忘れられた元勇者~絶対記憶少女と歩む二度目の人生~
【第43話:急ぐ理由】
テイトリアの街を出てから、休憩も取らずに街道をひた走っていた。
日は既に傾き始めるも、未だ休憩を取る様子はない。
貴族の護衛は何度かしているが、かなりの強行軍だ。
騎士の後に荷馬車が続き、その後ろに豪奢な馬車、最後尾にオレたちの駆るナイトメアという陣形で走っている。
馬車を牽くのはあわせて四頭のグレイプニルだし、騎士が乗る騎獣はそれを上回る走力を誇るラプトル二匹。
そしてオレたちが乗るのは、恐らく地を駆ける騎獣の中では一番の走力を持つナイトメア。
その気になれば丸一日でも走り続けれる魔獣ばかりだ。
しかし、そんな事をすれば先に乗っている人間が根を上げる。
冒険者などの戦いを生業にする者たちならまだしも、貴族やその従者たちにはかなり辛いはずなのだが……。
「いよいよ。何か怪しくなってきたな」
そう呟いたオレの言葉を、前に座るリシルが逃さず拾って尋ねてくる。
「やっぱり何かありそうだね。本当に襲撃とか警戒した方が良いのかな?」
襲撃。
普通に考えれば大袈裟に思えるが、貴族の跡目争いなどでは、表に出てこないだけでそこまで珍しい事ではない。
事実、勇者として行動している時にも、オレたちを援助してくれていた貴族の一人が、魔人信仰の疑いのある反勢力の貴族に暗殺されている。
魔王や魔人も恐ろしいが、それに負けないほど人と言うのは醜い一面を持っている。
決して全ての人がそういう一面を持っているわけではないだろうが、それでも一見人の好さそうな人が……と言うのは多分にあり得る事だ。
その中でも魔人信仰と言うのは、勇者として魔王討伐を目指す中で非常に厄介だった。
個々の能力で人より遥かに優れている魔人を神のように崇め、自身も魔人の血を分け与えられることで、その力の一端を手にしようとする者たちだ。
まぁそこまで悪質でなくとも、ダルド様はこの国で有力な貴族の次期当主だ。
何かと危険な事も多いのは間違いないだろう。
だからこそ、街中でもB級冒険者を護衛につけ、今もこうして大勢の護衛を連れているのだ。
「絶対とは言わないが、明らかに襲撃を警戒している。オレたちも気を抜かない方がいいのは間違いないだろうな」
「嫌な依頼受けちゃったわね……」
「悪いな。こういう可能性も考えなかったわけではないが、ギルドで声を掛けられた時にはこういう不穏な空気は感じなかったんだ」
オレは長年いつ死んでもおかしくない危険な状況に身を置いて生活してきたせいか、この手の気配に敏感だ。
その己の勘を信じるのなら、あの後の5日の間に何かがあったのではないだろうか。
「謝らないでよ。受けちゃったものは仕方ないし、そんなのいくらテッドだってわからないわよ。でも、警戒はいつも以上にしておくわ」
「そうしてくれ。リシルの魔眼は頼りになるよ。いつもありがとう」
後ろに向けていた視線を前方に戻し、褒めても何も出ないわよと少し照れくさそうに言いながら、その瞳に宿る魔眼の力でここに無い何かを覗き見る。
今回の護衛依頼に限らず、街道を移動する時や森の中を探索する時など、リシルはいつも定期的に魔眼アーキビストを用いて危険がないかを確認してくれている。
そのお陰で今まで奇襲は受けた事がないし、今回も非常に頼りにしていた。
しかし……辺りに夕闇が訪れ始めた頃、その襲撃は突然はじまったのだった。
~
「うそ!? 魔物が突然現れたわ!! 右前方100mよ!」
最初はリシルのその叫びから始まった。
街道脇の小さな森から何十頭という狼の魔物の群れが飛び出してきた。
「前に出る! しっかり振り落とされるなよ!」
オレはメルメに触れて命令を出すと、一気に豪奢な馬車を追い抜き荷馬車に並ぶ。
「強力な魔法は近すぎて使えないわ! まずは弓で応戦して! 倒さなくても良いから近づけないように牽制して!」
オレが指示を出そうと思ったのだが、リシルが代わりに言いたい事を言ってくれた。
冒険者たちは魔法は使えないと聞いているし、3人共剣と弓を持っていたので妥当な判断だろう。
護衛の依頼は魔物を倒すのが目的ではない。
「わ、わかった!」
まだ距離が少しあったおかで結構冷静なようだ。
素早く弓を手に取ると、3人共次々と弓を射掛けていく。
「テッド! 私が先に牽制の魔法を使うわ!」
今オレ達はメルメの背に乗って駆けている。
同時に魔法を使うと干渉して失敗しかねないので、魔法を使う場合は出来るだけ声をかけるように言ってあった。
だけど……今回はそれはちょっと待ってもらう。
「まだだ! リシルは使わなくていい!」
「え? でもテッドの魔法はまだ届かないんじゃ……あっ!?」
そう。使うのはオレじゃない。
更に速度をあげて騎士たちを追い抜くと、そっとメルメの背に手を触れ、こう命じるのだ。
