外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜
第13話 早く会いとうございます
「こ、こうですのっ、タナト様?」
「そうそう、上手いぞ」
ほぅ……中々筋があるな、この人。釣り竿の動きで、上手い具合に魚を誘導出来てる。
「ロゥリエさん、本当に初めてか? ここまで最初から上手い奴、俺の知り合いに一人か二人いるくらいだぞ」
「ふふふ、タナト様の教え方が上手なお陰ですわっ。……あっ、また引いてますわっ!」
大きくしなる釣り竿。これは結構デカいぞ。
「わっわっわっ……! た、タナト様っ、どうしたら……!?」
「落ち着けロゥリエさん。こういう時は竿を引いて、緩めて、また引いてを繰り返すんだ。魚の体力を削るのがポイントだぞ」
ロゥリエさんは言われた通りに竿と糸を巧みに動かし、魚の動きを制御しながら耐力を削る。
この動き……まさかとは思うが……。
「なあ、もしかしてそれ、俺の動きを真似してるのか?」
「は、はいっ。あちら側で見てた時に、こういう感じでやってたと思ったので……」
……マジか。俺、素人目には絶対分からないように動かしてたつもりだったけど……何者だこいつ……?
「タナト様、どうかされましたか?」
「……いや、何でもない。……あっ、ロゥリエさん、今だ!」
「は、はいっ。えいっ!」
お……おおっ! 一メートル級のブルーフィッシュだ!
「やりました! やりましたわ、タナト様!」
「ああ、やったな」
ロゥリエさんと軽くハイタッチをする。本当、楽しそうに釣りするな。
「さあコツは分かったろ? あとは実践だ」
「はいっ!」
◆◆◆
「ぷはぁ……満、足♡」
結局、今日一日かけてロゥリエさんと釣りを楽しんだ。こんなに楽しんで釣りをする人はそうそういないから、何だかんだで俺も楽しかったな。
俺もエリオラも粛々と釣りをするタイプだったから、こういう人は新鮮だった。
「凄く沢山釣れましたわ。これどうするんですの?」
「この釣り堀は、釣った魚を隣接した食堂で食べるか、買取をしてくれるんだ。どうする? 食べる?」
「んー……いいですわ。私は釣れただけで満足です。……もう日が暮れますのね……」
見ると、世界の終わりを告げるかのような灼熱色の夕日が、俺達を燃やし尽くすように照らしている。
本当、飯も忘れて釣り三昧な一日だったな……。
「……ねえ、タナト様。タナト様には、魔族のお友達がいますか?」
「何だ突然」
「答えてください」
柔和な笑みを浮かべて俺を見るロゥリエさん。
だがその瞳は……さっきと同じ、どこを見ているのか分からない、破滅的な目をしていた。
「……まあ、二人いるが……」
「やっぱり! そんな匂いがしましたわ!」
……何だ、こいつ。何が言いたいんだ?
ロゥリエさんは立ち上がると、夕日をバックに俺へと振り返る。
「タナト様。この世界に不満はありますか?」
「……は? 不満?」
「ええ。どうです?」
不満……不満か……。
「ぶっちゃけ、俺は釣りさえ出来たらこの世界はどうでもいい」
「そう言うと思いました」
楽しそうに笑うロゥリエさん。
俺の答えに満足したのか、くるっと回って俺に背を向けた。
「ではタナト様、私は行きますね」
「えっ。お、おいっ」
「また会えますよ。近いうちに、必ず。……それでは」
いや何颯爽といなくなろうとしてんだこいつ。
「そうじゃなくて、自分の釣った魚くらいどうにかしろ」
「あ……ぇ、えへへ……あ、あの……一緒に売りに行ってくれます?」
「……はぁ、いいよ。行こうか」
「えへへぇ〜。ありがとうございます」
◆◆◆
ロゥリエさんと魚を換金し、少しの金を手にした俺は、ロゥリエさんと別れて人気のない裏路地へ向かい、そこから《虚空の生け簀》へと移動した。
かなり潮風を浴びたから、まずは風呂にでも……。
風呂に入ろうと馬車に乗り込むと、ミケが慌てた様子でリビングにいた。
「ミケ、どうしたんだ?」
「た、タナト、丁度いいところに! ちょっとこっち来て!」
「え? あ、ちょっ……!」
ななな、何だよっ……!?
