外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第12話 俺の膝枕で寝たいのか?

「んーーーーっ! 風が心地いいなぁ……!」


 翌日の午後。今日はいつになく天気がいい上に、そよ風が肌を撫でて眠気を誘う。釣り中に昼寝なんて以ての外だが、これは寝てもしょうがないと思えるな……。


「すやぁ……しゅぴぃ……」


『むにゃむにゃ……くぅ〜……』


 エリオラもルーシーも、俺の膝を枕にして気持ち良さそうな寝息を立てている。


 んっ……ふわぁ〜……。そのせいで俺も眠くなってくるなぁ……。


「……納得行かないわ……」


 が、反対側でむすーっとした顔をしたミケが、エリオラを睨む。


「何がだ?」


「何がだじゃないわよっ。何でこの子は良くて、私はタナトの膝枕で寝ちゃいけないのっ……!?」


 エリオラのことを考えてか、小声で責めてくるミケ。


「俺の膝枕で寝たいのか?」


「寝たいわ」


 即答か。


「嫌とは言ってないが、ミケほどの美女が俺の膝枕で寝てると思うと、ちょっと意識し過ぎて釣りに集中出来ないだけだ。別に、寝たいなら寝ても構わないぞ」


「えっ……意識、しちゃう?」


「おう。ビンビンに」


「ビンビンにっ……!?」


 個人的には、釣りの方に意識をビンビンに集中させたいんだが……ミケが寝たいなら、それも仕方ない。


「……しょ、しょうがないわねっ。た、タナトが釣りに集中出来ないと村のみんなも困るから、今回は諦めてあげるわっ」


「? そうか。寝たくなったら、いつでも寝ていいからな」


 ミケから、目の前の湖に目を向ける。


 水面に反射する陽の光も、さざ波の音も、今日は異様に眠気を駆り立てる。まあ、たまにはこういう日があってもいいだろう……。


「それにしても、はふはふ、よく飽きないわね、もぐもぐ」


「俺の釣った魚を飽きもせず食べ続けてるお前に言われてもな……」


「食べることは生きることって言うじゃない。でも、釣り自体は生きることに必要ないでしょ?」


「お前はあれか、俺に息をするなと言ってるのか」


「そこまで言ってないわよ……!?」


「俺にとっては、釣りをすることは息をすることだ。生活に無くてはならない、最早肉体の一部と言っても過言ではない」


 腹が減ったら飯を食うように。眠くなったら寝るように。俺は常に釣りをしてたいのだ。


「……私、王都でも色々な変人に出会ってきたけど、あんたほどの変人は見たことないわ……」


「やめろ、照れる」


「褒めてないわよ」


 何だ、褒めてないのか。


 ミケは魚の骨まで食べると、満足したのか俺のすぐ横に座ってピッタリと体を預けてきた。


「……でも、いいものね。こうして同じ方向を向いてるって言うのも」


「だなぁ……老後はこんな生活を送りたい」


「って、あんたもう送ってるじゃない」


 あ、そうか。


「……俺達の老後って、どうなってんだろうな」


「変わらないんじゃない? あんたがいて、私がいて、なんならこの子達もいて」


 ミケは優しくエリオラの頭を撫でる。エリオラもくすぐったそうにしているが、嬉しそうに頬を緩めて熟睡している。


「歳食ってもお前と一緒か……」


「何、嫌なの?」


「……そういうのも、悪くは無いな」


「えっ」


 ……ん? 何だよ、そんな壊れた玩具みたいに固まって。


「……本気なの……?」


「まあな」


 のんびり釣りをしながら歳食って、その隣にミケやエリオラがいる。いいと思うが。


「そ、そう……ふーん……」


 指でツインテールを弄りながら、頬を染めて俺をチラチラと見る。


「ま、まあ、タナトがいれば食べるに困ることはないだろうし、私の貯金もあるから、これから子供が増えても問題はなさそうね、うんうんっ」


「え、子供?」


「……え?」


「え?」


 …………子供、とは?


「んー。うちの村に、子供が出来る予定の家族なんていたかな……?」


「ま、待って……待ちなさいタナト」


 ミケが頭を抱え、首を捻る。何だ、どうした?


「……タナトは、私と老後を過ごしたいのよね?」


「過ごしたいというか、そんな老後もいいなとは思う」


「それって、一生一緒にいたいとか、その……け、結婚とかって意味じゃなく……?」


「……結婚? いや、別に」


 どうして、そんな所まで話が飛躍するんだ?


「…………」


「……ミケ?」


 え、何? 何で黙ってるの?


「……はあぁ〜……まあ、あんたは昔からそんな感じよね……」


「? おう、俺は変わらないぞ」


「良くも悪くもねっ」


 え、えぇ……何でそんなにキレ気味なの……?


「ま、今はそれでもいいか……」


「今はって……それって……」


「あ! タナト、釣り糸引いてるわよ!」


「あっ。お、おうっ」


 ミケの言ってる意味はよく分からないが……今は、こんな日常も、悪くない。

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