イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第四十五話 魔法を唱える武道家

ソニックがそうさけんだときにはもうすでにおそく。


私たちはふたたあらわれたポイズンアントに、すっかりかこまれてしまっていた。


「仲間をやられたせいで殺気立さっきだってやがるな」


ソニックがいうに、ポイズンアントには知能ちのうはないらしいけれど。


本能的ほんのうてき同族どうぞくの死に敏感びんかんで、仲間の血のにおいをぐとすぐにその場にけ付けるみたい。


なにやらいい話に聞こえなくもないけれど。


正直しょうじき、先にグリズリーをおそったのはあなたたちのほうじゃない。


それでも私は安心していた。


だって、リムがいるもん。


また同時どうじ魔法まほうとなえて、アリのれなんか一瞬いっしゅんでやっつけてくれる。


「ねえ、リム。おねがいしてもいい?」


「はい。なんでしょうかビクニ様……じゃなかったビクニッ!」


私が声をかけると、リムはまた右のこぶしを左手でつかみ、むねった。


この子、礼儀正れいぎただしくて丁寧ていねいなのは好感こうかんが持てるのだけれど。


こんな非常事態ひじょうじたいなのに余裕よゆうあるなぁ……。


私は思っていたことを飲み込んで、言葉を続けた。


また魔法を使ってポイズンアントの群れをたおしてほしいと。


私にたのまれたリムは、そのまま姿勢しせいでニッコリと微笑ほほえみ返してきた。


「じゃあ、さっさとアリどもをやっつけちゃって!」


その笑顔を了解りょうかいのサインだと思った私は、意気込いきごんで声をあげたけれど――。


もうわけございません。無理なのです」


「へっ?」


唖然あぜんとする私に向かって、笑顔のままあたまを下げるリム。


私は彼女が意地いじの悪い冗談じょうだんでも言っているのかと思った。


だって、この子はとてもマイペースだし、空気を読めない感じだったから。


だけど、それはちがった。


彼女には魔法を唱えられない理由りゆうがあった。


それは――。


じつはこのリム。一日に三回しか魔法が使えないのですよ。なので、期待きたいこたえられなくて申し訳ございません」


「えぇッ!?」


リムの魔法の使用回数しようかいすう制限せいげんがあった。


最初さいしょに私を助けてくれたときに見せた、火の魔法ヘルフレイムと風の魔法ウインドラッシュ――。


それからグリズリーのどくを取りのぞくために唱えた状態異常じょうたいいじょう回復かいふく魔法リカバリーライト――。


その三つでもうリムの魔力まりょくきてしまったみたい。


未熟者みじゅくものですみません……生まれてすいません……」


「いや、そこまでへこまないでよ!」


私とリムがそんなやり取りしていると、ポイズンアントたちがジリジリと距離きょりめて来ていた。


ソニックは顔をしかめながら、自分の頭にっていたググを私のほうへと投げわたす。


「俺が引きつけるからお前らは逃げろ」


「えぇっ!?」


私はソニックにも叫び声をあげた。


いくらなんでもそれは危険きけんすぎるよ。


私たちが助かったって、それでソニックが毒にでもおかされたら死んじゃう。


「ダメだよソニック! ここはみんなでかたまって……」


ソニックは、私が止めるのも聞かずにコウモリのつばさひろげて飛び出していく。


たしかにソニックが空に上がれば、ポイズンアントたちは手が出せないけれど。


引きつけようとしているときに、まれちゃったらアウトだよ。


「ソニック! いっちゃダメッ!」


気がつくと私はソニックの後をって、前へと走り出していた。


そのときにググが私のかたで大きくいていたけれど。


止めているのか応援おうえんしているのかはよくわからなかった。


「バカヤロ―! 前に出るんじゃねえッ!」


「きゃあッ!」


走り出した私に向かってポイズンアントの一匹が飛びかかってきた。


不意ふいかれた私は、このままやられると思ったのだけれど――。


「はぁぁぁ……オーラフィストッ!」


リムの叫び声と共に、目の前にいたポイズンアントがひかり波動はどう消滅しょうめつしていく。


彼女のほうを見ると、両手を前方にき出していて、そのてのひらからは波動ののこりが空気にっていた。


あれってバトル漫画とかによくあるやつ?


えっ!? でもリムは魔法使いじゃ……?


一体何が起きたのかまったくわからない私を尻目しりめにリムが動き出し、素手すででポイズンアントの群れをたおしていった。


それは、まるでおどりみたいな動きだった。


華麗かれい演舞えんぶ


私はそんなリムの姿に見惚みとれていた。


「リムって、魔法使いじゃなかったの……?」


彼女がすべてのポイズンアントを倒したとき――。


そのうしろ姿に私がたずねると、リムはやっぱりニッコリと微笑ほほえむ。


「魔法使い……いや、大魔導士だいまどうしあこがれているだけで、ワタシはモンク――武道家ぶどうかなのですよ」


そして、また拳と手を合わせて、丁寧に頭を下げた。

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