第百三十四話 我らが同士

「我わが同志どうしリンリはここにはいないぞ」


ワルキューレはそう言うとビクニの目の前で立ち止まり、その目を見つめ始めた。


ビクニは負けじと目をそらさずに睨にらみ返している。


たぶん、自分の幼おさななじみを同志って言われたのも、彼女に睨み返させたを理由りゆうの一つっぽい。


ビクニは妙みょうなところで負けず嫌ぎらいなんだよね。


「なら、リンリはどこにいるの!?」


「彼女ならもうライト王国にたどり着いている頃ころではないか?」


ライト王国は、ぼくやソニックがまだビクニと出会う前から彼女とリンリがいた国だ。


二人の生まれた国ではないみたいだけど。


ビクニとリンリ、そしてぼくとソニックと彼女の旅たびが始まった場所。


なら、リンリはライト王やみんなのところへ帰ったってこと?
 

うーん……せっかくここまで来たのに、すれ違ちがいになっちゃったね。


「ライト王国……? どうしてリンリがライト王国に行っているのよッ!」


驚おどくビクニを見たワルキューレは意地悪いじわるな笑みを浮うかべると、なぜリンリがライト王国へ向かったのかを説明せつめいし始めた。


今リンリは幻獣げんじゅうバハムートに乗って、この世界を制圧せいあつしに回まわっている。


その手始めに、平和の象徴しょうちょうといわれている国――ライト王国を滅ほろぼし、世界中の人間や亜人あじんたちが女神を崇あがめるようにするのだとか。


「すでに間者かんじゃも送り込こんでいるし、あそこには女神さまの泉いずみもあるからな。最初さいしょに攻め落とす国としては何かと都合つごうが良よいのだ」


「う、嘘うそだよ!? リンリがそんなこと……絶対ぜったいにありえないッ!」


「嘘などついて私に何の得とくがある? 我が同志リンリは自みずからの意思いしで行動こうどうしているのだ。すべては女神さまためにな」


信じられないといった顔をしているビクニに、ワルキューレはさらに言葉を続けた。


「それに、あの周辺しゅうへんには色々と面倒めんどうな国も多い」


それを聞いたビクニは、すぐにワルキューレの言いたいことがわかったみたい。


ぼくにもワルキューレの言葉の意味がわかったよ。


リンリはライト王国へと向かう途中とちゅうで、武道家ぶどうかの里さとストロンゲスト·ロードや海の国マリン·クルーシブルも滅ぼすつもりなんだ。


「なら、私がリンリを止める」


「わからんな。どうしてリンリを止める?」


「決まっているでしょッ!? ライト王国も周辺の人たちも、みんな私の大事な人たちの故郷こきょうなんだよ! それをよりにもよってリンリに滅ぼされてたまるか!」


叫さけび返すビクニを見たワルキューレは、すごく不可解ふかかいな顔をして小首を傾かしげてる。


理解できない――って、その表情ひょうじょうから言葉を発はっしているみたいだった。


「わからんなぁ。なぜ貴様きさまは我々われわれの邪魔じゃまをするのだ? 貴様も女神さまに選えらばれた者だろう? ならば、我々に協力きょうりょくするのが筋すじであろうが」


「女神さまが世界を滅ぼすつもりで私とリンリを転移てんいさせたんなら、そんなの逆ぎゃくに止めてやる!」


叫び返し続けるビクニ。


ワルキューレはもういいとばかりにため息をつくと、腰こしに下げていた剣を抜いた。


「所詮しょせんは落ちこぼれか。貴様も前に送られてきた男と同じだ。才さいの無い者は大局的たいきょくてきにものを見れん」


「えッ? 前に送られてきた男って、もしかしてリョウタのこと?」


「知る必要ひつようはない。何故なら貴様はここで私に始末しまつされるのだからな」


剣を突き立てたワルキューレ。


だけど、対たいするビクニはめずらしくやる気まんまんだ。


「お前なんかに絶対に負けないッ!」


そしてビクニは、腕うでに付いた魔道具まどうぐを暗黒剣あんこくけんへと変化へんかさせて、ワルキューレと向かい合った。