第百八十一話 竜人~ドラゴニュート

稲妻いなづまを放はなちながら飛びかかってくるワルキューレ。


そのあまりの攻撃こうげきの速度そくどにリムは、避さけることができずに防戦一方ぼうせんいっぽうとなってしまう。


「くッ!? まさか竜人ドラゴニュートだったのですか!?」


竜人ドラゴニュートとは、竜の姿すがたをしている二足歩行にそくほこうの亜人あじんのことである。


その力ちからは数ある種族しゅぞくの中でも最強さいきょうを誇ほこり、あの吸血鬼族きゅうけつきぞくですら恐おそれる存在そんざいだ。


だが、竜人族は吸血鬼族の王であるラヴブラッドによって、数十年前に滅ほろぼされていた。


ワルキューレはその生き残のこりであろうと思われる。


「こうなっては力ちからの差さは明確めいかくだな、リム·チャイグリッシュ!」


「たしかに力も速はやさもあなたのほうが上……。ですが、勝敗しょうはいはそれだけで決まるわけではないのですよ!」


拳こぶしをぶつけながら余裕よゆうをみせるワルキューレだったが、次第しだいにリムは反撃はんげきが始まる。


向かってくる強固きょうこな鱗うろこに覆おおわれた拳のタイミングを見て、すかさずカウンター。


ワルキューレが手を出すたびに、リムの攻撃が当たるようになっていた。


武道家ぶどうかの里始まって以来いらいの才能さいのうと呼よばれてるだけあって――。


リムはこの短みじい間あいだにワルキューレの攻撃を見切みきり始めていた。


それに気が付いたワルキューレはすぐに後退こうたい。


やはり接近戦せっきんせんでは分ぶが悪いと、転ころがっていた聖剣せいけん――“女神の慈悲じひ”を拾ひろい上げる。


「小賢こざかしい……実に小賢しいな。だが、貴様きさまの非力ひりきな攻撃では決定打けっていだに欠かける。ようするに貴様では私を倒たおせん」


ワルキューレの言う通とおり。


リムのカウンター攻撃では、ワルキューレの強固きょうこな鱗うろこで覆おおわれた体を貫つらぬくことは難むずかしかった。


例たとえるなら――。


小さな針はりで表面ひょうめんを何度なんども刺さそうが、その生物の命いのちは奪うばえない。


当然リムもそのことには気が付いている。


何か、何か策さくはないかと。


彼女は頭の中にある兵法書へいほうしょや物語から、対抗策たいこうさくを捻ひねり出そうとしていた。


「どうした? 向かって来ないのならこちらから行くぞ」


ワルキューレは不気味ぶきみな笑みを浮うかべながら聖剣――女神の慈悲を構えた。


美うつくしかった彼女の顔はすでになく、先ほど自分でいっていた以上に容姿ようしが醜みにくくなっている。


「とはいっても、近づいてまた小賢しい真似まねをされるのも面倒めんどうだ。こちらの得意とくいな距離きょりで仕留しとめさせてもらうぞ」


ワルキューレはそういうと剣を翳かざし、再ふたたび雷を呼び起こす。


だが、すでに稲妻の動きすら見切り始めていたリムには当たらない。


これでは最初さいしょに対峙たいじしたときと同じ状況じょうきょうだ。


「さすがに躱かわすか。なら、これも同時に避よけられるかな?」


ワルキューレは実に嬉うれしそうに言うと、口を大きく開いて炎ほのおを吐はき出した。


吐き出された業火ごうかは、聖剣から放たれる稲妻と呼応こおうするかのようにリムを狙ねらっていく。


「さあ、どこまで逃げられるかな?」


聖剣を翳かざし、炎を吐き出しながら言うワルキューレ。


リムはそんな彼女を睨にらみつけながらもなんとか躱していた。


だがついに追い詰つめられ、目の前から向かってくる爆炎ばくえんに包つつまれてしまう。


「くッ!? ブリザードブレス!」


もはや焼やき尽つくされるかと思われたリムだったが、寸前すんぜんとところで氷こおりの魔法を唱となえ、向かってきた炎を相殺そうさい。


辛からくも危機ききを脱出だっしゅつした。


それを見たワルキューレはさらに笑う。


「やっと大魔導士だいまどうしの魔法が拝おがめたな。だがなんだ今の貧弱ひんじゃくな魔力は? 炎を消すので精一杯せいいっぱいに見えたぞ?」


リムは、皮肉ひにくな問といを続けるワルキューレに、何も答えることができないでいた。