外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第8話 跪け性悪女

「いらっしゃいませ、装備屋エミュールへようこそ!」


 おぉ……エミュールの奴、めちゃめちゃ元気だ。やっぱり昨日は休んで正解だったな。


 それに元気なだけでなく、装備を見る目がイキイキとしている。一日装備から離れてただけでこれ程とは……よっぽど装備に飢えてたんだな。


 だけど、俺達もいつまでもここにいる訳にはいかないしなぁ……頃合いを見てエミュールに言わないと。


 次、どこ行こうかなぁ……観光地か、工業都市か……後でみんなに聞いてみよう。


 これからどうするか頭の中で考えてると、店の中が妙にザワついた。


「おい、あれ……!」
「ま、間違いねぇ……!」
「美しすぎるわ……」
「何でここに……噂を聞いてきたのか……?」


 ……何だ? 誰か来たのか?


「いらっしゃいま……せ……」


 店の奥から顔だけ出すと……う、わ……めっちゃ美人……。


 まるで天女と見間違う程の美しさを持つ女性が、店中の視線を一身に集めている。


 美しい金髪に、同じく金色の瞳。


 切れ長の目から伸びるまつ毛のなんと長いことか。


 それに動き安さを重視してるのか、体にフィットしたシンプルな服を着ている。そのせいで完璧過ぎるプロポーションが際立つが、それが下品と思わせない気品溢れるオーラを醸し出していた。


「……む?」


 うっ、目が合った。


「おぉっ、タナト君! 久々だなぁ!」


 ……あれ、この声……。


「……あ、レヴァイナス?」


 宮廷騎士団団長レヴァイナス。ミケの上司で、俺達とも少なからず縁のある相手だ。


「……何故疑問形なのだ。私達の仲だろう」


「剣を突き付けられて人質にされた記憶しかないんだが……」


「その節は本当にすまなかった。許してくれ」


 軽いなこの人……。


「……それにしても、私服姿は初めて見るな」


「似合っているか?」


 くるっと回ると、ブロンドの髪が弧を描いた。


 ライトの反射する煌びやかな髪と、周囲を虜にする流し目と妖艶な微笑み。こいつ、こんな顔も出来たのか……。


「…………」


「……タナト君?」


「っ……まあ、あんたの雰囲気には合ってると思う」


「ふふふ、ありがとう」


 などと軽く話していると、周囲のザワつきが大きくなった。


「なっ、何だあの店員は……!?」
「レヴァイナス様と親しげに話してるぞ……!」
「くそ羨ましい……!」
「滅びろ……」


 えぇ……何でそんな恨みがましい目で睨まれなきゃならないの……。


 だがレヴァイナスは周りの目も気にせず、俺と会話を続ける。


「君がいるということは、ミケもいるのか?」


「ああ。ミケとエリオラとイーラは、店の奥で作業してる。会ってくか?」


「ああ、後でな。今は先に装備を見せてもらいたい」


「なら俺よりエミュールに聞いてくれ。連れて来るから」


 アホみたいに惚けていたエミュールの手を引っ張ってレヴァイナスの前に連れてくると、ようやく現状を理解したのか慌て始めた。


「ちょっ、えっ。私っ、ですか!?」


「俺、装備とかアイテムに関しては分からないし。こいつの相手頼むわ」


「こ、こいつっ、て……きききき騎士団長様のっ!? む、むりっ、むりですぅ……!」


 ……何でそんな涙目になるんだよ。騎士団長でも、今はただの客だろ。


「き、騎士団長様はこの都市全員の羨望の的……! とても私みたいな下賎な一般ピーポーが御相手するような方では……!」


「羨望の的だなんて、面と向かって言われると照れるな……」


「ヒイィッ! しゅみません、しゅみませんっ!」


 頬を掻いて照れるレヴァイナスに、全身が震えてペコペコと謝るエミュール。何このカオスな空間……。


「すまない店長さん。ここならどんな装備でも揃うと聞いたんだが……」


「は、はひっ、その通りでございますですっ」


 …………。


 ございますです……?


