外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第10話 バイ菌ありそう

   ◆◆◆


「はふぅ……タナトすっっっごい……♡」


「お、お前……サキュバスかよ……」


 異界から戻ってから丸一日が経ち、ようやくエリオラから解放された。


 エリオラのガチ回復魔法で諸々が回復してるからとは言え、頼むから少しは休ませて欲しいんだが……。


 妙にツヤツヤしてるエリオラと部屋を出る。


「にんげんさん、にんげんさん」


「ん? おー、何だお前ら、まだいたのか?」


 テーブルの上にいた俺と一緒に異界に行ってた五人の精霊が、俺を見上げている。え、何ぞ?


「「「「「じーーーーー」」」」」


「な、何だよ……」










「「「「「せいのよろこび、しったです?」」」」」


「うるせーよ!?」


「「「「「ピーーーーッ!?」」」」」


 あ、あいつらっ、これを言うために残ってやがったのか? 暇かっ!


 机を叩くと、精霊が散り散りに消えていった。ったく……。


「タナト……」


「……今度はミケか。何……だ……?」


「……ここに正座しなさい」


 み、ミケさん? あなた、人様に見せられない形相になってるけど、どうした……?


「……え、何? ミケ、顔怖いぞ」


「いいから!!」


 ひぇっ、こわしゅぎ……。


 いそいそと正座すると、ミケが腕を組んで俺を見下ろす。


「さあ、話してもらうわよ」


「……話しって何のことだよ」


「この子のことよ!」


 この子?


 ミケが指をさす先にいるのは、ミケが作ったのか満面の笑みでオムライスを食べてるイヴァロンがいた。


 見た目と相まって、幼女幼女してるな。


「タナト! ミケの作るオムライスは絶品だぞ!」


「ありがとうイヴァロンさんちょっと黙ってて」


 頭痛を覚えたのか頭を押さえるミケ。結局何が言いたいんだよ。


「……この子、自分をイヴァロンって言い切ってるのよ!? しかもイライザちゃんまでイヴァロンって呼んでるし……本物なの!?」


「みたいだぞ」


「……み、みたいだぞって……イヴァロンくらいタナトも知ってるでしょ!? 破壊の魔王で、エリオラちゃんを封印して、混沌と破滅を振り撒いたあのイヴァロンなのよ!?」


 分かった、分かったから地団駄を踏むな。床が抜ける。


「ハッキリ言うわ。タナトの力でもう一度封印した方がいい。絶対に」


「何と……!?」


 ミケの背後で、イヴァロンが捨てられそうな子犬のような顔になる。


 流石にここまで連れて来て、そんなホイホイ異界に飛ばすのは気が引けるというか、可哀想というか……。


「うーん……じゃ、最初から説明するから、取り敢えず最後まで聞いてくれ」


「……分かったわ」


 さて、何から説明したものか。


 俺が異界に行き、《虚空の釣り堀》で釣りをしていたらイヴァロンを釣ったこと。


 何故イヴァロンは混沌と破滅を撒き散らし、何故エリオラを封印したのか。


 ちょっとずつ、淡々と説明していく。


「──と、こんな感じだ。イヴァロンには今は敵意も破壊衝動もないから、安心しろ」


 話を聞き終えたミケは、唖然とした顔をしていた。まあ、今すぐこの話を信じるのは難しいよな。


「……それ、本当なの?」


「ああ、間違いない。もしあいつが嘘をついたりしたら、エリオラと俺が協力してもう一度異界に飛ばす。イヴァロンには既に脅し済みだ」


 今の話を聞いてたのか、イヴァロンは顔を真っ青にしてコクコクと無言で頷いた。


 あそこの過酷さは、実際に体感した奴じゃないと分からないもんな……最後は割と楽しんでたけど。でも出来ることなら俺も二度と行きたくない。ガクブル。


「……はぁ、分かったわ。エリオラちゃんもそれでいい?」


「ん、大丈夫。何かあっても半殺しにする」


「──ほぉん? エリオラ、言うではないか」


 ……イヴァロン?


 オムライスを食べ終えたイヴァロンが、口の周りをケチャップ塗れにして立ち上がった。


「余だってただ封印されていた訳ではない。異界の過酷な環境で、打倒エリオラを掲げて修行したのだ。……試すか?」


「無駄な努力乙」


 ミシッ──。


 う、お……骨まで響く、とんでもない圧……!?


「相変わらずなのだわ、お姉ちゃんとイヴァは」


「い、イライザちゃん、これ放っておいてもいいの……!?」


「うん、大丈夫大丈夫」


 全然大丈夫そうには見えないんだけど。


 うわっ、床にヒビが。こいつらここ壊す気か。


 ったく……。






「エリオラ、ストップ」


「あいっ♡」






 止めると、エリオラは猫なで声になって俺に飛びついてきた。


「エリオラ、落ち着け」


「んっ、もう大丈夫♪ くんかくんか」


 ……あの、俺の首元に顔を埋めるのはいいんだけど、匂い嗅がないでっ、こそばゆい……!


「むっ! エリオラ、逃げる気か!」


「イヴァロン」


「うっ……な、何ぞ……」


 イヴァロンは親に怒られてる子供のように、バツの悪い顔でたじろぐ。


「俺の静止を無視して喧嘩するか、異界で頭冷やすか……選んでいいぞ」


「喧嘩しないであります! しないであります! 余、エリオラと仲良しでありまーーーす!」


 うむ、よろしい。


「……破壊の魔王イヴァロンを窘めて、そのイヴァロンが恐れるエリオラちゃんを手懐け、奇跡の魔女イライザちゃんからも好かれるタナトって……もしかしてこの世界で一番ヤバい奴なんじゃ……?」


「《騎乗戦姫》のミケちゃんからも好かれて、王国第一王女シャウナちゃんから崇拝され、限りなくスキルレベルマックスに近いエミュールちゃんも少なからず思われてる……お兄ちゃん、とってもすけこましなのだわ」


 失礼な。


「エリオラ、イヴァロン。これからは一緒にいるんだから、喧嘩しないように」


「ん」


「むぅ……仕方ない。仲良くしてやるのだ」


 イヴァロンがずいっと手を差し出す。


「……これは?」


「握手だ。命の恩人、タナトが仲良くしろと言った。なら仲良くしてやるのだ。感謝せよ」


 尊大だなぁ、こいつ。






「いい。バイ菌ありそう」






 …………。


「むきゃーーー! こやつ! こやつぅ! 余は、余は汚くないのだぁーーー!」


 うん、今のは怒っていいわ。

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