外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第6話 俺、何かやったのかな……?

「完全復活ッッッ!」


 お、ようやく起きたか。


 今はもう深夜。店仕舞いをして明日の準備をしているところに、エミュールが起きてきた。


 目の下のクマも少しよくなってるな。あの香水が効いたみたいでよかった。


「大分スッキリした顔をしてるわね、エミュールさん」


「よく眠れたみたいで良かったのだわ」


「いやー、ご迷惑をおかけしてすみません」


 エミュールはペコペコと平謝りをすると、俺に目を向けてきた。


「タナトさん、ごめんなさい。こんなに自分が疲れてたなて思わなかった。確かに私、急ぎすぎてたかも……次からはもう少し自分の体調と相談してやって行くわ」


「ああ。ここでぶっ倒れたら元も子もないからな」


「うんっ。でももう回復したし、明日からまたバリバリと働くわ!」


 ……こいつ、なんも学習してねーじゃねーか。


 ったく、ここは一発男女平等チョップを……。


「待つのだわ、エミュールちゃん」


 軽くチョップの素振りしていると、イライザがエミュールを止めた。


「エミュールちゃん。明日は思い切って休みにした方がいいのだわ。今からじゃエミュールちゃんも眠れないだろうし、このままじゃまた今日と同じことになりかねないのだわ」


「うぐっ……で、でもせっかく流れに……」


 何か言いたげなエミュール。だが俺と目が合うと、「ぁ……」と呟いて見つめてきた。……何だよ?


「……そ、そうですねっ。明日は休みにします! 皆さんもお疲れでしょうし、ゆっくり休んでください!」


 よかった……思い留まってくれたか。


 流石に俺達も疲れが溜まってたから、明日は思う存分釣りをしよう。リフレッシュには釣りが最適なのだ。


 どうせなら、エリオラに送ってもらって久々に湖で釣りしようかなぁ。


 頭の中で明日の計画を立てていると、エミュールが不安げな目で俺を見てきた。


「た、タナトさん、これで大丈夫ですか……?」


「え? ああ、いいと思うぞ」


「ほっ……」


 ……何故俺に聞く?


「……タナト、何かやらかしたの? エミュールさん、怖がってるじゃない」


「いやぁ……?」


 エミュールが休む前は、特にそんな様子は見られなかったが……俺、何かやったのかな……?


 首を傾げてエミュールを見てると、慌てたように顔を背けて店の奥に入っていった。


「……解せぬ」


   ◆◆◆


 翌朝。今日はエミュールの宣言通り休みになり、店前には休みのお知らせを掲示した。そのお陰で店の中は、久々の閑散とした空気が流れている。


「……静かねぇ……」


「まあ店が休みだからな。エミュールも、今日は好きなことやって過ごすといい」


「好きなこと……装備屋……」


「それ以外で」


「むぅ……」


 腕を組んで真剣に悩んでるが……。


「装備屋以外やることないのか、お前は」


「お兄ちゃん、ブーメランなのだわ」


 ……そういやそうでしたね、てへ。


「……やっぱり留守番してるわ。超激レア装備ばかり扱ってるから、誰かいないといけないし……」


「ああ、それなら心配ない。イライザが結界魔法を張ったから、外からの侵入は誰も出来ないぞ」


 イライザの頭を撫でると、嬉しそうに目を細めて擦り寄ってきた。


「えぇー……うーん……あっ、それなら釣りをしてみたいわ!」


「……何と?」


「私の好きなものばかり皆に手伝ってもらってるし、私も皆の好きなことやってみたい!」


「すぐ行こうすぐやろう!」


 釣りに興味が湧くなんて、こやつ中々見所があるな!


「……あれ? そう言えば、エリオラさん達が好きなものってなんですか?」


「タナトとエッチ」


「お兄ちゃんに孕まされることなのだわ」


「レニーに乗ったり、タナトに乗……ななななんでもないっ」


「欲望の坩堝!?」


 おい馬鹿やめろ。誤解、誤解だからそんなゴミを見るような目で見るな。


「エリオラ、悪いけど早速湖に転移してくれ」


「ん」


 エリオラがフィンガースナップで音を鳴らすと、周りの景色が歪み、次の瞬間には見慣れた湖に変わった。


「あ、タナト。久々にレニーを思い切り走らせたいから、白部屋から出してくれる?」


「お、分かった」


 確かに、最近レニーを外に出してなかったな。不貞腐れてなければいいんだが……。


《虚空の生け簀》への穴を開くと、レニーが元気よく外に飛び出して来た。


「あはっ、レニー元気いっぱいね!」


 確かに、思ったよりも元気そうでよかった。


 ……ん? 何で俺の方に来るんだ……?


 レニーが俺の方に来るので頭を撫でてやると、耳元で小声で喋りだした。


『(タナトさん、もうちょっと私を気にかけてくれないと、寂しいです……)』


 ……す、すんません……。


 やっぱり、かなりフラストレーションが溜まってたみたいだな……これからは定期的に外に出してやろう。


「? レニー、どうしたの? さあ、今日はいっぱい走るわよ!」


「ヒヒーーーンッ!」


 ミケがレニーに飛び乗ると、レニーの足から黒い雲を噴き出して天高く走り出した。


 二人共、楽しそうだなぁ。


「じゃ、早速俺達も釣りするか」


 俺は昔から使ってる馴染んだ釣り竿を、エリオラとイライザにも釣り竿を渡し、エミュールにはスペアの釣り竿を渡した。


「エミュールは、釣り自体はやったことあるか?」


「ないわよ。ずっと装備とかアイテムに触れて育ってきたんだもの」


「なら基礎からだな。こっち来い」


 エミュールを俺の隣に座らせてスペアの釣り竿を渡すと、軽く構造から説明した。


「「じーーーーー……」」


「……エリオラ、イーラ。何だよ?」


「エミュールばかりずるいっ」


「私も構って欲しいのだわっ」


「後でな」


「「むぅ〜っ」」


 むくれてもダメ。


「……ふふ。タナトさんは、二人に愛されてるのね」


「愛され方が変態的だがな……」


「でも、あなたを信頼してなきゃ出来ないやり取りよ。……信頼出来る人が傍にいて、エリオラさんとイーラさんは幸せ者ね」


 ……エミュール……。


 エミュールの横顔が何となく憂いを帯びていて、突っ込んだことは聞けないが……思うところがあるんだろうな……。


「……信頼関係はともかく、俺にとってはエミュールも立派な仲間だ。何かあれば遠慮なく頼ってくれよ」


 特にガラクタ処理先として。


「タナトさん……うんっ、ありがとう」


 目に涙を溜めて微笑むエミュール。そんな感動するようなことは言ってないんだが……まあいいや。


「さて、今日は釣って釣って釣りまくるぞー!」


「おー!」

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