イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第百三十五話 全てにおいて上

暗黒剣あんこくけんかまえたビクニからはすごい闘気とうきはなたれている。


その体からあふれたくろな気は、今ぼくらのいる大聖堂だいせいどうらすほどだ。


これまでのたびで、ビクニは精神的せいしんてきにも肉体的にくたいてきにもつよくなった。


ぼくやソニックと出会ったころの彼女は、まだまだたよりなくてとても騎士きしとは呼べない感じだったけど。


何度も危ない目にった経験けいけんや、たくさんの人たちとの出会いとわかれ――。


そして、ソニックの吸血きゅうけつによって変化へんかしたハーフヴァンパイアの体。


どんなに強いやつだって、今のビクニをたおすのはそう簡単かんたんじゃないはずだ。


「ほう、面白おもしろい。貴様きさまじっているな」


だけど、ワルキューレに全然ひるんだ様子ようすはなかった。


彼女はビクニがハーフヴァンパイアだとわかると、ニヒルな笑みをかべている。


これだけ強力な闘気を放っているビクニを見て笑うなんて……。


このワルキューレって何者なんだ?


「にわかには信じられんが、吸血鬼族きゅうけつきぞくの生きのこりをたらしんたようだな。やつらにとって人間族は食料しょくりょうでしかないのだが。どうやら貴様には亜人をたらし込むさいがあるようだ」


「人をだらしのない女みたいに言うなッ! それに今あいつは関係かんけいない!」


「なんだ? ちぎり合った相手と喧嘩けんかでもしたのか?」


どう見てもワルキューレの挑発ちょうはつなんだけど。


今のビクニにソニックの話はダメだよ。


「だから……関係ないって言ってるでしょ」


しずかで相手を威圧いあつするような声を出すビクニ。


これはホントにおこったときのやつだ。


ぼくは人間や亜人の悪いこころ大好物だいこうぶつなんだけど。


この手のタイプの味は苦手にがてなんだよね。


ビクニは静かな怒りをらしながら、ワルキューレへと剣を向けた。


剣をおおっている禍々まがまがしいオーラが、ビクニの感情かんじょうつながっているみたいにうごめている。


「それが女神さまからさずかった暗黒剣か。なるほど、たしかにすさまじい。だが、私にもお前と同等どうとう、いやそれ以上の魔道具まどうぐがある」


ワルキューレがそう言うと、彼女がかぶっていたかぶと装飾そうしょく羽根はねが光りかがやいた。


すると、羽根が幾重いくじゅうにもかさなった文字のようなものとなって、ワルキューレがにぎっていた剣の一体化いったいかしていく。


そして、シンプルなロングソードだった剣が、その剣身けんしんにびっしりと文字が書き込まれている状態じょうたいへと変わった。


「この剣の名は“女神の慈悲じひ”……。この聖剣せいけんは貴様の持つ暗黒剣やリンリの持つグレートホーリ―ソードの上位互換じょういごかんにあたるものだ」


「それがなんだっていうの! 私はリンリを止めにいくため、ここであなたをたおすだけだよッ!」


「止めるも何も、すでもうライト王国は陥落かんらくしているころだろう。今さらなのだよ、暗黒騎士あんこくきし


「うるさいッ!」


りかかったビクニの剣は、ワルキューレの灰色はいいろ甲冑かっちゅうをかすめた。


それからビクニは続けて剣をったけど、ワルキューレにはとど気配けはいすらなかったよ。


「どうした暗黒騎士? もう終わりか?」


ぼくは幻獣げんじゅうだから剣のことはよくわからないけど。


何もわからないぼくでも、ビクニとワルキューレの実力じつりょく理解りかいできた。


だけど、これは剣の試合じゃない。


ビクニはいつだって自分よりも強い相手を前にしても、けして逃げずにたおしていったんだ。


今回だってきっと……。


「うぎゃぁぁぁッ!」


ぼくがそう思っていると、ビクニの叫び声が聞こえた。


その声は苦痛くつうりつぶされていて、聞いたほうもくるしくなる。


「ふむ。ハーフヴァンパイアには再生能力さいせいのうりょくはないのか。それとも夜にならなければその能力は発揮はっきされないとか」


ワルキューレがビクニのかたに剣を突き刺して、何かためすかのような口調くちょうひとごとつぶやいていた。


そうだよ……。


ビクニは一人で戦いに勝ってきたわけじゃない。


いつもソニックがそばにいたから勝ってこれたんだ。


いくら暗黒騎士として強くなっても――。


ハーフヴァンパイアになって身体しんたい能力が上がっていても――。


やっぱり、ソニックがいないとダメだよぉ。


でも、今彼はいないんだからぼくが頑張がんばらないと。


ソニックと仲直なかなおりさせるまでビクニを死なせるもんか。


それからぼくがビクニの傍へと向かおうとすると、突然体をつかまれてしまった。


ぼくのことを掴まえたのは、街にいた灰色の衛兵えいへいかと思って振り返ってみたら――。


「ググ……。お前の魔力まりょくりるぞ」


そこにはソニックが表情を強張こわばらせて立っていた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品