「薙ぎ払え!」
日は既に傾き始めるも、未だ休憩を取る様子はない。
貴族の護衛は何度かしているが、かなりの強行軍だ。
騎士の後に荷馬車が続き、その後ろに豪奢な馬車、最後尾にオレたちの駆るナイトメアという陣形で走っている。
馬車を牽くのはあわせて四頭のグレイプニルだし、騎士が乗る騎獣はそれを上回る走力を誇るラプトル二匹。
そしてオレたちが乗るのは、恐らく地を駆ける騎獣の中では一番の走力を持つナイトメア。
その気になれば丸一日でも走り続けれる魔獣ばかりだ。
しかし、そんな事をすれば先に乗っている人間が根を上げる。
冒険者などの戦いを生業にする者たちならまだしも、貴族やその従者たちにはかなり辛いはずなのだが……。
「いよいよ。何か怪しくなってきたな」
そう呟いたオレの言葉を、前に座るリシルが逃さず拾って尋ねてくる。
「やっぱり何かありそうだね。本当に襲撃とか警戒した方が良いのかな?」
襲撃。
普通に考えれば大袈裟に思えるが、貴族の跡目争いなどでは、表に出てこないだけでそこまで珍しい事ではない。
事実、勇者として行動している時にも、オレたちを援助してくれていた貴族の一人が、魔人信仰の疑いのある反勢力の貴族に暗殺されている。
魔王や魔人も恐ろしいが、それに負けないほど人と言うのは醜い一面を持っている。
決して全ての人がそういう一面を持っているわけではないだろうが、それでも一見人の好さそうな人が……と言うのは多分にあり得る事だ。
その中でも魔人信仰と言うのは、勇者として魔王討伐を目指す中で非常に厄介だった。
個々の能力で人より遥かに優れている魔人を神のように崇め、自身も魔人の血を分け与えられることで、その力の一端を手にしようとする者たちだ。
まぁそこまで悪質でなくとも、ダルド様はこの国で有力な貴族の次期当主だ。
何かと危険な事も多いのは間違いないだろう。
だからこそ、街中でもB級冒険者を護衛につけ、今もこうして大勢の護衛を連れているのだ。
「絶対とは言わないが、明らかに襲撃を警戒している。オレたちも気を抜かない方がいいのは間違いないだろうな」
「嫌な依頼受けちゃったわね……」
「悪いな。こういう可能性も考えなかったわけではないが、ギルドで声を掛けられた時にはこういう不穏な空気は感じなかったんだ」
オレは長年いつ死んでもおかしくない危険な状況に身を置いて生活してきたせいか、この手の気配に敏感だ。
その己の勘を信じるのなら、あの後の5日の間に何かがあったのではないだろうか。
「謝らないでよ。受けちゃったものは仕方ないし、そんなのいくらテッドだってわからないわよ。でも、警戒はいつも以上にしておくわ」
「そうしてくれ。リシルの魔眼は頼りになるよ。いつもありがとう」
後ろに向けていた視線を前方に戻し、褒めても何も出ないわよと少し照れくさそうに言いながら、その瞳に宿る魔眼の力でここに無い何かを覗き見る。
今回の護衛依頼に限らず、街道を移動する時や森の中を探索する時など、リシルはいつも定期的に魔眼アーキビストを用いて危険がないかを確認してくれている。
そのお陰で今まで奇襲は受けた事がないし、今回も非常に頼りにしていた。
しかし……辺りに夕闇が訪れ始めた頃、その襲撃は突然はじまったのだった。
~
「うそ!? 魔物が突然現れたわ!! 右前方100mよ!」
最初はリシルのその叫びから始まった。
街道脇の小さな森から何十頭という狼の魔物の群れが飛び出してきた。
「前に出る! しっかり振り落とされるなよ!」
オレはメルメに触れて命令を出すと、一気に豪奢な馬車を追い抜き荷馬車に並ぶ。
「強力な魔法は近すぎて使えないわ! まずは弓で応戦して! 倒さなくても良いから近づけないように牽制して!」
オレが指示を出そうと思ったのだが、リシルが代わりに言いたい事を言ってくれた。
冒険者たちは魔法は使えないと聞いているし、3人共剣と弓を持っていたので妥当な判断だろう。
護衛の依頼は魔物を倒すのが目的ではない。
「わ、わかった!」
まだ距離が少しあったおかで結構冷静なようだ。
素早く弓を手に取ると、3人共次々と弓を射掛けていく。
「テッド! 私が先に牽制の魔法を使うわ!」
今オレ達はメルメの背に乗って駆けている。
同時に魔法を使うと干渉して失敗しかねないので、魔法を使う場合は出来るだけ声をかけるように言ってあった。
だけど……今回はそれはちょっと待ってもらう。
「まだだ! リシルは使わなくていい!」
「え? でもテッドの魔法はまだ届かないんじゃ……あっ!?」
そう。使うのはオレじゃない。
更に速度をあげて騎士たちを追い抜くと、そっとメルメの背に手を触れ、こう命じるのだ。
「薙ぎ払え!」
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