外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第8話 今、ちょー楽しい

 エリオラとルーシーが我が家に来て、一週間が経った。


 村初めての魔族ということで、最初こそ村の皆は興味深そうにしていたが、今では家族のように接している。エリオラとルーシーも人間と触れ合えるのが楽しいみたいで、異界から出た直後に比べたら笑顔が増えた。


 そしてこの一週間、エリオラは毎日のように俺の側にいて、一緒に釣りを楽しんでいる。どうやら釣りに興味を持ってくれたらしい。


「そうそう、今釣り針の側に魚がいるから、まるで生きてるように餌を動かすんだ」


「ん……こう?」


「そうそう、上手いぞ」


 エリオラは釣りの才能がある。現に、教えたらメキメキと上達するから、教えがいがあるな。


「えへへ……褒められた」


『よかったの、エリィ』


 ニコニコと釣り糸を垂らすエリオラ。今日の成果はまだゼロだが、釣りは根気との勝負だ。焦っても仕方ない。それを本能的に分かってるのか、ボウズの日でもエリオラはずっと笑顔だ。


「エリオラ、釣り楽しいか?」


「んっ、楽しい。それに、タナトと一緒のことやってるの、嬉しい」


「そうかそうか。そいつはよかった」


 こうして誰かと釣りをするって経験は無かったが……なかなかどうして、いいものだな。


「ルーシーも、やってみたくないか?」


『やってはみたいが、ウチはエリィが楽しんでいれば、それで良い。封印される前は混沌と破滅、封印されてからは孤独と戦ってきたのじゃ。のんびりこの時間を楽しんでくれれば、ウチはそれで満足じゃ』


「……そっか。なら、エリオラはルーシーの分も楽しまなきゃな。忙しいぞ?」


「任せて。今、ちょー楽しい」


 ふんすふんすと鼻息を荒くするエリオラ。その姿に、俺とルーシーはどちらともなく声を出して笑った。


 そんなエリオラの姿を見ながら、俺は俺で魚を釣り上げる。これで本日通算一〇〇匹目だ。


 ぐぅ〜〜〜〜……。


「……エリオラ?」


「……わ、私じゃない。ルーシー」


『ウチは腹減らんぞ?』


「うぐっ……」


 エリオラは顔を真っ赤にして顔を逸らす。一週間前は腹が鳴っても恥ずかしそうじゃなかったのに、今じゃチラチラと俺の様子を確認してくるようになった。……何でだ?


「腹が減ったなら、そろそろ昼休憩にしようか」


「へ、減ってない」


 ぐぅ〜〜〜〜〜〜……。


 ……さっきより長い。


「あぅ……」


「はは。じゃあ、休憩だ」


 火を焚いて、直火で魚を焼く。いつもの飯だ。


「わくわく、わくわく」


「いつも焼き魚で飽きないか?」


「飽きない。タナトが焼いてくれるから」


 そ、そうか。それは、ちょっと嬉しいな……。


 魚を焼く時も、焦っちゃいけない。均等に、ムラが出ないように、じっくり焼く。


 最後に塩を少し掛けて……完成だ。


「ほれ、出来たぞ」


「いただきます……!」


 焼き魚にかぶりつき、はふはふと食べるエリオラ。それを見ながら、俺も食べる。実に絶妙な焼き加減、エクセレント。


『──むっ』


「? ルーシー、どうしたの?」


『……人の気配じゃ。物凄いスピードで、こっちに向かって来るぞ』


 ルーシーは気配に敏感なのか、気配を感じると直ぐに知らせてくれる。だが、人の気配ってのは珍しいな。


 後ろを振り返ってみる。と……あれ、レニーじゃないか。という事は……。


「おーい! タナトー!」


「おおっ、ミケ!」


 前に帰ってきてから一ヶ月くらいかっ。今回は早かったな!


 減速すると、ミケはレニーから飛び降りて駆け寄ってきた。


「おかえり、ミケ。お勤めご苦労さん」


「ありがと、タナト。相変わらず凄い数釣ってるわね。……ん?」


 ミケはエリオラに気付いたのか、そっちに顔を向ける。エリオラは、何故か俺の後ろに隠れて服を握っていた。


「……誰よ、その子」


「村の皆に聞いてないのか?」


「直接こっちに来たからね。で、誰よその子」


 え、何でちょっと不機嫌なの?


「……タナト、この人、誰」


『何やら女狐の匂いがするぞ……』


 ……何で君達もムスッとしてるの?


「えーっと……まず、エリオラ。こいつはミケ。そっちは相棒のレニー。俺の幼馴染みで、今は王都で騎士をやってる。実力も可愛さも天下一品だ」


「っ! も、もうっ、そんな事サラッと言わないでよ……!」


 え、でも事実だし……。


「次にミケ。こいつはエリオラ、喋るペンダントはルーシーだ。一週間前になんやかんやで村に来た魔族で、今は俺と一緒に住んでる」


「同棲、なう」


『なう、じゃ』


「んなっ!?」


 まあ、事実だからな。


「むむむ……!」


「ぶるるる……!」


「むっ……!」


『ぐぬぬ……!』


 え、ええ……何で険悪なの?


「待て君達。何で会って早々仲悪いの。やめてよ、魚逃げちゃうでしょ」


「「『『誰のせいだと?』』」」


 いや俺のせいじゃないよね!?


「てかレニー、今喋った?」


「ひ、ひひん?」

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