ミケに連れていかれのは、エリオラの部屋。その中に入ると、何だか見慣れない巨大ミノムシが転がっていた。
「シクシクシクシク……うぅ〜……たなとぉ……」
「お、お姉ちゃん、落ち着くのだわっ。もう直ぐお兄ちゃんも帰ってくるのだわっ」
……あ、これエリオラ?
「おい、イライザ」
「あっ、お兄ちゃん!」
「! たなとぉー!」
うおっ!? ミノムシ状態で立ち上がるな、気持ち悪いっ!
「エリオラちゃん、タナトが出掛けてから目が覚めたんだけど、ついていけなかったってずーーーっと落ち込んでたのよ……」
ああ、なるほどそれで……。
エリオラは布団にくるまりながらピョンピン跳ねて近付いてくる。
「たなとっ、たなとっ……! おかえり……!」
「あ、ああ。ただいま」
ここまで懐かれると、おいそれと一人で外出も出来ねーな……。
「たな……ん? すんすん、すんすん」
え、何? 何で俺の匂い嗅いでるの?
「……臭う……」
「えっ、そんなに臭うか……?」
まあ、今日一日潮風に当たったり、魚と戯れてたからなぁ……。
「違う、そうじゃない。これは……メス魔族の匂いっ」
ギクッ。
「しかもおっぱいデカい……!」
ギクギクッ。匂いで分かりすぎじゃない? てか、あの人魔族だったの……?
「タナト……浮気……?」
「ち、違う。浮気なんてしてないっ」
と言うかそもそも浮気をする仲じゃないだろっ。
「お兄ちゃん……お姉ちゃんというものがありながら、最低なのだわ……」
「そんな奴だったなんて思わなかったわ……」
お前らも入ってくるな、ややこしくなる!
「安心して、タナト。私は浮気には寛容。私が正妻である限り、どこの誰と寝てもいい」
胸を張って余裕を見せるエリオラ。これは助かった……のか?
「……でもタナト。こっちに来てそんなに経ってないのに、もう女の人と仲良くなったの? あんた、そんなスケコマシだった?」
「だから違うって……確かに女だったが、俺が釣り堀で釣りしてたら教えてくれって言うもんだから、教えただけだ」
「名前は?」
「確か……ロゥリエ・ウンターガング」
だったっけ?
その名前を口にすると、エリオラとイライザの目が見開かれた。
「……嘘……」
「本当なの、お兄ちゃん……?」
「え? ああ、多分……」
……どうしたんだ、二人して?
『タナトよ。そやつ、髪と瞳の色が緑ではなかったか?』
「ああ、その通りだ」
『……何てことじゃ……』
……ルーシーまで、何深刻そうな感じを出してんだよ……。
『生き延びたにしろ、転生体にしろ、これはちとまずいぞ。エリィ、イライザ』
「うん、分かってる」
「っ…………」
……俺とミケ、置いてけぼりでござる。
「……タナト、これからは一人で外に出ないで」
「ちょ、ちょっとエリオラちゃん。どうしたのよ、本当に」
「……ロゥリエ・ウンターガング。それが本当なら、三〇〇〇年前の魔族でイヴァロンの部下。混沌と破壊派の魔族で──正真正銘の悪」
◆◆◆
草木も眠る丑三つ時。
誰もいない裏路地で、女は踊るように歩く。
「はあぁん……素晴らしい……素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい……素晴らしいですわぁ♡」
恍惚な笑みを浮かべ、艶かしい吐息をつく女は、狂ったように呟く。
「この世に幸せと平和しか知らない殿方……あぁ、彼の顔を絶望に歪められたら、どれ程の快楽を得られるのでしょうか……♡」
まるで三日月のように釣り上がる口角を隠すように、顔を両手で覆い隠して蹲る。
丁度そこに通りかかった酔っ払いが、スライムのように潰れた女の胸を見て足を止めた。
「お? 姉ちゃん、どうしたんだい? 俺が休憩出来るとこ──」
言葉は続かなかった。
まるで、全身を何かに穿たれたように蜂の巣になった肉塊が、裏路地に転がる。
「何も持たないゲボが話しかけて来んじゃねーよ。ぁぁ……早く、早く会いとうございます──タナト様」
女は歌うように嗤い、闇の中へと溶けていく。
裏路地に残ったのは、何も言わぬ死体だけだった。
「そうそう、上手いぞ」
ほぅ……中々筋があるな、この人。釣り竿の動きで、上手い具合に魚を誘導出来てる。
「ロゥリエさん、本当に初めてか? ここまで最初から上手い奴、俺の知り合いに一人か二人いるくらいだぞ」
「ふふふ、タナト様の教え方が上手なお陰ですわっ。……あっ、また引いてますわっ!」
大きくしなる釣り竿。これは結構デカいぞ。
「わっわっわっ……! た、タナト様っ、どうしたら……!?」
「落ち着けロゥリエさん。こういう時は竿を引いて、緩めて、また引いてを繰り返すんだ。魚の体力を削るのがポイントだぞ」
ロゥリエさんは言われた通りに竿と糸を巧みに動かし、魚の動きを制御しながら耐力を削る。
この動き……まさかとは思うが……。
「なあ、もしかしてそれ、俺の動きを真似してるのか?」
「は、はいっ。あちら側で見てた時に、こういう感じでやってたと思ったので……」
……マジか。俺、素人目には絶対分からないように動かしてたつもりだったけど……何者だこいつ……?
