外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第7話 お前今喋った?

「ただいまなのだわー!」


 あ、戻って来た。


 イライザは満面の笑みでエリオラの腕に抱きつく。エリオラもなされるがままだ。


「どうだった?」


「綺麗にしたのだわ!」


 妹のトイレ事情を聞くな! そんでイライザも答えるな!


 妙に生々しい話を聞いて、自分自身の顔が赤くなるの感じてると、ミケが首を傾げた。


「……あれ? イーラちゃん、どうしたの?」


「ふぇ? どうもしないけど?」


「その……暗いような……?」


 ミケがイライザをじっと見つめる。


 俺もイライザを見るが……そうか? イライザは特に変わってないような……。


 そう、イライザは・・・・・


「暗くないわよ。私はいつも元気いっぱいなのだわ!」


「……そう、なら気のせいね!」


「あえて言うなら便秘気味よ!」


「女の子が堂々と言うんじゃないわよ!?」


 ワーワーキャーキャーと、ミケとイライザがはしゃぐ。


「……で、エリオラ。あいつ何かあったな?」


 ビクッ。


「……ナンノコト?」


 分かりやすすぎか。


「イーラは上手く隠せてたが、お前は一瞬目を伏せたな。ずっと一緒にいるんだ。お前のクセくらい見破れる」


「……タナト、ずっと私のこと見てる? 恥ずかしい。キャッ」


「誤魔化すな」


 分かりやすく誤魔化すエリオラに釘を刺すと、ルーシーがふよふよと浮かんだ。


『タナト、すまぬ。あの子の事はウチらに任せてくれんか。今あの子は不安定な状態なのじゃ』


「……不安定?」


『……すまぬ。いつか必ず言う。じゃからここは……』


 ……ルーシーが何を言いたいのか分からないし、別にイライザに関して興味も薄いが……まあ、ルーシーがここまで言うなら、な……。


「……分かった。俺に手伝えることがあったら、言ってくれ。絶対、どうにかしてやる」


 エリオラの頭を優しく撫でると、擽ったそうに目を細めた。


「ん……ありがと、タナト」


「……おう」


 なんか、変に恥ずかしくなってきたぞ……。


「あーっ! お姉ちゃんとお兄ちゃんがイチャイチャしてるのだわ!」


「エリオラちゃん、タナトとイチャイチャしたい気持ちは分かるけど、妹ちゃんの教育をしっかりして欲しいんだけど! 淑女として、レディとして!」


「私の年齢的には熟女なのだわ!」


「なおさらよ!?」


 ……お前ら、公共の場ってことを理解してますかね?


   ◆◆◆


 時間も時間だったから、人気のない場所に移動して《虚空の生け簀》に入った。ここを使えば、ホテル代も浮くからな。


「タナト、先にお風呂入ってもいいかしら? ちょっと汗かいちゃって」


「おう、いいぞ。ならエリオラとイライザも一緒に入れてやってくれ」


「分かったわ」


 特にエリオラは、俺が風呂に入ってる隙を見ては乱入して来ようとするからな……イライザも、そんなエリオラの痴態を見ようと入って来るし、かなり心臓に悪いのよ……。


 三人を風呂場に見送り、俺は白部屋から水域に移動した。


 茜色の光に反射し、雲も、海も、鮮やかな茜色に色付いている。


 まるで焼け爛れたように真っ赤な空。


 この空間で一番好きな景色だ。


「ヒヒンッ」


「お? レニー」


 ユニコーンのレニーが、扉を潜って俺の方に寄ってきた。


「悪いな、最近構ってやれずに」


「ブルルルッ」


「許してくれるのか?」


「フンスッ」


「はは、ありがとう」


 レニーの頭を撫でると、嬉しそうに目を細める。


 と、急にレにーが膝を折って身を屈めた。


「……乗れって?」


「ヒヒンッ」


「いいのか? お前、処女しか乗せないんだろ?」


 自称村一番の美人が乗ろうとして、思いっきり嫌がってたじゃないか。


「ブルルルッ」


「…………まさかお前、清らかな奴なら誰でもいいのか?」


「フンスッ」


 どどど童貞ちゃうわっ!(童貞の言い訳)


 ……まあ、乗せてくれるなら、ありがたく乗せてもらおう。


 慎重にレニーに跨ると、俺が落ちないようにゆっくり立ち上がった。


 そのまま桟橋の先へと歩みを進めていき……って!


「レニー! 落ちるっ、落ちるから!?」


「フンスッ」


 ふんすじゃないよ!? ちょっ、落ち……!?


「…………あれ?」


 ……落ち、ない……?


 ゆっくり下を覗いてみると……何これ、黒い雲?


 レニーが脚を前に出すと、そこに黒い雲が現れる。


 そのまま進み、進み……遂に、桟橋すら見下ろせるほどの高さまで昇った。


「す、すげぇ……!」


 これ、もしかしたら浮遊馬車も飛ばせるんじゃないか? まさしく、空飛ぶ馬車だな……!


「ヒヒーーーンッ!」


「うおっ!?」


 い、いきなり走り出すな、レニー! 落ちるっ、落ち……!


 ……あれ、思ったほど揺れがない、な……。何だろう、安心して乗ってられる……。


 ゆっくり、手を、離してみる……。


「……は、ははっ……あははははっ! すげぇ、すっげぇ!」


 俺は今、風になってる! 気がする!


 全身に受ける風! 上にも下にも広がる大自然!


「ヒヒン?」


「ああ、気に入った! 気に入ったぞレニー!」


『でへへぇ。照れますよぅ』


 …………。


「お前今喋った?」


「ひ、ヒヒン?」


「いや絶対喋ったよな!? もう誤魔化しはきかないぞ!?」


「…………」


 ……おい顔を逸らすな!


『……はぁ……すみませんでした、タナトさん。実は私、喋れるのです』


 ……ユニコーンのイメージ通りというか、凛々しい女性のような喋り方だ。


「だよな。何となくそんな感じはしたけど。ミケはこの事を知ってるのか?」


『いえ、ミケにも知られていません。……あの、皆さんにはご内密にお願いします。この事は、知られる訳にはいかないのです』


「何でまた?」


『喋れるようになったユニコーンの血は、不死をもたらすと言われています。実際そんなことはない、根も葉もない伝承なのですが、人の口に戸は立てられませんから……』


「……じゃあ何で俺には話したんだ?」


『……何ででしょう。タナトさんと一緒にいると、この方なら大丈夫と思ってしまうのです』


 ……そうか。なら、その期待に答えられるように、この事は黙ってないとな。


「……分かった、この事は誰にも言わないよ。約束だ」


『……ありがとうございます、タナトさん』


 レニーのたてがみを優しく撫でると、擽ったそうに身をよじった。


「おーーーい! タナト、レニーーーー!」


 ん? あ、ミケ。


 桟橋からミケが手を振っているのが見え、そっちに向かってゆっくりと降りて行くと、ミケが目を丸くしてレニーに詰め寄った。


「レニー、あんた空飛べたの!? 何で私にその事教えないのよー!」


 ……レニー、お前、秘密にしてること多すぎね?


「ひ、ヒヒン……(助けてタナトさん)!」


 自分で蒔いた種だ。自分でどうにかしろ。


「ヒヒーーーンッ(そんなぁ)!」

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