イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第百七十話 結びつき

「女神に召喚しょうかんされたからって、亜人あじんだからって、それがなんだっていうんだ!」


レヴィのその一言で――。


さわぎ出していた群衆ぐんしゅうの声はおさまった。


まるで雨雲あまぐも一筋ひとすじひかりのように、彼女の声がすべての暴言ぼうげんを止める。


「この中にもいるんだろう? かつて聖騎士せいきしリンリよってすくわれた者――暗黒あんこく騎士ビクニよって助けられた者も……」


レヴィは、これまで彼女たちがしてきたことを話し始めた。


まずは聖騎士リンリが世界を平和にしたことを伝え、次にビクニのことを話した。


姉であるラヴィから聞いたライト王国での出来事できごと――。


リムから聞いた武道家ぶどうかの里でのこと――。


さらにルバートがかたった海の国での事件じけんについて――。


もしビクニとリンリが、自分たちをほろぼすために女神に召喚されたとしたら、何故彼女たちは我々われわれの国を救ったのか?


それと、もし亜人あじんたちがてきならば、どうして自分たちと同じようにおそわれているのか?


そのことをよく考えてほしい。


ビクニもリンリも、そして亜人たちも自分たちと同じなのだ。


ただこの世界を――。


そばにいる大事な人をまもりたいだけだということをわかってほしい。


「だから……みんなそれぞれ守りたいものために……大事な人と共に生きるために……。力を……私に力をして……。おねがいします……」


レヴィは最後さいごにそういうと、群衆に向かってあたまを下げた。


下を向いた彼女の顔からはなみだこぼれていた。


その涙は、レヴィのあふれる思いであると共に、群衆――この場にいるすべての者へ向けた懇願こんがんでもあった。


その姿すがたを見たリョウタが、そっと彼女の横にならび、だまったまま同じように頭を下げる。


「リョ、リョウタ……」


そんな彼の姿を見たレヴィは、さらに涙が止まらなくなった。


大丈夫だ。


お前には俺がいる。


今までもなんとか一緒にやって来ただろう。


――とでも言っているのかのように、彼はレヴィと共にお辞儀じぎをした。


ステージで頭を下げている二人を見た群衆は、先ほどの暴徒ぼうとしそうだった様子は消え、何も言わずにただ笑みを浮かべ出すのであった。


――そのころソニックたちは、ビクニとリンリがいる選択せんたくほこらへと辿たどり着いていた。


だが、ソニックたちが来ることは女神に読まれていたようで、彼らは祠の出入り口でかこまれてしまっている。


「ソニック、リム。ここはうちにまかせてビクニのところへ!」


向かってくる兵たちを打ちたおしながらラヴィがさけんだ。


彼女の背中せなかにあるはこには、まるで一人で戦争でもするのかというほど武器がまれている。


剣、やりおのなど、かつては武芸百般ぶげいひゃっぱんの女騎士として――。


現在げんざい暴力ぼうりょくメイドとして名の知れた彼女ならではの持ち物である。


ラヴィの手には剣と斧がにぎられ、向かってくる灰色はいいろ甲冑かっちゅうたちをはらい続ける。


「ラヴィ姉さま!? この数、お一人では無理なのですよ!」


リムが彼女へ、まるで悲鳴ひめいかと思うような声を出した。


彼女がさけぶの当たり前だ。


いくらラヴィが強くとも、それは戦士としての常識じょうしき範囲内はんいないである。


リムの大好きな物語ものがたり――英雄譚えいゆうたんには一人で万のてきを打ち倒すような者の話が多いが、それはあくまで誰かが書いた物語フィクション


現実げんじつでは、とてもじゃないがありえない。


だが、ラヴィは先へ行けと言う。


早くビクニを助け、リンリを元にもどしてくれとさけぶ。


「うちなら大丈夫。あの陰気いんきな子とあたま空っぽ子と会うまでは、こんなところで死ねないっすからね!」


ラヴィは笑う。


付き合いはみじかいが、ビクニの生活の世話をし、リンリに剣を教えたのは彼女だ。


そのこともあって、二人に対しては家族のような感情を持っている。


おそらくこの先に行っても、自分のちからでは役に立てない。


だったらここが自分の立つべき場所だと、ラヴィは言葉を続けた。


「すまねえ……先へ行くぜ」


ソニックは表情ひょうじょうくもらせながらも祠へと走って行った。


「はぁぁぁッ! 姉さまからはなれるのです! オーラフィストッ!」


そしてリムはラヴィに向かってくる兵へ、両手を合わせてはな波動はどうを喰らわせると、彼女の背中に一礼いちれいをしてソニックの後を追った。


「ラヴィ姉さま……必ずまた会いましょうなのですよ!」

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