イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第六十話 火計

ソニックは松明たいまつを私にわたすと、指示しじを出し始める。


とりあえず私はリムたちのところへ行って、大至急だいしきゅうあぶらまきなどを用意よういするようにたのんで来いと言われた。


なるほど。


よくいくさとかでやる戦法せんぽう――火攻ひぜめってやつだね。


「さすがソニック。今は夜だからえてるね。よっ吸血鬼族きゅうけつきぞく!」


「いや、夜は関係かんけいねえし」


私はボケたつもりはなく、純粋じゅんすいめたつもりだったのだけれど。


間髪かんぱつ入れずにツッコまれてしまった。


その様子ようすを見ていたググは、私の頭からソニックの頭へと飛びうつり、笑うようにいている。


ググは夫婦漫才めおとまんざいでも見た気にでもなっているのだろうか。


夫婦漫才……はッ!?


「ちょっと! 誰と誰が夫婦ふうふだってッ!? そういうのやめてくんないッ! 私はまだ中学生ちゅうがくせいなんだからねッ!」


「いきなり何をキレてんだよ……。それよりもぜんいそげだ。あの武道家ぶどうか女のところへ走れビクニ!」


自分でもなんでいきなり怒鳴どなってしまったのか……。


べつに夫婦ってのも私が勝手かって想像そうぞうしていただけで、誰かに言われたわけではない。


自分で思って勝手に感情的かんじょうてきになっただけだ。


これじゃまるで私が自意識過剰じいしきかじょうみたいじゃないの。


あぁ……ずかしくてあなにでも入りたい気分きぶんだったけれど、今はリムたちところへいそがなきゃッ!


それから私はリムとエンさんがいるところまで向かう。


一方いっぽうソニックは、ググを頭にせたまま、火のいた松明を片手にスライムのもとへと飛んでいった。


私が急いで近づいて行くと、リムとエンさんはスライムによってめられてしまっていた。


「リム聞いて! 作戦があるの!」


「ビクニ! 近づいてはダメなのです!」


リムがさけんだのと同時どうじに、巨大きょだいなスライムは、私めがけて体から粘液ねんえき噴射ふんしゃした。


ソニックの話だと、スライムの体液たいえき酸性さんせいだ。


当たったら間違まちがいなくかされてしまう。


けてくださいビクニッ!」


リムの声が聞こえる。


だけどもう粘液を避けられない。


私は咄嗟とっさに頭を両手りょうてまもってかがんだ。


その瞬間しゅんかん――。


私の目の前が真紅しんくまり、すさまじい風がいた。


「こ、これって……ヘルフレイムとウインドラッシュ……?」


そう――。


私にそそいだスライムの粘液は、火の魔法で消滅しょうめつし、そののこりかすは風の魔法によって吹き飛ばされた。


この武道家のさと――ストロンゲスト·ロードで魔法を同時どうじとなえられる人物じんぶつは一人しかいない。


「大丈夫なのですかビクニッ!?」


そう……そうだよ……。


リム·チャイグリッシュしかいないんだよ。


エンさんや里のみんなが見ているのに……。


私を助けるために……リムに魔法を使わせてしまった。


あんじょうエンさんや里の武道家たちは、魔法を使ったリムを見て、みんな両目りょうめまるくしている。


驚愕きょうがくしんがたい、が目をうたがう――。


各々おのおのが、それぞれたような反応はんのうをしていた。


ああ……私がヘマしたせいでリムのかくしていたことがバレちゃったよ……。


その場で両膝りょうひざをついてうつむく私。


たぶんゆめのことも私以外に誰にも話していなかったのに……。


私のせいで……全部私のせいで……リムの秘密ひみつが……。


せっかく友達になれそうだったのに、これじゃリムにきらわれてもしょうがないよ……。


……って、私は結局けっきょく自分のことか……ごめんね……リム……。


「顔を上げろビクニッ!」


空から怒鳴どなり声――ソニックの声が聞こえた。


その声は、私の気持ちなんて考えずに続けられていく。


「お前はそうやっていれば気がむのかよ! ちがうだろ! 落ちんでいるひまがあるならお前のやりたいことをやれぇぇぇッ!」


そうやってまた好き勝手言って……。


でも……ありがとうソニック。


「リム聞いて!」


私は立ち上がると、リムとエンさんのところまで走り、すぐに油や薪を用意してくれとおねがいした。

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