外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第2話 諦めない

   ◆◆◆


「タナト! タナトぉ!」


「タナトしゃあぁん……どこ行ったのぉ……!」


 エリオラちゃんが森の中を走り回り、タナトを呼ぶ。


 エミュールちゃんも涙を流してタナトの姿を探す。


 かく言う私も、レニーに乗ってイライザちゃんと一緒に上空から森を見下ろしていた。


 全く、どこ行ったのよあいつ……!


「イライザちゃん、見える?」


「全然なのだわっ。それどころか気配も……!」


 一緒に旅してたから分かるけど、エリオラちゃんとイライザちゃんの気配探知は本当に凄い。どんなに小さい気配でも、一瞬で見つけ出す。


 それなのに、タナトの気配が見付けられないなんて……。


 一旦地上に降りると、エリオラちゃんとエミュールちゃんも戻って来た。


「タナト……どこ……どこ行ったの……」


 ……あのエリオラちゃんが、こんなに動揺してるなんて……。


 何なのこれ……どういうことなの……?


 っ……落ち着いて、私。そう落ち着くのよ。皆が動揺してる今、騎士である私がしっかりしなきゃ……。


 すーーー……はぁーーー……。


「あー……」
「これはあれですな」


 ……ん? 精霊さん?


「だいとーりょー、きえたですな」
「じつにきょーみぶかいげんしょー」
「つぎのだいとーりょーきめるです?」
「だいとーりょーせん、するです」
「りっこーほするです」
「おひとりさまです?」
「けってーです」


「「「「わー」」」」
「「「「ぱちぱちぱちー」」」」


 ……大統領……族長のことよね? え、族長も消えた?


「ねぇ、あなた達の族長も消えたって本当?」


「ここにいますが?」


 本当に決まったのか、一人の精霊さんが帽子を被って手を挙げた。


「そうじゃなくて、あなたの前の族長よ。消えたって言ってたじゃない」


「……いった?」
「さあ?」
「いったよーないわないよーな」
「まえっていつ?」
「きのー?」


 こ、この子達、マジで忘れてる顔してるわ……。


「ミケさん、深く考えちゃダメだよ。精霊さんのは忘れっぽいの。三歩歩いたら忘れるわ」


「ニワトリか!」


 って、今はそんなこと言ってる暇はない……!


 何で……どこ行ったのよ、タナト……!


『……これはちょいと不味いかもしれん』


「ルーシー、分かるのっ?」


『う、む……エリィも、皆も落ち着いて聞くのじゃ』


 ルーシーはふよふよと浮かぶと、月明かりを妖しく、悲しげに反射する。


『今、エリィを介して全世界へ探知魔法を展開した。その結果──タナトは、現界にいないことが分かった』


 ……ぇ……現界、て……この世に……?


「ま、まさか……死……!?」


『否。その場合、生物は死特有の気配を出す。そうではなく……いきなり、唐突に、この世界からタナトの気配が消えたのじゃ』


 ……どういうこと……? そんなことが起こりうるの……?


『イライザ、お主は心当たりがあるのではないか?』


「……え、いや……そんな、まさか……それじゃあ……!?」


 イライザちゃんの顔が動揺で歪む。


「イライザちゃん、何か知ってるの……!?」


「……この現象……昔、感じたことがあるのだわ。……お姉ちゃんがイヴァロンに封印された時と同じ感じ。一瞬にしてこの世界から気配が消えた、あの時の……」


 ぇ……確かエリオラちゃんが封印された場所って……!


『うむ、ミケも察した通りじゃ。──もしかしたらタナトは、異界に飛ばされたのかもしれぬ』


 ────。


 異界。エリオラちゃんでさえ、自力で出ることの出来なかったこの世界とは隔絶された場所。


 何でそんな場所に、なんて今はどうでもいい。


 問題は、絶対的な力を持つエリオラちゃんが、出られずに三〇〇〇年も封印されていたという事実だ。


 もし本当にそんな場所にタナトがいるのだとしたら……。






 タナトはもう、二度とここには戻って来れない。






「…………っ」


 絶望。


 これをそう言わずになんというのか。


 こんなの、もうどうすることも……。










「諦めない」










「ぇ……エリオラちゃん……?」


 今まで動揺していたエリオラちゃんが、凛々しい顔付きで私達の顔を見渡す。


「タナトが異界にいるのなら、可能性はゼロじゃない。私は、諦めない」


「で、でもお姉ちゃん。異界から出てくる手段は……」


「ある。絶対ある」


 今まで見たことないほど、エリオラちゃんの目は真剣そのものだ。


「……私はタナトが好き。この世で一番、タナトを愛している」


 自分の胸に手を当てて、そっと目を閉じた。


「……愛するタナトのためなら、私はなんでもする。タナトと一緒にいれるなら、私の全てを差し出してもいい。──私は、大切な人を失いたくない」


 …………。


「……なら決まりね。私だってタナトを思う気持ちは同じよ。……何がなんでも、絶対に助け出す」


 待っててね。タナト……!

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