イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第百九十八話 心得ています

たずねられたリムは何もこたえなかった。


ただソニックにを向けてその場に立っているだけだ。


彼女の態度たいど苛立いらだったソニックは声をあらげる。


どうした?


何故だまっている?


なんとか言ってみろ。


――と言いながら、その顔をゆがませていた。


「お前も……先に行ったあいつらもわかってんだろ……。俺がビビッてるってよ……」


そして、最初さいしょにリムにたずねてきたときと同じ、消え入りそうな声でそう言った。


ソニックは復活ふっかつした女神を前にし――。


その圧倒的あっとうてきちからの前に恐怖きょうふをしていた。


それは彼にとって生まれてはじめてのことだった。


愚者ぐしゃの大地の支配者しはいしゃであり、ほか亜人あじんたちもおそれる吸血鬼族きゅうけつきぞくべるラヴブラッド王――。


その息子むすことして誕生たんじょうし、おさなころから高い魔力と肉体的にくたいてきな強さをほこっていて彼にはこわいものなどなかった。


もちろん自分よりも強い者がいることも知っていたし、今までにもいのちうしないそうになった経験けいけん何度なんどもある。


それでもこの不死身ふじみの身体と力――さらに知恵ちえを使えば、たとえ神が相手であろうが負けるはずがないと思っていた。


だが、それはちがった。


自分のあまい考えだった。


レヴィがいうに女神は今地上ちじょうで、たわむれとひょうして剣だけの勝負しょうぶをしているとか。


それこそ女神の力がわかるというものだ。


女神はその気になれば、この世界をすぐにでも破壊はかいできるのだ。


今は復活――受肉じゅにくしたことでおのれの肉体の操縦そうじゅうを楽しんでいるにぎない。


きたらすぐに殺される。


途轍とてつもない力のを見せつけられながら絶望ぜつぼうして死ぬだけ。


彼はなまじ魔力が高かったため、女神の持つ本当の力を感じ、動けなくなってしまっていた。


そんなビクニをきながらうつむくソニックへ――。


ググがかなしそうにくと、リムは彼のほうを振り向いた。


「リムは心得こころえています」


そのときのリムの顔は満面まんめんみだった。


ソニックには彼女が何を考えているのかがまった理解りかいできない。


ただ何も言えずに、振り向いたリムの顔をながめているだけだった。


そんなソニックを見たリムは、左手で自分の右こぶしつかみみ、むねる。


暗黒騎士あんこくきし従者じゅうしゃ――ソニック·ラヴブラッドは何があってもビクニをまもる騎士であることを」


リムはソニックを見つめてさらにニコッと笑う。


「リムは心得ています。その騎士はいつも主人しゅじんを悪く言いますが、本当は大事に思っていることを」


笑顔のリムの言葉を聞いたソニックは、その場でなみだながしていた。


その内心ないしんで、たがが数日一緒にいただけのお前に何がわかると思いながら、彼女のやさしさにむねを打つ。


何か言い返さねばと思いながらも、あふれる涙のせいで言葉が出ない。


そんなソニックの姿を見たリムは、ふたたび彼に背を向けて天井てんじょうの大穴――空を見上みあげた。


「だから……リムはなんの心配もしていないのですよ」


リムはそういうと、体内に流れるオーラと魔力を合わせて放出ほうしゅつ――ものすごいきおいで飛びあがっていった。


のこされたソニックは、頭をすり寄せてくるググを撫でると、抱いていたビクニをゆっくり地面に寝かせる。


「ビクニをたのんだぜ、ググ……」


そう言いながら立ち上がったソニックは、先ほどのリムと同じように、天井に開いた大穴から空を見上げるのであった。

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