イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第百九十二話 審美眼

リョウタの悪態あくたいを受け続けた女神は、面倒臭めんどうくさそうな表情ひょうじょうで彼を見ていた。


そんなことを自分に言われてもといった顔で、組んでいた両腕りょううでほどき、その腕をこしまわしてくびかしげている。


それから女神は、レヴィの身体をたてにしているリョウタへようやく口を開く。


「そうは言ってもあなたにふたたいのちあたえてあげたのは私よ」


話し出した女神を見たリョウタは、その身をビクッとふるわせるとさらにレヴィのうしろへとかくれた。


そして、彼女の身体の隙間すきまから、こちらを見下ろしている女神をビクビクしながらもにらみつけている。


女神はそんなリョウタ姿すがたあきれながらも言葉を続けた。


もと世界でくるまが家にんできてリョウタは死んだ。


それをわざわざ復活ふっかつさせてあげたのに、れいこそいわれるべきなのにうらごとをいわれてもこまる。


――と、女神はうんざりした様子ようすでその白く長い手をった。


だがリョウタは、女神の言葉を聞いてはげしくいかり始めた。


眉間みけんしわせ、まるでのろい殺してやるかと言わんばかりに全身ぜんしんを震わせている。


とはいっても、レヴィの後ろに隠れたままだが。


「うるさいッ! なにが礼を言えだ! そもそも約束やくそくちがうだろうがッ! 俺は転生てんせい特典とくてんが付くって言うからお前の言うとおりしたんだぞ!」


そこからふたたびリョウタの言葉による猛攻もうこうが始まった。


スエット姿で異世界いせかいほうり出され、まず冒険者ぼうけんしゃギルドへ向かって登録とうろくをしようととしたが、登録料がはらえず、当面とうめんの生活のために街で労働ろうどうをしたこと――。


冒険者の集団しゅうだんかこまれていた女竜騎士おんなりゅうきしを助けようとしたら、何故か懸賞金けんしょうきんがかけられておたずね者になってしまったこと――。


その後は金なし、宿無しの野宿のじゅく放浪ほうろう生活にくわえ、おまけに命までねらわれてしまうという逃亡とうぼうたびに出る羽目はめに――。


「お前には俺をしあわせにする責任せきにん義務ぎむがあったはずだ!」


世界を救うよりも自分を救ってほしかった。


――と、リョウタは女神に向かってさけんだ。


その中で、誰よりも彼の言葉に喰いついた者がいた。


「な……なななッ!? なんということだ!? リョウタお前は!? 女神にえらばれし者だったのか!?」


そう――。


リョウタの当てもない労働生活に終止符を打った人物であり――。


彼がお尋ね者となってしまった原因となった女性――。


共に逃亡の旅を続けていた竜騎士――レヴィ·コルダストだ。


レヴィは驚愕きょうがくしながらも何故かうれしそうに声をり上げている。


彼女は、リョウタを普通ふつうの人間ではないとは感づいていたが、まさか別の世界から転生した者だとは思わなかったのだ。


ようするにリョウタはかくでいえば、吸血鬼族きゅうけつきぞくべるラヴブラッド王から世界を救った聖騎士せいきしリンリや――。


各国かっこくあらわれた精霊せいれい幻獣げんじゅう退治たいじして回った暗黒騎士あんこくきしビクニと同格である。


その事実じじつを知ったレヴィは、やはり自分の目にくるいはなかったと思い、よろこびを隠せずにいるのだ。


「私の見込みこんだ男が選ばれし者だったというこの事実……。それを知ってしまった私は……私は……ッ!」


レヴィ·コルダストは竜騎士である。


そのため、竜騎士のみが使う技術ぎじゅつ――飛翔ひしょうしててき頭上ずじょうから攻撃する能力のうりょくがある。


――のだが、彼女は着地ちゃくちがまともにできず、一度飛んでしまうと大体無様ぶざまたおれてしまうのだ。


リョウタが彼女と出会ったころよりも、だいぶマシにはなったが、それでもまだ完全に着地に成功できる保証ほしょうないのだが。


「このむねの高まりこそ……私の騎士としての潮騒しおさいだったのだなッ!」


「おいレヴィ!? こんなときにジャンプは止めろッ! お前が飛んだら誰が俺の盾になるんだよ!」


「止めるなリョウタ! 私のこの血が空をもとめているのだ!」


跳躍ちょうやくしようとするレヴィを必死ひっしに止めるリョウタ。


世界をほろぼそうとしている女神を前にして、ずいぶんとふざけた態度たいどの二人だった。


「神をもおそれぬとはまさにこのことだね」


それを見ていたルバートはつぶやくようにそう言うと、イルソーレとラルーナが歓喜かんきの声をあげて彼をたたえた。

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