イントロバートガール·シヴァルリィ～無気力少女の異世界冒険記
第六十八話 本当の望み
それから、自分のことを大地の精霊だと言ったノーミードは話を始めた。
なんでも森にいるはずの同族と合流する予定だったが、その同族が何者かに倒されてしまっていたのだと言う。
「いやいや、ホント困ったちゃったよ。だってこのままだとアタシ一人でライト王国を潰さなきゃいけなくなっちゃったからさ」
こいつ……ライト王国を潰すって……。
まさか愚者の大地から逃げてきたメルヘンを追いかけて来たの?
それに森にいるはずの同族って……。
もしかして……木の精霊ドリアードのことじゃ……。
そんなことを考えていると、ノーミードはニヤニヤと笑いながら私の顔を覗き込んできた。
「おやおや。暗黒騎士のお姉さんは、その同族のこと何かを知っているのかな?」
ノーミードの顔が近づくと、私は慌てて後退った。
この大地の精霊は一見可愛らしい顔と姿をしているんだけれど。
笑うと別人みたいで、とても薄気味悪い。
「まあ、もうどうでもいいけどねぇ。代わりに使えるオモチャを見つけたからさ～。ししし。じゃあ、ここからお姉さんが知りたかった話といこうか」
後退った私をまるで縛るような視線で見ながら、ノーミードは話を再開した。
使えるオモチャとは見てわかる通り、リムのことだ。
ノーミードは、森で会うはずだった同族――おそらく木の精霊ドリアードを倒したのが誰なのか犯人探していて、この武道家の里――ストロンゲスト·ロードを見つけた。
そして、犯人のことなどどうでもよくなったノーミードは、地中からスライムをこの里に放った。
それは、打撃以外に攻撃する術を知らない武道家たちが、抵抗も空しく死んでいくのを見るためだったと言う。
「だけどさ～。お姉さんとあの吸血鬼のせいで失敗しちゃったよ～」
しくじったと言うわりには、実に楽しそうなノーミードは、何故か突然その場で踊り出した。
「ししし」と笑い、小刻みにリズムを刻むように軽やかにステップを踏みながら、私のほうをじっと見ている。
「でもね～。武道家の中に一人面白いのがいたんだよ。それがあの使えるオモチャ、リム·チャイグリッシュさ」
「じゃあ、やっぱりあなたがリムにあんなマネをさせているのね!」
後退っていた私だったけれど。
ノーミードがリムにしたことが許せなくて、腕に付いた魔道具を剣へと変え、突き付ける。
だけど、そんなことでノーミードは怯まずに、むしろさらに薄気味悪く笑いながら、私にその顔を近づけてきた。
「させている? それは違うよ～暗黒騎士のお姉さぁ～ん。あれはリム本人が望んでいることなんだよ～」
「ふざけないでッ! リムはみんなを守る英雄になるのが夢なんだよ! こんな人を傷つけることを望んでいるはずがないじゃないッ!」
私が叫びながら剣を振り下ろすと、ノーミードは地中へと姿を消した。
だけど、その気味の悪い笑い声だけは聞こえてくる。
「いやいや。あれがリムの夢だよ。だってほら、見てごらん。アタシから魔力をもらってさ～、活き活きと自分を押さえつけていた連中を攻撃しているんだよ」
「そんなの嘘よッ!」
私はノーミードが消えた地面に向かって剣を突き刺し続けた。
だけどノーミードの声は止まらず、私にリムの本性を話してやると笑った。
リムは小さい頃から里長を継ぐ武道家になるため、厳しい修行を受けさせられていた。
同年代の子たちがいつも遊んでいるのに、自分だけが何故こんなことをしなければならないのかと、彼女は幼いながらも疑問を持っていたみたい。
父親であるエン·チャイグリッシュからは、「お前は歴代の武道家たちの中で最も才能がある」と言われ、ただやりたくもない鍛錬を続けさせられたリムは、自分は武道家になるために生まれてきたのだと思うようになった。
