忘れられた元勇者~絶対記憶少女と歩む二度目の人生~
【第46話:握手】
「え!? ちょっと待って!? なんでこの人が、いいえ、この人たちは、勇者テッドの事を知って……違う! 知っているだけじゃない! 覚えているの!?」
一人リシルが混乱するなか、ギレイドさんはその長く鋭い鉤爪を元に戻すと、
「実力を試すような行い。大変失礼致しました」
静かにダルド様の後ろに下がってから、深く腰をまげて非礼を詫びる。
「構わないですよ。ちょっと予想以上の速さに焦りましたけどね……って、お、おい!?」
落ち着いてカッコよくそう返したのだが、約一名が納得がいかないとオレの服の袖を掴んで、ぐわんぐわんと揺すってくる。
「何一人で、落・ち・着・い・て・る・の・よぉ~!」
「お、落ちつけって! リシルにもちゃんと説明するから!」
リシルにはテイトリアの街を出発した時に、全員の素性を魔眼を使って調べて貰っている。
そしてオリビアさんだけでなく、ギレイドさんも魔人である事はわかっていた。
だが、オレもリシルもこのこと自体にそれほど驚きは感じなかった。
何故なら、ハグレと呼ばれる魔人のうちある魔人は人間と変わらぬ容姿を持っており、深く人間社会に溶け込んでいる事を知っていたからだ。
吸血鬼。
唯一、魔人国ゼクストリアに反意を抱き、歴史の表舞台から姿を消した夜の住人。
強力な魔人である反面、その数はかなり少ないらしいが、オレは勇者の時に何度か会っているし、魔王を倒すのに協力を受けた事も幾度もある。
まぁ夜の住人と言っても、この世界の迷信にあるような太陽の光を浴びただけで焼け死ぬような事はなく、夜の方が身体能力や魔法の効果が大きく向上するというだけだ。
それに迷信にあるように人の血を飲みはするが、その量は少なく、月に小さなコップ一杯程度で問題無いため、大抵は協力者の人間から提供される血で賄っているそうだ。
まぁ人の国で貴族になっている者がいるとは思いもしなかったけど。
だが、その辺りの事は、移動中にリシルにも話してある。
話せていなかったのは、もう一つの話。
それは、まだ仮説の域を出ていなかったために、リシルにまだ話せていなかった。
「これはさっきまで仮説だったんだが……魔に傾いた力を持つ者たち。つまり魔人たちは……恐らくオレの事を、勇者テッドの事を全て覚えている」
恐らくだが、メルメもオレの事を覚えているのだろう。
メルメとの間に結んだ契約が、長い時を経てもまだ残っていたのは、そのお陰なのではないだろうか。
「覚えているって本当なの!? え……そんな……でも、それって凄く危険なんじゃ!?」
一瞬、リシル以外にも勇者テッドの事を覚えておける者たちがいる事に、喜びの表情を浮かべたリシルだったが、魔人たちが覚えている事の危険性に気付いて泣きそうになっている。
「そうだな。魔人国の奴らにバレれば、間違いなく、放っておいてはくれないだろう」
今まで世捨て人のように目立たず生きてきたから害は無かったが、もし勇者テッドを知っている魔人に出くわせば、命を狙われるのは間違いない。
何せ魔王の一番の仇だからな。
「っ!? こんな冒険者やってる場合じゃないじゃない! 逃げよう! テッド! どこかまた辺境の村にでも行って……」
オレの事で取り乱すリシルの頭にそっと手を添えると、
「大丈夫さ。その為にもう一度冒険者として力を取り戻す事に決めたんだから。それに、リシルの両親と同じ立場だったってだけだろ?」
少しお道化て頭を撫でてやる。
実際には、ヒューやルルーには常に護衛が付いているそうだし、味方も大勢いるだろうから置かれている状況は全く違うのだが、リシルを落ち着かせるのには多少の効果があったようだ。
そんなやり取りをしている時、オリビアさんの呟きが耳に届いた。
「……リシル……どこかで聞いた事がある気がします……」
ダルド様たちは、オレ達の話が終わるのをずっと黙って待ってくれているのだが、何かに気付いたオリビアさんが漏らす声が聞こえたのだ。
「リシルは、導きの五聖人、暴風のヒューリと聖女ルルーロの娘ですよ」
「!? どうりで聞いた事のある名だと思いました。英雄に出来た初めての子だから、当時随分騒がれていましたし」
騒がれていたのか。
その頃のオレはまだ立ち直り切れていなかったから、当時の事はあまり記憶にないな……。
「なんだ。リシルだって有名人なんじゃないか」
「うっ……わ、私は……私もそうかもしれないけど……」
リシルは一度それを否定しようするが、否定しきれないとわかると渋々その事を認める。
「だったら何も問題はない。同じ有名人同士、今まで通りよろしくな」
そして右手を差し出し、幾度目かになる握手を交わすのだった。
~
「ダルド様。お待たせして申し訳ありませんでした」
今更ながらに皆に見られている事に考えが至ったリシルも、顔を真っ赤にしながら隣で深く頭を下げる。
「興味深い話だったから問題ない。しかし、こちらの正体を知り、己の正体を明かしても態度を変えないのだな」
「今は……世界に忘れられた元勇者に過ぎませんから。それに、魔人国侵入の際には吸血鬼の方々に力をお借りした事もあります。何も知らない民ならともかく、偏見で見たりは致しません」
「さすがはダンテ様も認めていたお方ですね」
オレの態度にギレイドさんが嬉しそうにそう話すが、やはり過去を振り返ってみてもダンテと言う名前に覚えが無かった。
「その……すみませんが、ダンテ様の名前に覚えがないのですが、勇者として行動している時にお会いした事があるのでしょうか?」
