イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第百七十七話 大事な人を守るため

「ルバート……どうして……ここに……?」


何が起きたのかわかっていないラヴィへ――。


ルバートはそっと手をべた。


彼女は差し出された手を放心状態ほうしんじょうたいのままつかむ。


およそ騎士きしとは思えぬような繊細せんさいな手の感触かんしょく


この肌触はだざわりは、音楽を愛し楽器がっきかなでる彼――ルバートの手だ。


ルバートはラヴィの手を掴み返すと、そのまま彼女を自分の体へと引きせた。


およそ男性とは思えないあまかおりがし、その体温たいおんに身をまかせる。


ああ、これはたしかにルバート·フォルテッシのものだ。


「ラヴィ、そんな顔をしないでくれ。私はもう君のそばにいるんだから」


「ああ、ルバート……ルバート……」


血のにおいがする戦場せんじょうにはつかわしくない熱い抱擁ほうよう


そんな二人へ、灰色はいいろ甲冑かっちゅうを身に付けた兵たちが、ふたたおそかろうとしていた。


それに気が付いたルバートは、きずついたラヴィを下がらせると一人前へと出る。


無粋ぶすいだな。私の知っている亜人あじんの友たちは、人の恋路こいじ邪魔じゃまはしないんだが」


ルバートがそういった瞬間しゅんかん――。


兵たちは一斉いっせいに彼へとおそかった。


だがルバートは、目にもとまらぬ速さで向かってくる兵たちを切りはらう。


さやからかれたのが見えないほどの剣速けんそく


愚者ぐしゃの大地を抜けば、世界最強せかいさいきょうと呼ばれているうで伊達だてではない。


しかし、それでも灰色の兵たちはひるむことなく飛びかかってくる。


あぶないッ!? せてルバート!」


ラヴィのさけびを聞いたルバートがその身をかがませると、彼の頭をすり抜けてラヴィの剣が兵たちをき飛ばす。


そして、ルバートは彼女の横にならび、ふたたび剣をかまえた。


「腕をあげたなラヴィ。今君とやったら私はやぶれるかもしれない」


「よく言うっすよ。……ルバート、ありがとう……」


身構える二人へ灰色の兵たちが襲い掛かった。


だが、そのとき――。


「姉さん! ラヴィ姉さんッ!」


女性の声が聞こえたと思ったら――。


ラヴィとルバートを取りかこんでいた兵たちを包囲ほういする集団しゅうだんあられた。


その集団には、平民へいみんから貴族きぞく


さらには武道家ぶどうかの里の者や、海の国の亜人たちの姿すがたも見える。


「助けに来た! みんなで……自分たちの大事な人をまもるために!」


集団の先頭せんとうに見えるのは――。


りゅうの姿をなぞらえた甲冑を身に付けた女性――ラヴィのいもうとである竜騎士レヴィ·コルダストだ。


彼女はやりかかげながら、ラヴィの姿を見て安堵あんどの表情を浮かべていた。


「ラヴィ姉さん! 俺たちもいるぜ!」


「ラヴィ姉さんはルバート兄貴の大事な人。ならあたしたちにとってもだよ!」


さらにダークエルフのイルソーレと、人狼ワーウルフのラルーナもの姿も見えていた。


イルソーレはがあまりにも大きなおの――バルディッシュをり回し。


ラルーナは大きな金属きんぞく――チャクラムをにぎり、その集団の誰よりも早く灰色の兵たちへとんでいく。


「ルバート兄貴の弟分おとうとぶん。イルソーレさまが相手になってやんぜ!」


「同じく兄貴の妹分。ラルーナも行くよ!」


そんな二人に続き――。


平民も貴族も武道家も亜人も、一斉に取り囲んでいた兵たちへと飛びかかっていった。


「こ、これは……? どうしてみんなが……来たんすか……?」


ラヴィにはこの状況じょうきょうが信じられなかった。


あれだけおびえていた者たちが、皆武器を手に取って戦っている。


すでに抵抗ていこうすることをあきらめていたはずの人間、亜人たちが協力きょうりょくしあっている。


一体何があって皆がふるい立ったのかと。


そんなラヴィにルバートが言う。


「レヴィだ。君の妹の言葉が皆を動かしたんだ」


「レ、レヴィ……。うぅ……」


ルバートの言葉を聞いたラヴィ。


彼女は、こんなときに不謹慎ふきんしんだと思いながらも、目からあふれるよろこびの涙を止めることができないでいた。

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