「でも、ある日に彼女は知ってしまうわけさ～。魔法のことをね」
意地悪く笑うノーミード。
私はこんなのが精霊なんて全然ファンタジーじゃないと思いながらも、話に耳を傾けていた。
それは、偶然里に立ち寄った商人から買った本の中に、魔法使いの英雄譚があったのが始まりだった。
リムはそれをきっかけに、修行や食事、勉強、睡眠以外の時間を、すべて魔法のことに費やすようになる。
そのときはまだ生きていた母親に内緒にと頼んで、魔法を覚えるための本や辞典を買ってもらったり――。
こっそり一人で森へ行っては、魔法を唱える練習をしたりと、リムは独学で魔法のことを学んだ。
だけど、それも父親にバレてしまい、説教を喰らった彼女は里を飛び出してしまう。
暗い森の中で泣いていたリム。
それを見つけてくれたのは彼女の母親だった。
リムは自分が魔法使いになりたいことを打ち明けた。
すべての魔法を覚えて、悪者から世界を救う英雄になりたいと。
それを聞いた母親は、なら魔法を使える武道家になるのはどう? と言った。
父親には自分から話してあげるから、それならリムがなりたい魔法使いにも英雄にもなれるでしょう、と……。
リムは笑顔でその母の案を受け入れ、一緒に里へ帰ることにした。
だけど、その帰り道に現れたモンスターたちに二人は囲まれてしまう。
そして、母親はリムを庇って、彼女の目の前で死亡。
その後、ギリギリで駆け付けた父親や武道家たちによってリムは救われた。
「それからだよ。リムが魔法使いになることを諦めたのはね。まあ、でもずっと隠れて魔法の修行もやっていたみたいだから、諦めきれてなかったんだけどね～。で～、それが今に繋がっちゃうわけなんだな～これが」
「だったら……なおさらリムはこんなこと望んでなんかないじゃん……」
私は地面を剣で突くのをやめ、リムの立っているほうへと歩き出した。
なんでも森にいるはずの同族と合流する予定だったが、その同族が何者かに倒されてしまっていたのだと言う。
「いやいや、ホント困ったちゃったよ。だってこのままだとアタシ一人でライト王国を潰さなきゃいけなくなっちゃったからさ」
こいつ……ライト王国を潰すって……。
まさか愚者の大地から逃げてきたメルヘンを追いかけて来たの?
それに森にいるはずの同族って……。
もしかして……木の精霊ドリアードのことじゃ……。
そんなことを考えていると、ノーミードはニヤニヤと笑いながら私の顔を覗き込んできた。
「おやおや。暗黒騎士のお姉さんは、その同族のこと何かを知っているのかな?」
ノーミードの顔が近づくと、私は慌てて後退った。
この大地の精霊は一見可愛らしい顔と姿をしているんだけれど。
笑うと別人みたいで、とても薄気味悪い。
「まあ、もうどうでもいいけどねぇ。代わりに使えるオモチャを見つけたからさ～。ししし。じゃあ、ここからお姉さんが知りたかった話といこうか」
後退った私をまるで縛るような視線で見ながら、ノーミードは話を再開した。
使えるオモチャとは見てわかる通り、リムのことだ。
ノーミードは、森で会うはずだった同族――おそらく木の精霊ドリアードを倒したのが誰なのか犯人探していて、この武道家の里――ストロンゲスト·ロードを見つけた。
そして、犯人のことなどどうでもよくなったノーミードは、地中からスライムをこの里に放った。
それは、打撃以外に攻撃する術を知らない武道家たちが、抵抗も空しく死んでいくのを見るためだったと言う。
「だけどさ～。お姉さんとあの吸血鬼のせいで失敗しちゃったよ～」
しくじったと言うわりには、実に楽しそうなノーミードは、何故か突然その場で踊り出した。
