イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第百四十一話 愛以外を残らない

その後も、衛兵えいへいによるソニックへの拷問ごうもんは続いた。


吸血鬼族きゅうけつきぞくは、夜のあいだ治癒能力ちゆのうりょくがあり、簡単かんたんには殺すことはできない。


だけど、そのちからが今ぎゃくにソニックをくるしめている。


手足を切られようが、心臓しんぞうを突かれようが、頭をつぶされようが――。


またたく間にきずなおり、ふたたび拷問が始まる。


けして死ぬことができないソニックは、無限むげん地獄じごくあじわされていた。


少しだけ体が動くようになったぼくは、衛兵に飛びかかったけど。


反対にたたきのめされて、また部屋のすみかべにボロ雑巾ぞうきんのよう投げ捨てられ、そのまま気をうしってしまった。


「起きろ吸血鬼。貴様きさま苦手にがてな朝だぞ」


部屋のとびらが開く音が聞こえて目を覚ましたぼくは、再びやってきたワルキューレの姿すがたを見た。


声をかけられたソニックは、もう朝になって傷が治りにくくなっているのか、見るにえない傷だらけの姿だった。


ぼくが気を失っているあいだにも、拷問は夜通よどうし続いたのだろう。


ベットに拘束こうそくされているソニックは、何も答えずにうつろな表情ひょうじょうのまま天井てんじょうを見ているだけだった。


「だいぶマシになったようだな。それでいい」


ワルキューレは少し微笑ほほえむと、そのまま言葉を続けた。


女神さまが信仰しんこうされる世界では、殉教じゅんきょう存在そんざいをしない。


これまで愚者ぐしゃ大地だいち権力者けんりょくしゃを何人の拷問してきたが、その者たちの希望きぼう理想りそう粉々こなごなに打ちくだいてきた。


女神さまに反抗はんこうした者が、信念しんねんを持ったまま殺すことなどないようにするのが我々われわれつとめでもある、と。


死者ししゃでさえも女神さまに反抗することはゆるさん。人間、亜人あじんが我々に屈服くっぷくするときは、その者がみずからの意志いしのぞんで服従ふくじゅうをしなければいかん」


ワルキューレは話ながら、ベットで横になっているソニックへと近づいていく。


だけどソニックは、もう反応はんのうもできないくらいよわっていた。


「これまでもそうだ。処刑しょけいをされる者の頭蓋骨ずがいこつの中に、少しでも女神さまへの反逆心はんぎゃくしん宿やどさぬように。我々は完璧かんぺきな“治療ちりょう”をほどこす。その者のすべてを打ちくだき、すべてをからっぽにし、最後さいごには女神さまへのあい以外をのこらないようにするのだ」


ワルキューレはくるっている。


それなのに頭も良くて力もある。


自分よりも強い狂人きょうじんを相手にして、ぼくらにどんな手があるんだよぉ……。


「よし。では、これから朝の治療に入る。安心あんしんしろ。これまでの治療にくらべたら大したことはない」


それを聞いたぼくは少しホッとしたけど。


ソニックは、やはり何も反応していなかった。


それでもワルキューレはソニックへ話を続けていく。


「では吸血鬼よ。我々が何故ここまでして規律きりつ徹底てっていし、力で押さえ付けるのか? その理由りゆうを答えてみろ」


ワルキューレは、虚ろなソニックにたずねたけど。


当然返事へんじはない。


それを見たワルキューレは小さくためいきをつくと、身に付けている甲冑かっちゅうの中から小さなビンを取り出した。


そして、その中身をソニックへと垂らしていく。


液体えきたいがソニックの顔をめていった。


「こいつは……ッ!?」


虚ろだったソニックがきゅう両目りょうめを見開いた。


そして、体をジタバタさせながら必死ひっし形相ぎょうそうわめき始める。


「てめぇ! こいつはビクニの血だな! あいつに何をしやがったッ!?」


「貴様が私の質問しつもんに答えたら、暗黒騎士あんこくきしのことを教えてやる」


ワルキューレがソニックへかけた液体はビクニの血だった。


じゃあ、ビクニもソニックみたいにひどい拷問を受けているの……?


ぼくはそう思うとなみだが止まらなくなった。


一体ビクニがどんな目にわされているのかと考えるだけで、むねめ付けられるみたいだ。


もしかして……殺されちゃったってことはないよね……?


ビクニ……会いたい……会いたいよぉ……。


「答えろ吸血鬼。我々が何故ここまでして規律を徹底し、力で押さえ付けるのか? その理由わけをな」


ワルキューレは、昨晩さくばん調子ちょうしもどったソニックへ答えるように言った。


ソニックは表情をゆがめながら――あきらかに不本意ふほんながらも彼女の質問に答える。


「それは愚者の大地の住民じゅうみんたちをコントロールするためだろう」


その答えを聞いたワルキューレはおそろしい形相へと変わり、ソニックのことをにらみつけ始めていた。

「イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く