イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第二十七話 ある日、森の中

「うわぁ~! 来てる、来てるっ! このままだと追いつかれちゃうよ!」


私は今森の中を全力疾走ぜんりょくしっそうしていた。


横には案内人あんないにんを買って出てくれたソニックも、私と同じように全力で走っている。


そして、私の頭には丸まると太っているとても可愛かわいらしい幻獣げんじゅう――ググと命名めいめいしたバグが「キュウキュウ」鳴きさけびながら乗っている。


ちなみにググって名前、可愛いと思わない?


私はバグに可愛いと思う名前を付けたのだけれども、どうもライト王国での評判ひょうばんはよくなかったよ。


「おい、ビクニ! あのグリズリーの悪い心をって大人おとなしくさせろよ!」


そう――。


私たちは今まさに灰色熊はいいろぐま――グリズリーに追いかけられていた。


「無理だよ! グリズリーはただお腹がっているだけで、それは本能的ほんのうてき欲求よっきゅうだから悪い心じゃないもん!」


「ったく、ホント肝心かんじんなときに使えない暗黒騎士あんこくきしだな」


「ならあんたが私をかかえて飛んでくれたらいいじゃないの! 昼間でもコウモリのつばさは出せるんでしょ!」


「バカか! 昼間の俺じゃお前は重すぎるんだよっ!」


「あっ! 今バカって言ったでしょ! それと年頃としごろの女の子に重いとか言っちゃダメなんだよ!」


まあ、こうやってデリカシーないことを言ってくるソニックだけれども。


実はやさしい心の持ちぬしだってことはわかっている。


だって、やろうと思えば一人で飛んで逃げれるもんね。


そんなわけで私たちは、ライト王国から出発しゅっぱつして、森の中でいきなりグリズリーと遭遇そうぐうしてしまっていたんだ。


城を出る前――。


私の覚悟かくごを受け入れてくれたライト王は、城の宝物庫ほうもつこから武器ぶき防具ぼうぐを出してくれた。


なんでも大昔にライト王国にいた暗黒騎士が使っていたものだったみたい。


たしかリンリがもらったものは純白じゅんぱく甲冑かっちゅうだったっけ。


あれはすごく可愛かったなぁ。


「ビクニよ、これがそうだ。これらの武具ぶぐは暗黒騎士以外には身に付けることはできない大変貴重きちょうなものである」


「こ、これは……」


私は宝物庫から出された武具を見て、思わず口を大きく開けてしまった。


だって――。


「左から、暗黒の剣、暗黒のよろい、暗黒のたて、暗黒のかぶとだ」


「やっぱりね……。こんなことだろうと思ったよ……」


あまりにも予想通よそうどおりすぎた真っ黒な甲冑などが出された。


まあ、暗黒騎士が可愛い武具なんて装備そうびしないよね。


だけど、いくら私が暗黒騎士でもこんなおっかないものはちょっと身に付けたくない。


ただでさえ私には近寄ちかよんなオーラが出ているのに(リンリとおばあちゃんに言われて気づいた)、こんなものを身に付けたらますます人が寄って来なくなっちゃうよ。


そういうわけで、当然ことわらせてもらうと、ライト王はニコッと笑みをかべた。


まるで私がいやがるのを分かっていたみたいだ。


「ふふ、そう言うだろうと思っていてな。実はずいぶん前に街の職人しょくにんたのんでいたものがある」


そう言ったライト王が出してきたものは、黒の胸当て(こういうのをプレートアーマーって言うのかな?) と、それに合わせたくらい色を基調きちょうとしたアンダーウェアるいだった。


持ってみると、力の弱い私からしてもとても軽い感じがする。


ライト王が言うに、それら黒の胸当てやアンダーウェアには加工時かこうじに魔力をめており、重さとは関係なく頑丈がんじょうなんだとか。


「いつかお前が旅立たびだつときが来たらと思い、たのんでおいたものがようやく日の目を見ることなった」


ピッチりしていて体のラインが出るのはちょっとずかしいけど。


こんなものを用意してくれていたライト王おじいちゃんの気遣きづかいがうれしい。


これならオール暗黒装備よりもずっと女の子のらしいものね。


まあ……上下黒はスエットだけと思っていたけど……そこは良しとしよう。


ともかくお爺ちゃん、ありがとうございます。


それから城門まで見送ってくれたライト王や城のみんな、そして住民の人たち。


みんな、かならずリンリを連れて帰って来てくれ、と大声で私たちを送り出してくれた。


こんな大勢の人たちに見送られる経験けいけんがない私は、つい嬉しくて泣きそうになってしまう。


みんなのためにも、そして何より私のためにも、絶対にリンリとここライト王国へ帰ってくるんだ。


そして、その後――。


森の入り口までラビィ姉が送ってくれた。


「じゃあね、ラビィ姉」


「ビクニ……。本当はついて行ってやりたいとこっすけど……」


「なに言ってるの? ラビィ姉がいないとライト王国が大変なことになっちゃうよ。これからはモンスターも来るかもしれないし。ラビィ姉はしっかり私たちが帰ってくる場所を守ってね」


私がそう言うと、ラビィ姉は突然片膝かたひざをついて、私に向かってお辞儀じぎをした。


彼女がライト王にだけやる騎士の礼ってやつだ。


「ビクニ……うちはすでにライト王様に剣をささげてる身……。このいのちはライト王様のものっす。だからビクニに剣を捧げられないっすけど……。せめて、うちはビクニとの約束を必ず守ることをここにちかうっす」


わぁ~いきなり騎士の誓いを受けちゃったよ! 


こういうのが騎士道精神きしどうせいしんってやつなのかな? 


元の世界でよく読んでいたライトノベルのせいか、やっぱりこうやってわざわざ口に出して相手に誓うってあこがれちゃうな。


そういえばラビィ姉って、ライト王国に来る前は傭兵ようへいをやっていたって言っていたけど、本当はどこぞの国の騎士だったりして。


――てな感じで、感動かんどうの別れの後だよ。


それがいきなりはらかせたくまさんに追いかけられなきゃいけないの!


「ハアハア、もう……限界げんかい……これ以上は走れないよ……」


「何を言ってんだよ! あいつに食われたいのか!」


「でも……もう……」


気持ちに足がついて来ない。


もうダメかもと思った私に向かって、突然声がかけられた。


「そこのお姉さんとお兄さん! こっち! こっちへ来てっ!」


そこには私とソニックよりも小さな女の子が、必死ひっしになって私たちのことをんでいた。

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