「ししし」と笑い、小刻みにリズムを刻むように軽やかにステップを踏みながら、私のほうをじっと見ている。
「でもね～。武道家の中に一人面白いのがいたんだよ。それがあの使えるオモチャ、リム·チャイグリッシュさ」
「じゃあ、やっぱりあなたがリムにあんなマネをさせているのね!」
後退っていた私だったけれど。
ノーミードがリムにしたことが許せなくて、腕に付いた魔道具を剣へと変え、突き付ける。
だけど、そんなことでノーミードは怯まずに、むしろさらに薄気味悪く笑いながら、私にその顔を近づけてきた。
「させている? それは違うよ～暗黒騎士のお姉さぁ～ん。あれはリム本人が望んでいることなんだよ～」
「ふざけないでッ! リムはみんなを守る英雄になるのが夢なんだよ! こんな人を傷つけることを望んでいるはずがないじゃないッ!」
私が叫びながら剣を振り下ろすと、ノーミードは地中へと姿を消した。
だけど、その気味の悪い笑い声だけは聞こえてくる。
「いやいや。あれがリムの夢だよ。だってほら、見てごらん。アタシから魔力をもらってさ～、活き活きと自分を押さえつけていた連中を攻撃しているんだよ」
「そんなの嘘よッ!」
私はノーミードが消えた地面に向かって剣を突き刺し続けた。
だけどノーミードの声は止まらず、私にリムの本性を話してやると笑った。
リムは小さい頃から里長を継ぐ武道家になるため、厳しい修行を受けさせられていた。
同年代の子たちがいつも遊んでいるのに、自分だけが何故こんなことをしなければならないのかと、彼女は幼いながらも疑問を持っていたみたい。
父親であるエン·チャイグリッシュからは、「お前は歴代の武道家たちの中で最も才能がある」と言われ、ただやりたくもない鍛錬を続けさせられたリムは、自分は武道家になるために生まれてきたのだと思うようになった。
「でも、ある日に彼女は知ってしまうわけさ～。魔法のことをね」
意地悪く笑うノーミード。
私はこんなのが精霊なんて全然ファンタジーじゃないと思いながらも、話に耳を傾けていた。
それは、偶然里に立ち寄った商人から買った本の中に、魔法使いの英雄譚があったのが始まりだった。
リムはそれをきっかけに、修行や食事、勉強、睡眠以外の時間を、すべて魔法のことに費やすようになる。
そのときはまだ生きていた母親に内緒にと頼んで、魔法を覚えるための本や辞典を買ってもらったり――。
こっそり一人で森へ行っては、魔法を唱える練習をしたりと、リムは独学で魔法のことを学んだ。
だけど、それも父親にバレてしまい、説教を喰らった彼女は里を飛び出してしまう。
暗い森の中で泣いていたリム。
それを見つけてくれたのは彼女の母親だった。
リムは自分が魔法使いになりたいことを打ち明けた。
すべての魔法を覚えて、悪者から世界を救う英雄になりたいと。
それを聞いた母親は、なら魔法を使える武道家になるのはどう? と言った。
父親には自分から話してあげるから、それならリムがなりたい魔法使いにも英雄にもなれるでしょう、と……。
リムは笑顔でその母の案を受け入れ、一緒に里へ帰ることにした。
だけど、その帰り道に現れたモンスターたちに二人は囲まれてしまう。
そして、母親はリムを庇って、彼女の目の前で死亡。
その後、ギリギリで駆け付けた父親や武道家たちによってリムは救われた。
「それからだよ。リムが魔法使いになることを諦めたのはね。まあ、でもずっと隠れて魔法の修行もやっていたみたいだから、諦めきれてなかったんだけどね～。で～、それが今に繋がっちゃうわけなんだな～これが」
「だったら……なおさらリムはこんなこと望んでなんかないじゃん……」
私は地面を剣で突くのをやめ、リムの立っているほうへと歩き出した。
コメント
コメントを書く