!!」














「──ぇ……? キャッ!?」


 突如エリオラを襲った浮遊感。


 この感覚、覚えがある。


 襟元から引っ張られ、宙に放り出されるような感覚……。


 そんな感覚も束の間……そっと、誰かに抱きかかえられた。


 細い。けど、暖かな腕。


 そっと上を見上げると……タナトが、柔らかな笑みでエリオラを見ていた。


「タナ、ト……」


「はいはい、あなたのタナトさんですよ。ああ、色々と言いたいことはあるだろうけど、ちょっと待っててくれ」


 円卓の上に立っているのか、一段高い所からタナトがエンリを見下ろす。


「おいコラテメェ、クソ炎極天。よくもまあ俺の・・エリオラに色目使ってくれやがったな」


 今までにない、タナトの憤怒の形相。


 その形相にエンリは無意識に一歩後ずさった。


「元カレだか元旦那だか元夫婦だか知らねーけどな……エリオラの今の相棒は俺だ。エリオラが俺を好いてくれてるように──俺も、エリオラが好きだ」


「────」


 突然の愛の告白。


 思いもよらぬ告白に、エリオラの思考は完全にショートした。


「誰にもエリオラは渡さん。例え、過去に何かあったあんたでも……エリオラは、俺のもんだ」

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