イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第七十九話 ラヴィの手紙

「あぁッ!? どうしようソニックッ!?」


今俺の横で暗黒騎士あんこくきしのビクニという女があわてふためいていた。


この女は知らないやつを前にすると、途端とたん萎縮いしゅくして口籠くちごもってしまうのだが、俺にだけはやかましいくらいベラベラと話す。


ライト王国を出発しゅっぱつして少しはマシになったかと思ったが、どうやらまだ人見知ひとみしりでうるさい(俺にだけ)ままだ。


そして、この女がわめくと、決まって一緒にたびをしている幻獣げんじゅうバグことググがうれしそうにき始めるんだ。


今も俺のあたまの上で、ギャーギャー言っているビクニを見ながら、じつたのしそうにしている。


俺にとってこの女がさわぎ出すということはわずらわしいだけなのだが、この幻獣は一体何がそんなに楽しいのやら……。


俺にはまったくもって理解不能りかいふのうだ。


ふねらないと愚者ぐしゃ大地だいちへ行けないじゃん! これじゃリンリに会えないよッ!」


俺は、この女がさがしているという、聖騎士せいきしリンリのいるところまで道案内みちあんないをする約束やくそくをした。


なんでもそのリンリとかいう女は、俺の故郷こきょうがある愚者の大地にいるということだ。


そこで、とりあえず船で向かおうと、この今いる海の国――マリン·クルーシブルへ来たんだが、どうやら今この国は、内戦ないせんひどくてどの船も就航しゅっこうむずかしいらしい。


「とりあえずほかの船にもたのんでみるか」


「そうだね。じゃあ、次はソニックが言ってよ」


「はっ? なんで俺がそんなことしなきゃなんねぇんだよ」


「だって、さっき私が訊いたんだよ。次はソニックのばん


この女は本当に俺には遠慮えんりょをしないな……。


まともな人間なら俺が吸血鬼族きゅうけつきぞくと聞いただけでおそれるもんなんだが……。


どうもビクニの奴は、俺なんかよりも知らない人間に声をかけることのほうが勇気ゆうきがいるらしい。


本当に変わった女だ。


それから俺たちはみなとにある船を見てまわった。


だが、どの船乗りにも同じ理由でことわられる。


やはり内戦問題もんだいはかなり深刻しんこくなようだ。


ただ気になったのが、俺がたずねたときとビクニのときとでは、船乗りたちの態度たいどちがったことだ。


たぶんだが、俺が亜人あじん(人間族ではない者)だとわかると、いきなり見下みくだすような言い方に変わるのだ。


今までもそういう経験けいけんはあった。


だが、これほど露骨ろこつにやる連中れんちゅうはいなかったんだが、この国はそういう極端きょくたん風土ふうどなのかもしれない。


「どの船もダメだったね……」


わかりやすくかたを落とすビクニ。


それを見て、今度はさすがのググも元気なく鳴いていた。


まいったな……。


俺一人ならつばさを広げて飛んで行けるが、さすがにこの女をかついで海をわた自信じしんはない(ググはかるいから問題ないが)。


だがビクニは、こんなことで旅をえるようないさぎいよい性格せいかくではないが……。


さてと、これからどうするんだかねぇ。


「あっ!」


「なんだよきゅうに? (ほら来た)」


「そういえばマリン·クルーシブルに着いたら、この人を頼るようにって、ラヴィねえに言われていたんだった!」


ラヴィ姉――。


善人ぜんにんしかいない国――ライト王国の暴力ぼうりょくメイドの名だ。


ビクニのお世話係せわがかりをやっていた女で、近隣諸国きんりんしょこくにも名がとおっている武芸百般ぶげいひゃっぱんおそろしいメイドだ。


まあ、俺の本来ほんらいちからもどれば相手にもならないが、人間にしては十分じゅうぶん強い。


それからビクニは背負せおっていた背嚢はいのうから、一通いっつう手紙てがみを出した。


「ねえ、ソニック。これってなんて書いてあるの?」


俺は今の今まで知らなかったが、どうやらこの暗黒騎士は字もまともに読めないようだ。


たしかよわい十四とか言っていたが、この女はこの年まで一体何をやっていたのだろう。


態度といい、性格といい、まるでこの世界の者じゃないみたいだ。


その手紙のうらには“親愛しんあいなるルバート・フォルテッシへ、ラヴィ·コルダストより”と書かれていた。


封蝋ふうろうでしっかりと閉じられていたため、やぶらないと中は見えないが、きっとビクニのことをよろしくみたいなことが書いてあるのだろう。


「じゃあ、そのルバート・フォルテッシさんって人のところへ行けば、船のこともなんとかなるかな」


「そう考えるにはまだ早いが、このままっ立っているよりはマシだな」


「だね。よし、早速さっそく行こう」


そして俺たちは港から、海の国――マリン·クルーシブルの中心部ちゅうしんぶへと向かった。

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