忘れられた元勇者~絶対記憶少女と歩む二度目の人生~

こげ丸

【第1話:神に見放された島】

 その島の名は、神に見放された島『オドム』。

 いや……今はこの名は使われていないのだったな。

 今は、希望の島『ルシエーナ』と呼ばれている。

 今年はルシエーナ歴15年。約320年前に今の『魔人国ゼクストリア』にて魔王が誕生した。
 その魔王が討伐されたのが今から15年前で、その時に世界協定にて新しい元号が制定されたのだ。

 そしてここは『イクリット王国』の『トーマス』という村。
 イクリット王国はこの島の北西に位置する人族が中心の平和な王国で、トーマスはそのイクリット王国の東端、セーラン王国側にある人口300人ほどの小さな村だ。

 この世界には魔物が蔓延はびこっており危険に満ちているのだが、この村の周辺は下位の魔物しか生息しておらず、とても長閑のどかな村だった。

 ~

「テッドや~~! こないだ出した依頼片づけてくれたかの~?」

「わりぃ! まだなんだ! この依頼終わったら片づけておくからもうちょい待ってくれ!」

 オレの名は『テッド』。
 この村に住み着いてもう5年になる冒険者だ。

「わかっだぁ! だげども畑荒らされてほんど困ってるから早めに頼むの~」

 オレは「急いで片づけておくよ」と、顔なじみの農家の爺さんに返事を返すとそのまま冒険者ギルドに向かう。
 国の方針で全ての村に冒険者ギルドを作ることになっているので、こんな小さな村だがちゃんと冒険者ギルドが存在する。
 ただ……、

「何度見てもただの民家だよなぁ……」

 見た目はどこからどう見てもただの民家だ。
 せめてログハウスとかなら雰囲気も出るのに板張りの古びた木造平屋建てだからな……。

「サクナおばさん、こんちは~」

 オレは民家……のような建物の冒険者ギルドの扉を開けると、ギルド職員のサクナおばさんに軽い挨拶を飛ばす。

 すると、受付の木札がかかったテーブルでお茶を啜っていた女性が振り返り、

「ギルドの受付嬢に向かっておばさんはないでしょ! サクナさんとお呼びサクナさんと。まぁおばさんだけど?」

 ガハハッと、豪快に笑いながら返事が返ってきた。

「わかったよ。んで、サクナおばさん、依頼達成したから処理お願いね~」

 オレも笑いながら返し、持っていた薬草の入った布袋をテーブルの上に置く。
 もう幾度となく繰り返しているやり取りだが……平和な証拠だな。うん。

「お。もう昨日受けた薬草採取終わったんだねぇ。薬師の婆さんも喜ぶよ」

 薬草を受け取ったサクナおばさんははかりで重さを量り、依頼されていた量以上にあることに気付く。

「また量が多いけどほんとに良いのかい?」

 オレはいつもの事なので、

「良いですよ。と言うか、もういつもの事なんだから量さえ足りてたらいちいち確認しなくていいよ」

 と言いながらギルドのタグを首から外してサクナおばさんに渡す。

 この世界には冒険者という職業が存在する。
 冒険者とは冒険者ギルドが設けた認定試験をクリアしたものなら誰でもなる事ができ、様々な依頼を受けてこなしていくのが仕事だ。
 依頼には基本的にD級~S級までのランクがあり、簡単な薬草採取から魔物の討伐、商隊の護衛などその内容は多肢に渡る。
 依頼ランクはD,C,B,A,S級と難易度が高くなっていき、S級の依頼にはドラゴンの討伐といったものまで存在する。
 そしてこの依頼ランクにあわせるように冒険者個人にも冒険者ランクが付与されており、原則同じ依頼ランク以下の依頼しか受ける事が出来ないように定められていた。
 緊急の場合などには各ギルド支部の判断でランクを超える依頼の受注を認める事が許されているが、それによって冒険者が負傷などするとその支部に罰則が科される為、余程の事態に陥らない限りランクを超えての依頼は認められなかった。
 ちなみにオレは可もなく不可もなくのCランクだ。
 一般的にDランクは新人、Cランクは一人前、Bランクは一流、Aランクは超一流といった所だろうか。
 Sランク? Sランクはとりあえず規格外ならここに放り込まれる感じだな。

 そしてこの冒険者ランクを表すのがこのギルドタグだ。

「はいよ。Dランク依頼だから1ポイントつけて……あと報酬の銀貨だよ」

 サクナおばさんはそう言うとタグもろくに確認せずに報酬の銀貨2枚を指ではじいて飛ばしてきた。
 無駄に良いコントロールだなと思いつつ銀貨2枚を空中でキャッチして懐にしまう。

 都市に行くと宿代だけでも一泊銀貨2~3枚は必要なので都市では生活できないような稼ぎなのだが、空き家を無償で貸してもらっているので、この村で生きていくには十分な報酬だった。

「ありがと! あと、デン爺さんから依頼出てない?」

 オレは礼を言うとさっきギルドに来る途中でお願いされた依頼について聞いてみる。

「あぁ~、その依頼ならさっきセナ君が受けていったわよ」

「おぉ! って事はセナの奴、認定試験合格したのか!」

 セナとは今年13歳になる仲の良い少年だ。
 この村のとある農家の次男坊で、オレがこの村で最初に受けた依頼でたまたま助ける事になった男の子だ。

「一昨日の13歳の誕生日にすぐ試験を受けに来たわよ。あなたの後をいつもちょこちょことつけてたのって8歳の頃だっけ? 昨日の事のようだわ」

 角兎ホーンラビット駆除の依頼だったのだが、偶然森狼フォレストウルフに襲われそうになっている親子をみつけて助けたのが初めての出会いだった。

「もう13歳かぁ。最近コソコソしてると思ったらそういう事だったのか」

 きっとオレに内緒でこっそり試験を受けて驚かそうとしていたのだろう。

 まぁサクナおばさんのせいで台無しだけど……。

 知らぬふりして驚いてやるか。
 サクナおばさんも内緒だったのを思い出したのか気まずそうな顔をしている。

 オレは「聞かなかったことにしておくよ」と言ってその日は別の依頼を受けたのだった。

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