外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第3話 頑張れ、明日の俺

 その日の夜。俺達は大食堂での食事を断り、客室で釣ったばかりの魚を刺身にして食っていた。


 豪華な食事というか、そう言うの見るだけで胃もたれやら胸焼けするんだよなぁ。


 だから俺には、刺身とか焼き魚の方が体に合ってるんだ。超新鮮で超美味いし。


「はふっ……満足♪」


「そいつはよかった」


 エリオラは本当に満足したのか、俺の膝を枕にして横になる。


 魚食って満足して横になるって……まるで猫みたいな奴だ。


 何となくその頭と首を撫でると、目を細めて擦り寄ってきた。おかしい、猫耳の錯覚が見えたぞ。これはあれだ、エリオニャだ。


 エリオニャエリオニャニャンニャンニャーン。


「あの、タナト様……?」


「んえ? あ、シャウナ。いつの間に」


「いえ、何度もノックしたのですが」


「あらそう? 気付かなかった。いらっしゃい」


「あ、はい。お邪魔します……じゃなくて!」


 何だよ、騒がしい奴だな。


「何でずっと部屋にお引き篭りになられてるのですか! お夕飯とかその後のお話とかお茶会とか、私楽しみにしてましたのにー!」


 ちょっ、腕をブンブン振り回すなっ、危ないだろ。


「シャウナ、騒がしい……」


「むーっ。とにかくお話がしたいのです! タナト様がどこに行ってたとか、あの子供のこととか、装備とかアイテムとか色々と!」


 げっ。あいつについて、か……? そいつはまずい。絶対まずい。


 俺がここに連れて来られたのは、十極天会合に従者として出席するためだ。


 そしてその会合で話し合われるのは、イヴァロン幼女の復活と対策。ここであいつのことを話したら、間違いなく俺は国の敵として処刑される……!


「ま、まあ座れよ。お茶でも飲みながらゆっくり話そう」


「本当ですか!? 直ぐお茶を淹れさせます!」


 言うが早いか、シャウナは部屋に備え付けられているベルを鳴らし、やって来たメイドさんにあれこれ指示を出すと行儀よく椅子に座った。


「ふふっ。こうして殿方夜中にお喋りって、何だか楽しいですっ、興奮します!」


「ほう、シャウナも好き者」


「ほえ? 何のことですか、エリオラ様?」


「……天然、だと……」


 エリオラ、何を言ってるんだ……。


「それで、タナト様はこの数日どこに行っていたのですか?」


「あー、ちょっとな。精霊の異界渡りってやつに巻き込まれて、異界に行ってた」


「い、異界!? なななな何でしょうそれは!? どのような場所だったのですか!? もしやタナト様のスキルと何か関係があるのでしょうか!?」


「もちつけ」


「はい、ご用意します!」


「待て待て待て。あれだから、落ち着けとゴロの似てる言葉を言っただけだから」


 てかボケを説明させるなよ、恥ずかしい。


「なーんだぁ……」


 何でもかんでも真に受けるな、こいつは……。


 ま、異界の物珍しさを話せば満足するだろ。イヴァロンについて忘れてくれるはずだ。


「まず俺のいた異界だが、無限に広がる砂浜と無限に広がる海しかなかった。太陽は動かず、常に空の天辺で憎たらしく輝いてたな」


「ほへぇ、こことは全然違いますね!? そんな世界が、こことは別の場所にあるとは……!」


「だけど異界は俺のいた場所だけじゃなくてな、他にも──」


 イヴァロンについては細心の注意を払って言葉にしないようにし、異界で起こったこと。異界でどんなことをしたかなどを話すと、シャウナは楽しそうに笑った。


 王女として政務で他国を回ることがあっても、こうしたサバイバル経験は皆無のシャウナ。言うこと言うことのリアクションがデカい。


 異界についてある程度のことを話すと、メイドさんの入れてくれたお茶で唇を濡らした。


「ふぅ……どうだ? 世界はここだけじゃなくて、色んなところに通じてるんだ」


「すっごいです! すっっっごいです! タナト様の【釣り】スキルは、そういった場所から装備やアイテム、珍しい魚を釣ってるんですね!」


 興奮冷め止まないのか、シャウナは楽しそうに手を動かして目を輝かせた。


「つまり異界と行き来する手段を確立すれば、その世界丸ごと王国のもの! そこを農耕地にし、過酷な環境で騎士の訓練を行えば、瞬く間に世界最強の王国になれますわ! タナト様、是非お力添えを!」


「手伝わないぞ」


「んえぇ〜……」


 確かに俺の《虚空の釣り堀》を使えば、常時ここと向こうを繋げられる。


 だけど過酷なあの世界は、最強の国を作る前に確実に死体の山を作るだろう。


 それに、《虚空の釣り堀》を使うには《神器釣り竿》を常時使い続けなければならない。そうなると……。






「お前らを手伝うと、俺が釣り出来ないからヤダ」






「あ、それはダメですね」


「だろ?」


「流石シャウナ、タナトのことよく分かってる」


「えへへ〜。崇拝するタナト様のことですから」


 照れるな照れるな。あと崇拝するな。


 シャウナは満足したのか、それとも眠くなったのか大きく欠伸をした。


「はふっ……はぁ、楽しかったですわ……今日はもう遅いので、休ませて頂きますね」


「おう。おやすみ」


「はい、おやすみなさい」


 行儀よくお辞儀をすると、部屋を出ていこうと扉を開き……少しだけこっちを振り向いた。


「では、また明日来ますね。その時は、新しいお仲間様のことを教えてください♪」


 チッ、覚えてやがったか。上手く誤魔化せたと思ってたのに。


 部屋を出ていくシャウナ。それを見て、俺もベッドに横になった。エリオラも俺をベッドにするように、上に寝転がる。


「タナト、イヴァロンのことどうするの?」


「言えるわけないだろ……」


 何か言い訳考えねーと。


「……ん、ふあぁ〜……ダメだ、眠い……」


「私も……慣れない場所、疲れた……」


 もういいや、今日は寝ちゃおう。


 言い訳は……明日の俺に任せよう。頑張れ、明日の俺。

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