イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第百八十八話 旋律

そのころに地上では――。


ラヴィたちが、灰色はいいろ甲冑かっちゅうを身に付けた愚者ぐしゃの大地の軍団ぐんだんと戦っていた。


かずの上ではまだ灰色軍のほうがまさっていたが、ルバートが中心となり、優勢ゆうせい戦闘せんとうをすすめている状況じょうきょうだった。


だが、突然地面からひかり放出ほうしゅつされ、あたりにいた者たちは敵味方てきみかた関係かんけいなく消滅しょうめつしてしまう。


そして、その神々こうごうしい光からは、この世のものとは思えぬほどうつくしい女性があらわれた。


一体何者だ?


その戦場せんじょうにいた誰もが現れた女性から目をはなせずにいた。


つき……それにほし……。ああ、やはり綺麗きれいね」


女性はそのままちゅうへとゆっくりかんでいくと、夜空を恍惚こうこつ表情ひょうじょうながめていた。


そのあまりの官能的かんのうてき姿すがたに、その場にいたすべて者がこころうばわれてしまいそうだった。


じっくりと夜景やけいを楽しんだ女性は、地上にいる者たちを見下みおろすとそっと口を開く。


はじめまして……ではないかしらね。私は女神……からゆうを生み出し者……。そして、あなたたちの母であり、この世界の創造主そうぞうしゅよ」


女性が名乗なのると、灰色の軍団たちがひどおびえ始めていた。


何かがおかしい?


ソニックの話によれば、女神は彼らをべるあるじであるはず。


それなのに、どうして恐怖きょうふに身をふるわせているのだろう。


周りの様子ようすを見たルバートがそう思っていると――。


「そしてさようなら……私の子供たち……」


その言葉と共にまばゆい光がはなたれた。


その光は周囲しゅうい木々きぎや大地をらし、今は夜だというのにまるで昼間ひるまにでもなったかのような光景こうけいとなる。


まるで太陽たいよう


そして、そのおだやかな光をびた者たちが次々つぎつぎ消滅しょうめつしていく。


「女神は自分の味方すら殺すつもりか!?」


ルバートはさけびながらけ出し、味方の軍も灰色の軍にも一刻いっこくも早くこの場から逃げ出すように叫んで回り出した。


だが、そんな彼の声など聞かずに――。


恐怖に打ちひしがれその場から動けない者や、反対によろこんで消滅されることを待つ者も多くいた。


実際じっさいに女神の放つ光を浴びた者らは、くるしむことなく、むしろいやされているかような表情で消えていっている。


女神の影響えいきょうで戦場は大混乱だいこんらんとなった。


その中でルバートは、仲間であるダークエルフのイルソーレと人狼ワーウルフの女性ラルーナと合流ごうりゅう


それからラヴィを見つけ、彼女のもとへと駆ける。


「ラヴィ! 無事だったか!?」


ルバートは彼女の無事をこころからうれしく思うと、その強張こわばっていた表情がゆるんだ。


そして彼は、彼女へ今すぐに逃げるように言うが――。


「まだビクニたちが……」


そう震えながらに言い返されてしまった。


普段は半目はんめのラヴィの目が見開いている。


いつもは気丈きじょうな彼女が震えている。


ラヴィもそうだが、イルソーレもラルーナも――いや、戦場にいるすべての人間がわれうしなっている。


ルバートはなんとかみなが落ち着きを取りもどせる方法ほうほうはないかと、思考しこうをめぐらせる。


何か、何かあるはずだ。


もう駄目だめだとあきらめてしまったら大事な人をまもれない。


それは、あの暗黒騎士あんこくきしの少女や吸血鬼きゅうけつきの少年が教えてくれたのだ。


状況じょうきょうを変えるには、考えるのを止めないこととほんの小さな勇気ゆうきであることを。


往生際おうじょうぎわが悪い子がまだいるようね。諦めが悪いというのは、とても見ていて気分が悪くなるわ」


宙に浮かぶ女神が、さらに攻撃の範囲はんいひろげようと手をかざそうとすると――。


「うん? これは……ふえ?」


どこからともなくメロディーが聞こえてきた。


その音は快活かいかつでありながらも、どこか人を安心させるような音楽だった。


そのかなでられる旋律せんりつによって、混乱していた者たちが落ち着きを取り戻し始めている。


そして、いたるところから避難誘導ひなんゆうどうの声が聞こえ始め、敵味方関係なく皆がまとまって逃げ出し始めていた。


「人を動かす音楽か……少し面倒めんどうね」


女神はポツリとそうつぶやくと、宙に浮いた状態からいきおいいよく笛の音のするほうへと飛んでいった。

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