イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第百八話 乾杯の音頭

みせ到着とうちゃくすると、そこには大勢おおぜい亜人あじんたちがパーティーの準備じゅんびをしていた。


味気あじけなかった店内に花などをかざりつけ、一番目立めだつところには横断幕おうだんまくが付けられていて、そこに『暗黒騎士あんこくきしビクニとそのおともよ。ようこそわれらが海の国へ』とデカデカと書かれていた。


お供と書いてあるのを見て、俺とググのついで感や後付あとづてきな感じに少しはらが立ったが、まあしょうがない。


ビクニは、この旧市街きゅうしがいの亜人たちにとって、ルバート以来いらいしたしくなった人間族なのだから。


俺がそんなことを思っていると、ねこ女のトロイアが店主てんしゅである中年ちゅうねんのエルフに怒鳴どならられていた。


どうも俺たちを早くれてきぎたようだ。


「まだ用意よういができてないのにどうして連れてくるんだよッ!?」


「えッ!? ……いや……あの……その……」


おこられているトロイアを見たラルーナは、クスクスと小さく笑っていた。


だが、せっかくだからと自分たちにも準備も手伝てつださせてほしいと言ったビクニのおかげで、店主のいかりはおさまった。


何が手伝わせてほしいだよ。


俺はやりくねえぞ……そんなこと……。


と、思っていたのだが、ビクニのやつかされ、結局けっきょく手伝わされることになった。


料理りょうりのほうは各自かくじの持ちり――。


パーティーの参加者さんかしゃが家で作ってきたものをみなで分け合う形式けいしきのようだ。


そのためなのかは知らないが、俺とイルソーレは食器しょっきやグラスをならべる仕事をたのまれた。


ビクニ、ラルーナ、トロイアの三人はパーティーの飾りつけのほうを手伝い始めている。


「はぁ……なんで俺がこんなことを……」


「ホントしりかれてんな、お前」


ガハハと笑いながらテーブルにグラスを置いて行くイルソーレ。


その台詞せりふは前にも言われたな。


俺はべつにビクニの言いなりになっているわけではない。


まわりからはビクニに俺が“したがっている”ように見えるかもしれないが、実は俺がビクニに“従ってやっている”んだよ。


俺は命令めいれいされているんじゃない。


あいつのワガママを聞いてやっているんだ。


ここはかなり重要じゅうようだ。


だが、面倒めんどうくさいのでいちいち言ったりはしないがな。


それからエルフやドワーフ、獣人じゅうじんたちがそれぞれなべ酒樽さかだるかかえて店に入ってきた。


そして、テーブルへ置いていた食器にりつけていき、それぞれのグラスにも樽に入った飲み物をそそいでいく。


「やっぱこれぞ異世界いせかいファンタジーだよッ! ねえググ」


ビクニの奴がまたわけのわからないことを言い、ググは意味いみもわかっていないだろうにうれしそうに鳴いて返事をしていた。


そして、ようやくパーティーの準備がととのった。


参加者が全員ぜんいんテーブルへと着き、皆グラスをかかげる。


「え~では、今夜こんや主役しゅやくであるビクニに乾杯かんぱい音頭おんどをとってもらいましょうか」


いつのにか場を仕切しきり始めたトロイア。


そんな猫女を見たラルーナは、「お前が仕切るなよ」とでも言いたそうな不機嫌ふきげんそうな顔をしていたが、すぐに笑みをかべて小さく拍手はくしゅを始めた。


その拍手に続いて、亜人たちが一緒になってビクニの名をさけび始めた。


皆に一斉いっせいに名を呼ばれたビクニの奴は、宮殿きゅうでん貴族会議きぞくかいぎに出たとき同じで、こおったさかなのようにかたまっている。


そして、イルソーレによって皆が見える位置いちへとはこばれ、パーティーの参加者たちから何か言うように急かされていた。


「わ、わたくし……ビクニは……このようなパーティーを開いていただき……」


……こいつはとても見てられない。


俺はそう思ったが、亜人たちは「ウェ~イ」と声をあげてり上がっている。


イルソーレは口笛くちぶえらし、ラルーナは小さく拍手を続け、トロイアは何故かぎ始め、上着を天井てんじょうへとバサッと投げていた。


「でも、こうやってこの国に住む人すべてが仲良くなれるといいなって思います。じゃあ……乾杯」


ビクニの弱々よわよわしい乾杯の音頭に、パーティーの参加者すべてが歓喜かんきの声をあげ、持っていたグラスをかさねた。


緊張きんちょうでガチガチの言葉はひどいものだったが、それでも最後さいごだけはしっかりと決まっていた。


まあ、人見知ひとみしりのビクニにしてはよくやったか。


と、思いながら俺はグラスに口をつけた。

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