イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第百五話 言葉よりも

過熱かねつする舌戦ぜっせんの中――。


だまったままのビクニのよこでルバートが、亜人あじんたちのすべてが人間族にんげんぞくにくんでいるわけではないと言い続けていた。


だが貴族きぞくたちは、ルバートを言いかそうと総攻撃そうこうげき仕掛しかける。


では現実げんじつに、愚者ぐしゃ大地だいちから押しせる亜人たちの中から、人間族を憎んでいる者だけを見つけることができるのか?


旧市街きゅうしがい住民じゅうみん――さらにはちがう国からやって来る亜人とともらすなど、所詮しょせん理想主義りそうしゅぎにすぎない。


文化ぶんかが違う者――。


目のいろはだの色が違う者――。


耳がとがっていたり、あたまえているような者にかこまれて暮らしたい人間など、中心街ちゅうしんがい――いやこの国にはいない、と貴族たちは、まるでおそわれたはち大軍たいぐんのように怒涛どとうの言葉をして続けた。


それからさらに――。


ルバートのはからいで、中心街や宮殿きゅうでんはたらき始めた亜人たちのせいで、他の者がおびえているという。


だが、ルバートは負けずに言い返す。


「世界が平和へいわになったというのに、また魔物まもの各地かくちあばれて始めている。昨夜さくやのクラーケンもそうだ。我々われわれがいつまでもあらそっていたら、この国はいずれほろんでしまいます」


そう言われた貴族たちは押し黙った。


しかし、またガヤガヤと小声で文句もんくを言い始めている。


「……ソニック」


ビクニがきゅうに俺に声をかけてきた。


力強ちからづよい目が俺のことをじっと見つめている。


この場をどうにかしてくれってことか?


具体的ぐたいてきに何か言ってくるわけではなかったが、ビクニがそう言っているように俺は感じた。


何故そんなことをしなければいけないのかと思ったが、俺はふねを手に入れて目的地もくてきちへ行くためなのだと、自分に言い聞かせる。


しょうがねえ……。


ここは一つ、空気を変える意味いみでも適当てきとうに話をしてやるか。


俺は椅子いすから立ち上がり、大声で話を始めた。


愚者の大地とは狂暴きょうぼうなモンスターが生息せいそくし、世界地図上でも空白くうはく――無人あつかいされている場所。


そこは、国を追われたおたずね者や、迫害はくがいを受けた異種いしゅ族や、善良ぜんりょうな世界に相容あいいれぬ魔族たちがらしている。


各種族かくしゅぞく、魔族などの縄張なわばりがあるので完全な無法地帯むほうちたいではないが、危険きけんなところであることは変わらない――と、くわしく説明せつめいをした。


それを聞いて、それがどうしたのだ? と貴族たちが苛立いらだった声をあげた。


何故そんな誰もが知っている話をしたのだ? と、その場にいる俺とビクニとググ、そしてルバートをのぞいた全員が不可解ふかかい表情ひょうじょうをしている。


俺としては、愚者の大地のことをよく知らない人間がいるかと思って話してみたんだが。


どうやらこの国では、常識じょうしきだったらしい。


俺が話すことを間違まちがえたかと思っていると――。


「でもみんな……」


ビクニのやつがたまっていた思いをき出すように話し始めた。


「旧市街の亜人たちはそんなところから来たんですよ。それにまだ……家族かぞくが愚者の大地にのこっているんでしょ……」


自身じしん家族かぞくはなれてしまった経験けいけんからか、ビクニは想像そうぞうするだけでなみだが出るみたいだった。


俺のかたっていたググがビクニの肩に飛び乗り、なぐめるようにく。


そして、その涙を見た貴族たちは、そんなビクニに何も言えなくなってしまっていた。

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