第百十三話 まだ終わっていない

次の日の朝あさ――。


昨夜さくやに中心街ちゅうしんがいの火事かじを消した俺とググは、旧市街きゅうしがいの宿屋やどやへ戻もどるとすぐに眠ねむった。


そして、今はベッドの上で倒たおれたまま動けずにいる。


けして睡眠不足すいみんぶそくだからもう少し寝ねていたいわけではなく、ちょっと体を動かすだけで全身ぜんしんに痛いたみが走はしるのだ。


やはり昨日きのうググの魔力まりょくを使って唱となえた風かぜの魔法まほうは、この体には負担ふたんが大き過すぎたようだ。


あと一応いちおう、魔法陣まほうじんも仕込しこんできたのもあるか。


この体で無理むりはするものではないと、今さらながら思う。


そして、俺とは違ちがった理由りゆうで動けないググ。


奴やつは限界げんかいまで俺に魔力を吸すわれたため、調子ちょうしが戻らないのだろう。


ベットの上――俺の横よこで弱々よわよわしく呻うめきながら腹はらを見せて倒れている。


「あっ、起おきた? なんかソニックもググも球技大会きゅうぎたいかいの後みたいだね」


そんな俺たちを見たビクニは、呆あきれながらいつもの意味いみのわからない造語ぞうごを言い、今朝けさの食事を運はこんできた。


この宿やどには食事は付かないと聞いていたが、どうやら宿屋の店主てんしゅである猫ねこの女獣人じゅうじん――トロイアが特別とくべつに用意よういしてくれたらしい。


パンと魚さかなのスープにミルクといった簡素かんそな朝食ちょうしょくだ。


「はい、あ～ん」


「やめろ……自分で食える」


「何をこんなことくらいで恥はずかしがってるの? 私たち一緒いっしょにベッドで寝ねるような仲なかなのに」


「誤解ごかいを生うむようなことを言うな……」


ビクニの奴が俺に朝食を食べさせようと、スープを掬すくったスプーンを出してきた。


俺はそれが嫌いやだったのですぐに止めさせた。


断だんじて恥はずかしがっているわけではない。


俺は自分のペースで食事がしたいだけだ。


ビクニは少しガッカリした様子ようすで新しいスプーンをとると、ミルクを掬ってググに飲ませていた。


「それにしても、昨日きのうは大活躍だいかつやくだったね」


不満ふまんそうな顔から一転いってんして微笑ほほえんだビクニは、俺とググが火を消したことで中心街の住民じゅうみんたちから感謝かんしゃされたと話を始めた。


何でも俺たちが飛び立った後――。


旧市街に残のこされたビクニは、イルソーレやラルーナ、それから店にいた亜人あじんたちに声をかけ、水浸みずびたしになった中心街の後片付あとかたづけをしていたそうだ。


火を消した俺たちがすぐに宿に戻って寝ている間あいだに、そんなことがあったのか。


人見知ひとみしりくせに相変あいかわらず行動力こうどうりょくのある女だ。


ビクニは俺たちの様子を見るためにトロイアと宿に戻って来たそうだか、中心街では今でも作業さぎょうが続いているらしい。


「みんな一緒いっしょになって頑張がんばってるよ」


「そうか……」


「ググも頑張ってくれたよね。はい、あ～ん」


差さし出したをスプーンをチビチビ舐なめるググは、ビクニへ嬉うれしそうに鳴き返した。


「これで少しは旧市街の人たちへの偏見へんけんがなくなってくれるといいんだけれど……。なんてちょっと甘あまいかな?」


ビクニは微笑ほほえみながらそう俺に言った。


困難こんなんが起おこり、互たがいに支ささえ合う――。


それでもこれですべて上手うまくいくわけではない。


だが、人間と亜人が協力きょうりょくして何かするということは、俺が聞いた限かぎり今までなかったことだ。


今回のことで、少しでもビクニの期待きたい通どおりになればいいんだが……って、ことではなく。


さっさと船ふねを借かりられればいいんだがな。


だが、その前にやることがある。


俺は食事をすますとベッドから起おき上がった。


やはり全身が痛い。


そんな痛がっている俺を見てビクニが心配しんぱいそうな顔をしていた。


「大丈夫? まだ寝てたほうがいいんじゃない?」


「問題もんだいねえよ。痛がるよりもやることがある」


「街のほうなら大丈夫だよ。ソニックはまだ寝てたほうがいいって」


俺は心配するビクニを無視むしして訊たずねる。


「なあ、ビクニ。ルバートは今どこだ?」