イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第二十九話 小さな嘘

「なにそれ? 一体どういうこと?」


私はソニックが言っている意味いみがよくわからなかった。


だって、村がほろんでいたのなら、こうやって小屋にめてもらうことなんかできるはずがない。


周りの小屋もそりゃライト王国の家とくらべたら貧相ひんそうだけれども、立派りっぱに人が寝泊ねとまりできるし、それにソリテールだっているし……。


「まだわからない……が、ちょっと調しらべる必要はありそうだな」


「調べるって……だからソニック、あんたさっきからなにを言ってんの!?」


「とりあえずお前はあのソリテールってむすめと一緒にいろ。だが、けして油断ゆだんするなよ」


ソニックはそう言うと、小屋から出て行ってしまった。


「ちょっと!? ソニック!? 待ちなさいってばっ!?」


私が彼を追いかけて小屋の外に出ると、そこにはソリテールがもどって来ていた。


「あれ? どうしたのビクニお姉さん? それとソニックお兄さんはどこへ行くつもりなの?」


っていくソニックのうしろ姿を見たソリテールがたずねてきたけど、私はうまく答えられずにいた。


それは、この状況じょうきょうをどう説明せつめいしていいかわからなかったからだ。


だっていきなり「この村は滅んでいたみたいだから、それを調べるって」なんて言ったら、おかしいでしょ?


もしソニックの勘違かんちがいだったら、せっかくもうし出てくれたソリテールの厚意こういどろることになっちゃう。


でも、あのソニックのただならない様子は、身の危険きけんを感じてのことだし。


あぁぁぁ! 私はなんて答えたら正解せいかいなんだよぉぉぉ!


コミュニケーション障害しょうがい――りゃくしてコミュ障の私にはむずかしすぎるぅぅぅ!


「……ビクニお姉さん。大丈夫?」


両手で頭をかかえ、はげしくもだえていた私のそばで、ソリテールが心配いそうな顔をしていた。


……まずい。


とりあえず落ち着いて考えないと……。


だけど、こんなときは一体どうすればいいのか――。


こまったときは適当てきとうでいいんだよ。誰もきずつかなければ問題もんだいな~い!」


そのとき、私の頭の中で、以前にリンリが口にしていた言葉が再生さいせいされた。


そうだよ。


別にソニックが出て行ったって問題になるようなことはないし、ここは適当なことを言っても大丈夫なはず。


「ソ、ソニックはね。ちょっとトイレへ行ってくるって」


「そうなの? 川ならこの村にもあるから、わざわざ森のほうまで行かなくてもいいのに」


「それがあいつ、実は貴族出身きぞくしゅっしんだから、人に音を聞かれるのをすごくいやがるんだよ。まったく男なのに気にしすぎだよね」


私はその場で思いついたことをベラベラとしゃべり続けた。


どうやら、その話をソリテールは信じてくれたみたいで助かったけど。


正直、私はこういう適当な嘘をつくのは苦手にがてだ。


というか、非常ひじょう精神せいしんけずられる。


前に元の世界の図書館で借りた夏目漱石なつめそうせきの『明暗めいあん』を読んだとき――。


嘘をつくなんて人間関係には当たり前だ、みたいな台詞せりふがあったけれども。


私がコミュ障なのは、その場の空気を読んで嘘をつくのが下手へただからか?


漱石先生……もしそうなら今後私が上手じょうずな嘘をつけるようにしてください。


そして、小さな嘘をついたくらいでむねいたまない強い心をください。


……って、夏目漱石は別に神様じゃなのに、私は何を思っているんだか。


われながら自分にあきれてしまう。


「お姉さん、ビクニお姉さん」


「は、はい!」


し、しまった。


つい、いつものくせで自分の世界に入ってしまっていた。


ばあちゃんとリンリは、それを悪いなんて言わないけど。


やっぱり他人との会話中に、妄想もうそうをし出すなんておかしいことだよね。


反省しなきゃ……。


「ビクニお姉さん……なんか元気ないね?」


「そ、そんなことないよ! 元気、元気! 元気いっぱいだよ!」


バカ野郎!


元気なわけあるか!


だけど、ソリテールにつみはない。


それでも、また嘘ついたせいで精神が削られていく。


しかし、悪いのは全部うまくやれない自分せいなのだ。


「そうならいいんだけど……でも、元気がないときはちゃんと言ってね。ビクニお姉さんが言ってくれないとあたし、気がつけないから」


ソリテール……。


あんたはなんていい子なんだ。


お姉さんはなみだこらえるのに必死ひっしです。


「キュウキュウ!」


私のかたに乗っていたググがくと、ソリテールが笑顔で私の手を引いた。


そして、そのままここの案内すると言って、村の中心へと向かった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品