「エミュール落ち着け。テンパり過ぎだ」


「ぁぅ……」


 全く……。


「悪いな、こいつ緊張してるみたいで」


「はははは! 構わないさ。私と話す者は大抵こうなる」


 お? 自慢か? 自慢なのか? 殴っていいか? 女だからって容赦しないぞ? 返り討ちに遭うだろうけど……。


「いや何、大したことじゃないんだが、ちょっと商品について聞きたいことがあるんだ」


「は、はぁ……?」






「ここの装備はどこで仕入れてるんだい?」






 ゾワッ──。


 はは……そう来ますか。勘が鋭い奴め……。


 他人を圧死させるような完全無欠の微笑み。多分この笑みで、犯罪者を問い詰めたりしてるんだろうな……本人にその自覚はないだろうけど。


「え、と……あの、その……」


 おいバカこっち見んな……!


「む? タナト君がどうしたのかな?」


「へぁ!? な……にゃんでも、ないでしゅよぉ〜」


 噛みまくってる上に惚けるの下手すぎだろこいつ……。


「ふむ……タナト君は何か知ってるかな?」


「え、俺?」


「うむ。見たところ君もこの店で手伝っているんだろう。何か知っているのではないか?」


 チッ、本当に鋭いな……!


 どうする……どうす──。


「あれ、騎士団長? どうしてここに?」


「む、性悪女……!」


 ぁ……ミケ、エリオラ……!


 店の奥から装備を運んで来た二人。これはチャンスだ……!


「レヴァイナス、ここじゃ何だし奥で話す。すまんミケ、少しの間店番の方頼めるか?」


「え? いいけど……」


「ありがとう」


 エリオラ、エミュール、レヴァイナスを連れて店の奥に入る。


 さて、話し合わせてくれよ二人共。


「実はここの商品は、全部エリオラの力ありきなんだ」


「……エリオラ様の?」


 レヴァイナスがエリオラを見るが、エリオラはキョトンとした顔で俺を見上げた。


「な、エリオラっ?」


「……! そう、私の力。跪け性悪女」


 よかった、察してくれたか……!


「なるほど……確かにエリオラ様の力を考えれば、ここまでの装備やアイテムを揃えられるのも頷けるな。謎が解けてスッキリしたよ」


 ほっ……よかった、納得してくれた……。


「それで、これからが本題だ」


 げっ、まだ何か……?


「そんな面倒くさそうな顔をするな、タナト君。……三日後なのだが、すまないがこの店を貸切にさせてもらえないか?」


「……貸切?」


「ああ。とあるお方がこの店に興味があるらしくてな」


 ……とあるお方……誰だ?


「た、タナトさん、どうしよう……?」


「俺に聞くなよ……ただ、騎士団長のレヴァイナスが畏まる程の奴だ。恐らく拒否権はないと考えた方がいい」


 となると、貴族か大商人かそこらだろうな。面倒だが、対応するしかない。


「そっか……わ、分かりました。その御要望を受けます」


「感謝する。では三日後、よろしく頼むぞ」


 レヴァイナスは頭を下げて店を出る。俺とエミュールも一応外まで見送りに出た。


「今日はすまなかった。後日、プライベートで何か買わせてくれ」


「は、はひっ、お待ちしています……!」


 お前、まだ緊張してんのか。


「……あ、レヴァイナス。そのとあるお方ってのは誰なんだ? 貴族か?」


「いや、もっと天上のお方だ」


 ……もっと天上のお方……? 貴族よりも……?


 ……え、それって……まさか!?


「お、王族……!?」


「……ぇ……?」


「ふふふ。ではな」


 ちょっ、おまっ、せめて正解かどうか答えてくれよ……!?


「え、エミュール、ヤバいぞこれは。……エミュール?」


「…………」


 ……立ったまま気絶してやがる……。


 これ、どうするよ……?

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