外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第14話 昔半殺しにした

「……なあ、エリオラ」


「何?」


 いや、何じゃなくてだな……。


「どいてくれません?」


「やだ」


 即答かよ。


 俺が風呂から出ると、エリオラはずっと俺の膝の上に座って動かない。


 しかも、所謂だいしゅきホールド。胸がムニュムニュするから、意識を散らすのに必死なんだよ……。


「タナトがあのおっぱいの所に行かないように見張ってる。くんかくんか、すーはーすーはー」


「いや行かないからっ。あと匂い嗅ぐなっ!」


 この格好で匂い嗅がれると恥ずかしいんだよ……!


「ぁ……ぅ……ぅぅぅ……!」


「……イライザ? お前もどうしたんだ?」


「ぇぅ……しょの……」


 ……? こいつも、エリオラが俺の膝の上に座ってから様子がおかしいな。これもルーシーの言ってた、不安定で危うい状態ってやつなのかね……。


「イライザもタナトの匂い嗅ぐ?」


「ふぇっ!? ち、ちちちちち違うのだわっ! 違うのだわぁーーーーーー!」


 顔どころか首まで真っ赤にしたイライザは、回れ右をして自分の部屋に飛び込んだ。


 分かってる。分かってるが、そこまで全力で否定させると結構悲しいぞ……。


「シャイなイライザも可愛い」


「シャイという訳じゃないと思うが……」


 むしろ嫌われてるような……?


 ……まあ、今はそこを気にしても仕方ない。


「エリオラ、ロゥリエについて詳しく教えてくれないか? 過去にどんなことをしたのかとか。お前達が警戒するってことは、相当ヤバい奴なんだろ?」


「ん。あいつはヤバい奴」


 ……エリオラがここまで言うなんてな……俺、よく見逃して貰えたな……。


 ロゥリエの破滅的な目を思い出して、身が震える。何であいつがあんな目をしてたのか、今なら分かる気がするな……。


 それを察したのか、エリオラが俺の背をとんとんと叩き、ルーシーが浮かんで話しかけて来た。


『ロゥリエ・ウンターガングは、混沌と破壊派の中でも過激派じゃ。異名は狂乱。狂乱の魔女ロゥリエと言えば、かつてはかなり有名じゃった』


 異名持ちの魔族って……えぇ、俺そんなのと楽しく釣りしてたの……?


「安心して、タナト」


「何をどう安心しろと……? 俺、あいつに目を付けられてるんだけど」


「大丈夫。私が守る」


 ……エリオラ……そう、だよな……エリオラっていう最強の味方がいるんだ。何もビビることは無い……はずだ。


「ねぇ、皆を守るのは私の役目なんだけど、忘れてない?」


「今回はミケには荷が重い。これはマジ」


『ミケよ。エリィの言う通りじゃ。お主はウチらの護衛で付いてきてはいるが、ロゥリエだけはウチらに任せるのじゃ』


「ぐぬぬ……!」


 ……ミケって確か、騎士団長にも認められてるくらい強かったよな……? それなのに荷が重いって、ロゥリエってどんだけ強いんだ……?


「……なあ、今すぐにでもアクアキアから出た方がいいんじゃないか?」


「私もそう思うわ。そんな奴がここにいるなら、アクアキアを離れた方がいい」


 俺とミケが提案すると、エリオラが首を横に振った。


「もしロゥリエが本物なら、あいつのしつこさは異常。タナトが狙われたのなら、あいつはどんなことをしてでもタナトを追い掛けてくる。狂い乱れたストーカー。それがロゥリエ」


 ……なんてこった……何で俺、そんな奴に目を付けられたの? 洒落にならないんだけど……。


「待って。何でそんな魔族が、タナトに近付いてきたのかしら? 何か理由があると思うんだけど……」


 ミケの疑問に、エリオラも首を傾げる。


「……分からない。確かロゥリエは鼻がよかったはず。私かイライザの匂いを嗅いで、タナトに近づいてきたのかも……?」


「でも、別に二人のことは何も言ってなかったぞ?」


「数千年も時間が経ってるし、多分忘れてるんだと思う。私の匂いを覚えてたら、タナトにちょっかいは出さないはず」


「何で?」


「昔半殺しにした」


 怖い! 真顔でそんなこと言うエリオラ怖い!


「だから安心して。タナトにちょっかいは出させないから」


「……ありがとう、エリオラ」


 何だか分からないけど、エリオラが安心してって言うと、少し気持ちが楽になる。


 それなら、大丈夫……かな……?


   ◆◆◆


 水の都アクアキア。


 その都市部から外れた郊外にて、廃墟となっている建物に二つの影があった。


「狂乱の。どういうことだ?」


 ローブを纏った一つの影が、白いワンピースを着ている女……ロゥリエに問いかける。


 明らかに苛立っているような声色。だがロゥリエは何処吹く風と聞き流していた。


「聞いているのか、狂乱の」


「チッ……はぁ、何ですの?」


「何故行動に移さない。予定では今日中だったはずだ。予定を崩すな。全ては予定通りに行わなければならない」


「予定予定予定うるっせーんですの。黙りやがれですわ」


 ロゥリエの破滅的な目とローブから見える暴虐的な目が交錯し、二人を中心に目に見えない圧が広がる。


 部屋の片隅に落ちている鉄屑がひしゃげ、壁にはヒビが入り、腐りかけの木の椅子が粉々に砕け散った。


「まさか、貴様とあろう者が怖気付いた訳ではあるまい?」


「勿論ですわ。……まあ、ちょっと今日は……」


 ロゥリエは今日たまたま会った青年のことを思い出し、狂気に満ちた笑みを浮かべる。


「……平和を楽しんでおりましたの。これから壊れ、滅び、崩れる……仮初の平和を」


 興奮に身を震わせ、頬を朱色に染めたロゥリエは、自身の体を抱き締めてヨダレを垂らす。


 その姿はまるで、餌のお預けを食らっている野獣のようであった。


「あぁ……あぁ、あぁっ、あぁっ! 平和な世界で生まれ育ったあの方の顔が絶望に歪み、この世の平和が全て無かったことになると思うと……とても愉快! 痛快! 愉悦! 悦楽! アァ〜〜ッ、快ッッッ感!♡♡♡」


「……狂者め」


 長年共に行動しているが、ロゥリエのこの性癖には同調し難いものがあった。


「あぁ〜ん? 何を今更。だって私──狂乱ですもの♡」


「……まあいい。だが失敗は許されないぞ、狂乱の。全ては我らが悲願のため」


「はいですの〜。うぜーからさっさと消えろ」


「……ふん」


 密閉となっている部屋に一陣の風が吹くと、ローブ姿の影は跡形もなく消え、部屋にはロゥリエだけが残った。


「……それにしても、タナト様から匂ったあのいけ好かない香り……どこかで……? まあいいですわ。待っててね、タナト様。直ぐに会いに行きますわ♡」

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