イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第百七十一話 順番

選択せんたくほこら――洞窟内どうくつないを進むソニックとリム。


暗闇くらやみを照らす松明たいまつが土壁にならび、まるで彼らをこばむかのように消えていく。


次第しだいくらくなってきたのを見たリムは、魔法をとなえてこの場をあかるくしようとしたが――。


「やめろ。無駄な魔力を使うな」


ソニックが彼女を止めた。


この先には、おそらくてき幹部かんぶである聖騎士せいきしリンリと戦乙女いくさおとめワルキューレがいる。


リムにはどちらかを相手にしてもらわねばいけない。


そのためにも、ただでさえ回数かいすうかぎられている魔法を使うなと言うのだ。


リムはその話に納得なっとくすると、クスッと笑みを浮かべた。


まさかあの無愛想ぶあいそだった吸血鬼族きゅけつきぞくの少年に、こんなことを言われるとは思わなかったのだ。


「なんか変な感じなのです……」


「あん? なにいってんだよ?」


「別に、なんでもないのですよ」


不可解ふかかいそうなソニックを見て、さらに笑ってしまうリム。


だが、すぐに気持ちを切り替える。


これからビクニをすくうのだと、全身に流れるのオーラませる。


あれだけいやだった武道家ぶどうかとしての才能さいのう


大魔導士だいまどうしになりたかった自分には、邪魔じゃまでしかなかったちから


しかし、今はあのときのように自分を拒絶きょぜつしたりしない。


それは、ビクニのおかげで彼女は自分を受け入れることができたからだった。


リムは、かつて大地の精霊せいれいノーミードの誘惑ゆうわくに負け、自分の故郷こきょうこわそうとしたことを思い出していた。


今思い出してもなさけない。


後悔こうかいはじという言葉では言いあらわせないほど反省はんせいしている。


だが、うれししかったことがある。


あのときのことをよろこんではいけないが、今思い出しても気分が高揚こうようしてしまう。


何故ならば、そのときに自分を救ってくれたのがビクニだったからだ。


リムは、そのときに彼女が言ってくれたことを思い出す――。


「全部リムだよ。のぞまなかった才能も……今まで頑張がんばってきたのも……武道も魔法も全部リムの力じゃないッ! リムは私に言ったよッ! 英雄えいゆうになりたいってッ!」


ビクニは里を壊そうとした自分を、いのちけて止めてくれた。


ふくれ上がった魔力による攻撃こうげきにもえ、自分のすべてを受け止めてくれた。


そんな友人であり恩人おんじんである人が連れられたのだ。


たとえ自分のこの身がくだけようとも、かならず彼女を救ってみせる。


(ビクニ……今度はワタシの番なのですよ。あなたには怒られるかもしれないですけど……。たとえ死んでもあなたとあなたのおさななじみを取りもどしてみせる!)


ソニックに続いて走るリムの頭の中では、ビクニとリンリを救出きゅうしゅつすることしかなかった。


友人の幼なじみで親友の聖騎士せいきしリンリ――。


リムは彼女の顔も性格せいかくも知らないが、ビクニが取り戻したいと思っているのならば、それをするだけだ。


そして、ソニックとリムは選択の祠のおく――奇跡きせきいずみがある場所へ辿たどり着いたが――。


「こ、こいつは……? いったいどうなってんだ!?」


そこには奇跡の泉がなく、泉があった場所には大きな穴が開いていた。


まるで泉ごとすっぽりとくり抜かれて、地下ちかへと落ちて行ってしまったようだった。


おそかったな吸血鬼」


驚愕きょうがくするソニックの横から、女性の声が聞こえてくる。


声のする方向ほうこうを見ると、そこには灰色はいいろ甲冑かっちゅうを身に付けた女性が立っていた。


女神の使い――戦乙女ワルキューレだ。


「て、てめえ……」


「目当ての暗黒あんこく騎士なら、我が同士リンリと共にもう行ってしまったぞ」


ワルキューレは、にらみつけてくるソニックに向かって、不気味ぶきみな笑みを浮かべて返した。

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