「父が言うには、まだテッドが勇者となる前、一度助けられた事があると聞いている」
一人リシルが混乱するなか、ギレイドさんはその長く鋭い鉤爪を元に戻すと、
「実力を試すような行い。大変失礼致しました」
静かにダルド様の後ろに下がってから、深く腰をまげて非礼を詫びる。
「構わないですよ。ちょっと予想以上の速さに焦りましたけどね……って、お、おい!?」
落ち着いてカッコよくそう返したのだが、約一名が納得がいかないとオレの服の袖を掴んで、ぐわんぐわんと揺すってくる。
「何一人で、落・ち・着・い・て・る・の・よぉ~!」
「お、落ちつけって! リシルにもちゃんと説明するから!」
リシルにはテイトリアの街を出発した時に、全員の素性を魔眼を使って調べて貰っている。
そしてオリビアさんだけでなく、ギレイドさんも魔人である事はわかっていた。
だが、オレもリシルもこのこと自体にそれほど驚きは感じなかった。
何故なら、ハグレと呼ばれる魔人のうちある魔人は人間と変わらぬ容姿を持っており、深く人間社会に溶け込んでいる事を知っていたからだ。
吸血鬼。
唯一、魔人国ゼクストリアに反意を抱き、歴史の表舞台から姿を消した夜の住人。
強力な魔人である反面、その数はかなり少ないらしいが、オレは勇者の時に何度か会っているし、魔王を倒すのに協力を受けた事も幾度もある。
まぁ夜の住人と言っても、この世界の迷信にあるような太陽の光を浴びただけで焼け死ぬような事はなく、夜の方が身体能力や魔法の効果が大きく向上するというだけだ。
それに迷信にあるように人の血を飲みはするが、その量は少なく、月に小さなコップ一杯程度で問題無いため、大抵は協力者の人間から提供される血で賄っているそうだ。
まぁ人の国で貴族になっている者がいるとは思いもしなかったけど。
だが、その辺りの事は、移動中にリシルにも話してある。
話せていなかったのは、もう一つの話。
それは、まだ仮説の域を出ていなかったために、リシルにまだ話せていなかった。
「これはさっきまで仮説だったんだが……魔に傾いた力を持つ者たち。つまり魔人たちは……恐らくオレの事を、勇者テッドの事を全て覚えている」
恐らくだが、メルメもオレの事を覚えているのだろう。
メルメとの間に結んだ契約が、長い時を経てもまだ残っていたのは、そのお陰なのではないだろうか。
「覚えているって本当なの!? え……そんな……でも、それって凄く危険なんじゃ!?」
一瞬、リシル以外にも勇者テッドの事を覚えておける者たちがいる事に、喜びの表情を浮かべたリシルだったが、魔人たちが覚えている事の危険性に気付いて泣きそうになっている。
「そうだな。魔人国の奴らにバレれば、間違いなく、放っておいてはくれないだろう」
今まで世捨て人のように目立たず生きてきたから害は無かったが、もし勇者テッドを知っている魔人に出くわせば、命を狙われるのは間違いない。
何せ魔王の一番の仇だからな。
「っ!? こんな冒険者やってる場合じゃないじゃない! 逃げよう! テッド! どこかまた辺境の村にでも行って……」
オレの事で取り乱すリシルの頭にそっと手を添えると、
「大丈夫さ。その為にもう一度冒険者として力を取り戻す事に決めたんだから。それに、リシルの両親と同じ立場だったってだけだろ?」
少しお道化て頭を撫でてやる。
実際には、ヒューやルルーには常に護衛が付いているそうだし、味方も大勢いるだろうから置かれている状況は全く違うのだが、リシルを落ち着かせるのには多少の効果があったようだ。
そんなやり取りをしている時、オリビアさんの呟きが耳に届いた。
「……リシル……どこかで聞いた事がある気がします……」
ダルド様たちは、オレ達の話が終わるのをずっと黙って待ってくれているのだが、何かに気付いたオリビアさんが漏らす声が聞こえたのだ。
「リシルは、導きの五聖人、暴風のヒューリと聖女ルルーロの娘ですよ」
「!? どうりで聞いた事のある名だと思いました。英雄に出来た初めての子だから、当時随分騒がれていましたし」
騒がれていたのか。
その頃のオレはまだ立ち直り切れていなかったから、当時の事はあまり記憶にないな……。
「なんだ。リシルだって有名人なんじゃないか」
「うっ……わ、私は……私もそうかもしれないけど……」
リシルは一度それを否定しようするが、否定しきれないとわかると渋々その事を認める。
「だったら何も問題はない。同じ有名人同士、今まで通りよろしくな」
そして右手を差し出し、幾度目かになる握手を交わすのだった。
~
「ダルド様。お待たせして申し訳ありませんでした」
今更ながらに皆に見られている事に考えが至ったリシルも、顔を真っ赤にしながら隣で深く頭を下げる。
「興味深い話だったから問題ない。しかし、こちらの正体を知り、己の正体を明かしても態度を変えないのだな」
「今は……世界に忘れられた元勇者に過ぎませんから。それに、魔人国侵入の際には吸血鬼の方々に力をお借りした事もあります。何も知らない民ならともかく、偏見で見たりは致しません」
「さすがはダンテ様も認めていたお方ですね」
オレの態度にギレイドさんが嬉しそうにそう話すが、やはり過去を振り返ってみてもダンテと言う名前に覚えが無かった。
「その……すみませんが、ダンテ様の名前に覚えがないのですが、勇者として行動している時にお会いした事があるのでしょうか?」
「父が言うには、まだテッドが勇者となる前、一度助けられた事があると聞いている」
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