「タナト様、どうかされましたか?」
「……いや、何でもない。……あっ、ロゥリエさん、今だ!」
「は、はいっ。えいっ!」
お……おおっ! 一メートル級のブルーフィッシュだ!
「やりました! やりましたわ、タナト様!」
「ああ、やったな」
ロゥリエさんと軽くハイタッチをする。本当、楽しそうに釣りするな。
「さあコツは分かったろ? あとは実践だ」
「はいっ!」
◆◆◆
「ぷはぁ……満、足♡」
結局、今日一日かけてロゥリエさんと釣りを楽しんだ。こんなに楽しんで釣りをする人はそうそういないから、何だかんだで俺も楽しかったな。
俺もエリオラも粛々と釣りをするタイプだったから、こういう人は新鮮だった。
「凄く沢山釣れましたわ。これどうするんですの?」
「この釣り堀は、釣った魚を隣接した食堂で食べるか、買取をしてくれるんだ。どうする? 食べる?」
「んー……いいですわ。私は釣れただけで満足です。……もう日が暮れますのね……」
見ると、世界の終わりを告げるかのような灼熱色の夕日が、俺達を燃やし尽くすように照らしている。
本当、飯も忘れて釣り三昧な一日だったな……。
「……ねえ、タナト様。タナト様には、魔族のお友達がいますか?」
「何だ突然」
「答えてください」
柔和な笑みを浮かべて俺を見るロゥリエさん。
だがその瞳は……さっきと同じ、どこを見ているのか分からない、破滅的な目をしていた。
「……まあ、二人いるが……」
「やっぱり! そんな匂いがしましたわ!」
……何だ、こいつ。何が言いたいんだ?
ロゥリエさんは立ち上がると、夕日をバックに俺へと振り返る。
「タナト様。この世界に不満はありますか?」
「……は? 不満?」
「ええ。どうです?」
不満……不満か……。
「ぶっちゃけ、俺は釣りさえ出来たらこの世界はどうでもいい」
「そう言うと思いました」
楽しそうに笑うロゥリエさん。
俺の答えに満足したのか、くるっと回って俺に背を向けた。
「ではタナト様、私は行きますね」
「えっ。お、おいっ」
「また会えますよ。近いうちに、必ず。……それでは」
いや何颯爽といなくなろうとしてんだこいつ。
「そうじゃなくて、自分の釣った魚くらいどうにかしろ」
「あ……ぇ、えへへ……あ、あの……一緒に売りに行ってくれます?」
「……はぁ、いいよ。行こうか」
「えへへぇ〜。ありがとうございます」
◆◆◆
ロゥリエさんと魚を換金し、少しの金を手にした俺は、ロゥリエさんと別れて人気のない裏路地へ向かい、そこから《虚空の生け簀》へと移動した。
かなり潮風を浴びたから、まずは風呂にでも……。
風呂に入ろうと馬車に乗り込むと、ミケが慌てた様子でリビングにいた。
「ミケ、どうしたんだ?」
「た、タナト、丁度いいところに! ちょっとこっち来て!」
「え? あ、ちょっ……!」
ななな、何だよっ……!?
