外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第4話 ……むーっ!

「……長ぇ……」


 水域が昼と夜で変わってくれてよかった。じゃないと、いくら体内時計が正確だからってここまでずっと昼だと、気が狂いそうになる。


 因みに今は三日目。まだと言うべきか、やっとと言うべきか……とにかく長く感じる。


 何も考えないで釣りだけしてたら、時間なんてあっという間に過ぎるのに……絶体絶命のピンチだと、こうも時間の流れは遅く感じるのか。


 何度もトライアンドエラーを繰り返したが、釣れるのは別の異界の魚やガラクタばかり。くそっ、どうなってんだ。


 もう一度だっ。


 第一異界の海に向かい、《神器釣り竿》を振るう。


「ふかしぎですな」
「おかるとですな」
「きそうてんがいですな」


「お前らのオカルト能力のせいでここに来たんだよ」


「……そーだっけ?」
「そーだったよーな」
「さよかー」
「あえてあやまるです」
「ごめんください」


「あーいい、謝るな」


 と言うかそれ謝ってないだろ、ったく。


 釣れるのは魚、ガラクタ、魚、魚、ガラクタ、ガラクタ、魚。しかも全部異界のもの。


 人竿一体で釣り糸の先を探知しても、元の世界に繋がってる気配はない。ランダムだからと言って、繋がらなさ過ぎる。


 イライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライラ……。


 ……っ……ダメだダメだ。イライラするな、俺。


 釣りはのんびりと、時間をかけてやるんだ。


 釣りは心を穏やかにする。その釣りでイライラするなんて三流だぞ、俺。


 目を閉じ、意識を自分自身から釣り竿、釣り糸、釣り針へと伸ばす。


 スッ……と暗闇に落ちていく感覚。


 そうだ、この感覚だ。大丈夫、のんびり、いつも通りやるだけ……。


 …………。










『────!』










「ん?」


 何だ、この気配?


 再び目を閉じて、更に集中する。


『────! ────!!』


 ……誰だ……?


 エリオラ……じゃない。イライザ、ミケでもない。


 だけど人だ。人の形。大きくない。子供?


 場所は……第六異界。異界に人がいる?


 俺と同じように、精霊の力で巻き込まれた奴か?


「……あっ。た、助けねーとっ」


 もし仮に精霊に巻き込まれたのなら、異界から出られる可能性は限りなくゼロだ!


 釣り竿、釣り糸、釣り針を操作し……引っ掛けた!


「ふぐっ……!?」


 おっ、重……!


「ぐぬぬぬぬぬ……!」


 子供のくせになんて力で引っ張りやがる……! この力、もしかして人間じゃない……魔族か?


 魔族でもいいっ、とにかく助ける!


 集中、集中、集中……!


「人竿一体!」


《神器釣り竿》と俺が一つになり、しなる竿と引きちぎれそうになる糸をコントロール……!


「おっっっりゃああああああ!!!!」


 踏ん張れ俺の豪脚ぅぅぅぅううう!


『────!? ────!』


 来るっ……来るっ、来るっ!


「根性おおおおおおおおおおお!!!!」


 どっっっっぱああああああっっっ!!!!


 釣れたァ!


 宙に舞う人。いや、魔族? それが重力に逆らわず俺の真後ろに落下し、鈍い音を立てた。


「ぜぇっ、はぁっ、ぜぇっ……」


 ……ん? 何だろう、昔同じことがあったような……?


 ……まあいい。とにかく、水の中に引きずり込んじまったんだ。助けないと……。


 振り返ると……そこにいたのは、小さい子供の女の子だ。幼女と言ってもいい。エリオラより小さい。


 漆黒を思わせる髪。服が水で張り付いてるから分かるが、かなりの残念ボディ。でもそれを隠すかのような豪華絢爛な赤いドレスに、身の丈に合わない大きなマント。


 そして、エリオラにもイライザにもロゥリエにもなかった……側頭部に生える、羊のような角。


 気絶してるとは言え絶世の美女……いや美幼女だ。まさしく、人間離れしている。


 こいつは、間違いなく人間じゃない。


「ほー」
「まぞくさんですな」
「しんでます?」
「いきてます?」
「へんじがありませぬ」
「ただのしかばねのようです」


 精霊が女の子の周りに集まって、てしてしと体を叩く。それでも反応がない。


 ……生きてはいる、みたい?


 こいつ、どうしよう……?


「…………っ」


 ……息はある、な。


 それにしても、何で魔族がこんな所に……。


「にんげんさん、にんげんさん」
「どーします?」
「しょーじょのにくです」
「やわらかそーですが」
「たべるです?」


「食べねーよ! 人を人肉主義者カニバリスト扱いするな!」


 今にも餓死しそうになっても、それだけは絶対にダメだ!


「……ぅ……ぅ……?」


「っ……お、起きた、か……?」


 幼女の瞳が薄ら開かれる。


 赤い……血のような深紅の瞳だ。


 その目が、ゆっくりと俺を見る。


 まるで吸い込まれそうな、綺麗な赤だ……。


「……っ!」


「ぁっ、おい!」


 いきなり立ち上がるなっ、今まで気絶してたんだから……!


 キョロキョロ、キョロキョロ。警戒するように周囲を見渡し、最後に俺へと目を向けた。


「……貴様、ここはどこぞ? 話すことを許可する」


 異様に高い、甘く、だが刺のある声だな……。


「い、異界だが……」


「……はぁ……まだ、出られておらぬのか……」


 ……何か、大人びた喋り方だな。見た目の小ささと相まって、背伸びしてる子供感が否めない。


「……む? 異界? 貴様人間だろう? 何故異界にいるのだ」


「まあ、ちょっと色々あって……主にコイツらのせいで」


 いつの間にか俺の肩に乗っている精霊が、魔族の幼女に向かって手を振っている。


「……それは、幻の精霊族か。なるほど、異界渡りに巻き込まれたのだな。不憫な人間だ」


 不憫というか、こんなことになるなら行かなかったわ……。


「だがよくやったぞ人間。余を極寒の地から連れ出したのだ。褒美を取らす。貴様は何を欲す」


「…………」


 ほんっっっと、偉そうだな、こいつ……。


 ……まあいい。俺はこいつに構ってる暇はないんだ。


 幼女に背を向けて、再び釣り竿を振るう。


「む? 貴様、余を無視するか?」


「…………」


「無視するでない。殺すぞ」


「…………」


「……おい、聞こえておろう。無視するな」


「…………」


「……むーっ!」


「ほげっ!」


 せ、背中っ、鈍痛……!


「げほっ、げほっ……な、何だ……よ……」


「ひっぐ……えぐっ……む、むじずるなぁ……! ひ、ひさしぶりにっ、にんげんにあっだのだぁ……! 会話っ、お、おはなじっ、ずるのだ……お話しっじだいのだ……びえええええええええんッッッ!!!!」


 え……ええ……泣き出したよ、この子……。


 本当……何なんだよ、こいつ……。

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