イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第二百十話 ここはファンタジーの世界

空から落ちてくるビクニを見て、彼女の体を受け止めようと走り出す者たちがいた。


その集団しゅうだんの中にリムもいたが、きゅうに足を止めてしまい、その場に両膝りょうひざをつく。


体力の問題もんだいもあったのだろう。


今の自分では、落ちてくるビクニを受け止めることはできないとさとったのだ。


「ビクニ……やっぱりあなたはすごい人なのですよ……」


つぶやくように言うリム。


彼女は落ちてくるビクニを見上げながら、なみだながして笑っていた。


「リムはあなたが生きていてくれて……本当にうれしいのです!」


そしてリムは膝をついたまま、彼女のあと挨拶あいさつ姿勢しせいをとり、空に向かってさけんだ。


そんな彼女を置いて、ライト王国の兵や武道家ぶどうかの里の者――。


さらには海の国の住民や亜人あじんたちもビクニのことを受け止めようと、空を見上げながら走っている。


その集団を後ろからし、誰よりも速くけていく者がいた。


「ビクニィィィッ!」


ライト王国の暴力ぼうりょくメイドと呼ばれるラビィ·コルダストだ。


ラビィはこの役目やくめだけは誰にもゆずれないとばかりに、きずついた体をふるい立たせていた。


落下らっかしているビクニの姿すがたはかなりとおくだ。


だが、距離きょりはあるが受け止められる――いや、かならず受け止める。


ラビィはいきを切らし、そう思いながらひた走っていた。


そして、落ちてきたビクニをギリギリのところでその両腕りょううででキャッチ。


しっかりとラビィの腕にかれたビクニは、ウトウトした表情ひょうじょうで彼女の顔を見た。


ラビィはそんな彼女に微笑ほほえみを返す。


「ビクニ、よくやったっすよ」


「ラ、ラビィ姉……?」


自分を抱いているのがラビィだと知ったビクニは、彼女のむねの中で泣きじゃくる。


ラビィはそんな彼女をふかく抱き締めた。


ビクニの顔を自分の顔を寄せ、ただ泣いている彼女をあやすように。


よしよしと、泣いている彼女へあたたかい抱擁ほうようと言葉をおくる。


それでもビクニは泣きわめき続けた。


自分のせいでソニックとググが死んでしまった。


彼らをまもれなかった。


いつも守られてばかりで最後さいごまでそうだったと。


ラビィはあいづちを打ちながら、そんなビクニの言うことをただだまって聞くのであった。


――女神がたおされてから数ヵ月後すうかげつご


ライト王国の復興ふっこうも進み、まだ簡易的かんいてき建物たてものしかないが、以前の活気かっきを取り戻していた。


各国かっこく支援しえんしてくれているのもあって、このままいけば近いうちに元の王国へと再起さいきできそうだ。


あの後――。


ラヴィはルバートと結婚し、ささやかなしきをあげた。


ソリテールは二人の養子ようしとなり、今はイルソーレとラルーナも入れて五人で暮らしている。


リムは王国の復興が軌道きどうに乗り出してから、さらに魔法と武術をみがくために一人旅へ。


レヴィもドラゴンの目撃情報もくげきじょうほうを聞き、いやがるリョウタを連れて王国をっていった。


皆、それぞれ別の道を歩き出していたのだ。


「お~い! ビクニ!」


はらっぱで横になっていたビクニのところへ、リンリが走って来る。


横になっているビクニのそばには、森の動物たちが集まっていて彼女にりかかりながら気持ちよさそうにびていた。


「今日もサボったなッ!」


そして、近づいてきたリンリはいきなり跳躍ちょうやく――。


寝ているビクニの上にフライングボディアタックを仕掛しかけた。


ビクニの周りでゴロゴロしていた動物たちが、危険きけん察知さっちしてか、素早すばやはなれていく。


そして空中から落ちてきたリンリの体が、あわてているビクニを押しつぶす。


ぐえッ! と押しつぶされたビクニがくるしそうに声をあらげた。


「殺す気かッ!?」


「いや~ごめんごめん。避けると思ってさ」


「全くあんたは、相変あいかわらず手加減てかげんを知らないんだから」


それからリンリはわるびれることなく話を始めた。


それは、二人がもとの世界に戻るための方法ほうほうが、最果さいはての大陸にあるというものだった。


数千年前に神がねむらせた古代こだい秘術ひじゅつ――異なる次元じげんへの転移てんい儀式ぎしきのやり方だ。


なんでも海の国でふたた宿屋やどやをやり始めたねこ獣人じゅうじんトロイアが、ほかの大陸から来たきゃくに聞いたそうだ。


リンリはその手紙てがみをビクニに突き付けてニヒヒと笑う。


「こりゃ行くっきゃないでしょ! いざ新たなる冒険ぼうけんへ、レッツでゴ―だよッ!」


右手をかかげてさけぶリンリ。


ビクニはため息をつくと、笑みをかべる。


女神をたおしてしまったことでもうあきらめていたが、まだまだ世界せかいは広い。


元の世界へ――家にいる祖母にまた会えるかもしれない。


それに、もしかしたら旅の途中とちゅうで、ソニックやググを生き返らせる方法も見つかるかもしれない。


魔法もあった、神も幻獣げんじゅうもいた、奇跡きせきも起きた――なんたってここはファンタジーの世界なのだ。


ビクニはそう思うと立ち上がる。


掲げているリンリの手を取る。


「よし、行こうッ! また冒険へ!」


「うん! 今度はあたしも一緒だよ!」


そして二人は空に見える太陽たいようへ、意味もなく大声をぶつけるのだった。


できないことなど何もないと。




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