外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第6話 イイッテコトヨ!

 この後、女の子をどうするべきか悩んでいると……。


 ぐうぅ〜〜〜〜……。


 ……ん?


「……お腹、空いた……」


『そうじゃろうて。何故かは分からんが、異界から出られたのじゃ。まずは腹ごしらえじゃな』


 ああ、なんだ腹が減ってるのか。


「なあ、えっと……エリオラ? 魚でいいなら、腹いっぱい食わせてやるぞ」


「! お魚……!」


 お? 目が輝いてるぞ。こいつも魚好きなのか。


「俺は釣り師だからな。満足するまで食わせてやるよ」


『何から何まですまないな、タナト』


「いいってことよ」


 焚き火に当てていた丁度食べ頃の魚を、エリオラへ差し出す。


「エンペラーライジンって呼ばれる魚だ。食べると舌がピリッとする感覚があるが、それも含めて楽しんでくれ」


「いた、だきます……!」


 はむっ。


「! ぴりっ、ぴりっ……! 面白い……! おいしい……!」


 相当美味いのか、全身で美味さを表現するエリオラ。随分と面白い子だな。


「俺はここで魚釣ってるから、焚き火で冷えた体でも暖めておけ」


「ん、ありがと……!」


 もしゃもしゃと食べ進めているエリオラの隣に座り、釣り糸を垂らす。


「なあ、ルーシーだっけ?」


『なんじゃ?』


「お前らって何なんだ? 俺、今まで釣りをしてたけど、女の子を釣ったことなんてなかったぞ」


『うむ、どう説明したものか……まず、我らはとある空間に封印されていたのじゃ。異界と呼ばれる、この世界とは隔絶した場所。もう時間の感覚も無くなるほど、そこにいた』


 異界……封印……? 何だか面倒な話になりそうだな。


『じゃが、つい先程の話じゃ。いきなりエリィ諸共引っ張られ、気付いた時にはもう水の中じゃった』


 …………え? 引っ張られ……え?


『エリィは水を沢山飲んでパニックに陥り、そのまま気絶。タナトに助けてもらわなければ、エリィは今頃死んでいた。改めて礼を言わせてくれ。ありがとう』


 …………。


「HAHAHAHAHA! イイッテコトヨ!」


『何故カタコトなのじゃ?』


 気にしないでくれ。


 今の話が本当なら……こいつらを水の中に引きずり込んだの、俺じゃね?


 これまでの経験上、装備やアイテムを最初に釣り上げたときにレベルが上がり、その時にさっきと同じようにバナーが浮かび上がった。


 つまり、この子を異界と呼ばれる場所から釣り上げたことで、《虚空の釣り堀》という力が手に入ったと考えると……も、物凄く罪悪感が……。


『これエリィ。お主も食べてばかりでなく、タナトへ感謝の気持ちを忘れるでないぞ』


「わ、わかってる。感謝してる」


 やめてっ! 俺の心をこれ以上傷付けないで!


「も、もういいって。助かったんだし、これでいいだろ」


『おおっ……! なんと心の広いお方じゃ……!』


「タナト、聖人君子」


 もうやめろぉ! そんなキラキラした目で見ないで! お願いだから、お願いだから!


「そ、それより! 封印って何のことだ?」


 あからさまに話を逸らすと、ルーシーが『うむ』と頷いた。


『話す前に聞きたい。今は神聖歴何年じゃ?』


 神聖歴?


「今は神王歴二〇五六年だ。神聖歴は、その前のものだぞ」


『なんと!?』


「……びっくり」


 エリオラは目を丸くし、ルーシーは飛び跳ねて驚いた。……ということは……。


「お前ら、神聖歴の時代からそこにいたのか……?」


『うむ。我の記憶が正しければ、神聖歴一九〇八年に封印されたはずじゃ』


 神聖歴一九〇八年……確か神聖歴から神王歴に変わったのは、神聖歴三〇〇一年の頃だったはず。ということは……。


「お前ら、約三〇〇〇年も封印されてたのか……!?」


『三〇〇〇年、じゃと……!?』


「わぉ……」


 いや、わぉ、はこっちのセリフだ。どんな神経してれば、平常を保ってられるんだよ……。


『くっ、イヴァロンの奴め……!』


「イヴァロン? それって、破壊の魔王イヴァロンか?」


『あやつを知っておるのか!?』


「知ってるもなにも、二〇〇〇年前に勇者に封印された魔王だ。歴代最強だとかって噂だけど」


『あやつが最強? はんっ、ちゃんちゃらおかしいわい!』


 え? どういうことだ?


『あやつは単なる卑怯者じゃ! 次期魔王候補として争っていたエリィに勝てぬと分かるや否や、卑怯な手を使って我らを異界へ封印したのじゃ!』


 ぷりぷりと怒るルーシー。待て、聞き捨てならないこと言ったぞ、こいつ。


「次期魔王候補……って言うのは……?」


『あっ……い、いや、その……』


 ルーシーは慌てふためく。だが、エリオラは落ち着いた顔でルーシーを撫でた。


「……話す、全部。それで嫌ってくれても構わない」


「お、おう……」


 いや、その前にお前を好きだなんて一言も言ってないが……。


 エリオラは居住まいを正すと、俺の目を見つめてきた。


「私は、エリオラ・ロゥリィ。通称天雷の魔女。第二五代魔王候補の一人。……魔族」


 最後、聞き取りづらいほど小さな声で、魔族と言った。きゅっとドレスを握り、目を伏せ、俺の反応を待っている。


 ふむ……。


「魔族か。初めて見た」


「っ……驚かない……?」


「まあ、うちの村には魔族はいないから、全く驚きがないと言ったら嘘になるが」


『ま、待つのじゃ! 今、村には魔族はいないと言ったな!? どういうことじゃ!?』


 え? どうもこうも……。


「二〇〇〇年前の魔王イヴァロンの封印を期に、魔族と人間族は融和したんだ。今はどの街にも、普通に魔族はいるぞ」

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