イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第百二十七話 城壁に付いた鏡

それから綺麗きれい舗装ほそうされた石畳いしだたみの道を進むぼくら。


途中とちゅうで誰かにおそわれたりするかと思ったけど、そんなことはまったくなかった。


ビクニもソニックもぼくと同じことを考えていたみたいで、どうも違和感いわかんを感じていそう。


あれ、ここって愚者ぐしゃ大地だいちだよね? 


世界で一番危険きけんなところなのに、ずいぶんとしずかなんだなって、期待外きたいはずれもいいとこ。


うん? ちがうか?


拍子抜ひょうしぬけってやつのほうが合っているのかな?


いや、肩透かたすかし食うってやつだっけ?


まあ、どっちでもなんでもいいや。


ビクニもソニックもきずつかなかったんだから。


しばらく石畳の道を進むと、大きな城壁じょうへきが見えてきた。


その城壁は、この石畳やこの愚者の大地の風景ふうけいと同じで灰色はいいろをしている。


「なんだか巨大きょだい監獄かんごくみたい……」


ビクニがポツリとそう言うとソニックも同じ気持ちだったみたいで、となりでコクッとうなづいていた。


それからぼくらが城壁に沿って歩いていくと、壁に付けられた大きなかがみがあった。


「なんだろこれ? 城壁なのに城門じょうもんじゃなくて鏡なんて、変なの」


城壁に取り付けられている鏡を不思議ふしぎそうに見ているビクニ。


そんなビクニを見たソニックは、あわてて彼女の手を引っ張った。


「バカ野郎ッ! どんな仕掛しかけがあるかわからないのにボケッと見てんじゃねえ!」


「ご、ごめんなさい……」


ソニックったら心配しんぱいなのはわかるけど。


そんな言い方じゃビクニが萎縮いしゅくしちゃうよ。


ぼくが注意するように鳴くと、ソニックはわかってくれたのか、ふくれっつらでビクニに言い過ぎたことを伝えていた。


「私のほうこそ不用心ぶようじんだった。これからは気を付けるね」


その言葉を聞いたビクニもソニックに頭を下げた。


たぶん、彼女はほかの人とくらべると性格せいかくが悪いと思う。


イライラするとすぐに顔に出るし、人見知ひとみしりなのに周囲しゅういの空気は全く読まないし、ちょっとしたことで文句もんくばかり言う。


だけど、自分が悪いと思ったらちゃんとあやまれる。


そして、お世話になったりうれしいことをしてもらえると、しっかりとありがとうを言える。


だから人間や亜人あじんの悪いこころを食べるぼくにとって、ビクニはずっと一緒に居たいと思える子なんだ。


なんだか矛盾むじゅんしているけどね。


それはソニックも同じで、二人と出会ってからは毎日が楽しい。


「ま、まあ、わかればいい」


ソニックはそんなビクニの態度たいどほおめながら、ひとまず城壁の中に入る方法を考えようと言った。


やれやれ。、顔なんて赤くしちゃって。


いい加減かげんビクニのこういうとこにれないもんかな。


さて、中へ入る方法を考えるといっても、見たところこの城壁に出入り口はなさそうだし、どうすればいいのか?
 

ぼくがソニックの頭の上でそう思っていると、突然ソニックがちゅうへとかび始めた。


「とりあえず俺が中の様子ようすを見てくる。お前はここらへんかくれてろ」


どうやらソニックは、背中せなかからコウモリのつばさひろげて、城壁を飛んでえるつもりみたい。


う~ん、そんな簡単かんたんに行くかな?
 

ソニックは一見いっけん冷静れいせい物事ものごとを考えるタイプに見えるんだけど。


どうも先に体が動いちゃう子だから、後で大変になることが多いので不安ふあんだよ。


「オッケー。何かわかったらすぐに帰ってきてね」


地上から手をるビクニを見ながら、ソニックの頭の上に乗ったぼくも次第しだいに空へと飛んで行く。


ビクニはまるで散歩さんぽに出かけるぼくらを見送みおくるかのような、そんな気楽きらくな笑みを浮かべていた。


たしかにそんなリラックスした顔をするのも、ここまで何もあぶないことがなかったから、気持ちはわかるけどね。


それにしてもこんな強固きょうこな城壁を、一体誰が何のためにつくったんだろう?


何かおそろしい魔物まものから街をまもっているのかな?


それとも、もっとぼくが考え付かないような理由りゆうのため?


何にしてもぼくが考えることじゃないや。


ぼくはただビクニとソニック二人と居たいだけなんだから。


それから、ぼくらは城壁を越えて壁の中をのぞいた。


「な、なんだこれは……?」


そして城壁の中を見たソニックは、まるでうめくような声を出していた。

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