ミケに連れていかれのは、エリオラの部屋。その中に入ると、何だか見慣れない巨大ミノムシが転がっていた。
「シクシクシクシク……うぅ〜……たなとぉ……」
「お、お姉ちゃん、落ち着くのだわっ。もう直ぐお兄ちゃんも帰ってくるのだわっ」
……あ、これエリオラ?
「おい、イライザ」
「あっ、お兄ちゃん!」
「! たなとぉー!」
うおっ!? ミノムシ状態で立ち上がるな、気持ち悪いっ!
「エリオラちゃん、タナトが出掛けてから目が覚めたんだけど、ついていけなかったってずーーーっと落ち込んでたのよ……」
ああ、なるほどそれで……。
エリオラは布団にくるまりながらピョンピン跳ねて近付いてくる。
「たなとっ、たなとっ……! おかえり……!」
「あ、ああ。ただいま」
ここまで懐かれると、おいそれと一人で外出も出来ねーな……。
「たな……ん? すんすん、すんすん」
え、何? 何で俺の匂い嗅いでるの?
「……臭う……」
「えっ、そんなに臭うか……?」
まあ、今日一日潮風に当たったり、魚と戯れてたからなぁ……。
「違う、そうじゃない。これは……メス魔族の匂いっ」
ギクッ。
「しかもおっぱいデカい……!」
ギクギクッ。匂いで分かりすぎじゃない? てか、あの人魔族だったの……?
「タナト……浮気……?」
「ち、違う。浮気なんてしてないっ」
と言うかそもそも浮気をする仲じゃないだろっ。
「お兄ちゃん……お姉ちゃんというものがありながら、最低なのだわ……」
「そんな奴だったなんて思わなかったわ……」
お前らも入ってくるな、ややこしくなる!
「安心して、タナト。私は浮気には寛容。私が正妻である限り、どこの誰と寝てもいい」
胸を張って余裕を見せるエリオラ。これは助かった……のか?
「……でもタナト。こっちに来てそんなに経ってないのに、もう女の人と仲良くなったの? あんた、そんなスケコマシだった?」
「だから違うって……確かに女だったが、俺が釣り堀で釣りしてたら教えてくれって言うもんだから、教えただけだ」
「名前は?」
「確か……ロゥリエ・ウンターガング」
だったっけ?
その名前を口にすると、エリオラとイライザの目が見開かれた。
「……嘘……」
「本当なの、お兄ちゃん……?」
「え? ああ、多分……」
……どうしたんだ、二人して?
『タナトよ。そやつ、髪と瞳の色が緑ではなかったか?』
「ああ、その通りだ」
『……何てことじゃ……』
……ルーシーまで、何深刻そうな感じを出してんだよ……。
『生き延びたにしろ、転生体にしろ、これはちとまずいぞ。エリィ、イライザ』
「うん、分かってる」
「っ…………」
……俺とミケ、置いてけぼりでござる。
「……タナト、これからは一人で外に出ないで」
「ちょ、ちょっとエリオラちゃん。どうしたのよ、本当に」
「……ロゥリエ・ウンターガング。それが本当なら、三〇〇〇年前の魔族でイヴァロンの部下。混沌と破壊派の魔族で──正真正銘の悪」
◆◆◆
草木も眠る丑三つ時。
誰もいない裏路地で、女は踊るように歩く。
「はあぁん……素晴らしい……素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい……素晴らしいですわぁ♡」
恍惚な笑みを浮かべ、艶かしい吐息をつく女は、狂ったように呟く。
「この世に幸せと平和しか知らない殿方……あぁ、彼の顔を絶望に歪められたら、どれ程の快楽を得られるのでしょうか……♡」
まるで三日月のように釣り上がる口角を隠すように、顔を両手で覆い隠して蹲る。
丁度そこに通りかかった酔っ払いが、スライムのように潰れた女の胸を見て足を止めた。
「お? 姉ちゃん、どうしたんだい? 俺が休憩出来るとこ──」
言葉は続かなかった。
まるで、全身を何かに穿たれたように蜂の巣になった肉塊が、裏路地に転がる。
「何も持たないゲボが話しかけて来んじゃねーよ。ぁぁ……早く、早く会いとうございます──タナト様」
女は歌うように嗤い、闇の中へと溶けていく。
裏路地に残ったのは、何も言わぬ死体だけだった。
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