イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第十九話 日陰者だからこそ

すると、魔道具まどうぐかがやき出したのと同時どうじに、女神様の声が聞こえてきた。


「ビクニ……ビクニよ。今です。あなたのおくに眠る力を目覚めざめさせるときは」


声が聞こえてきたと思ったら、いつのにかあたりがくらになっていた。


どう見てもこの場所はライト王国ではないし、目の前にいた幻獣げんじゅうバクも、私をかかえて飛んでいたソニックの姿も見えない。


「ここは……どこなの? まさかまたどこかの世界に召喚しょうかんされちゃったの?」


事態じたい把握はあくできないでいた私は、ただ戸惑とまどっているしかなかった。


だけど、しばらくすると光と共に、この世のものとは思えないほど美しい女性の姿――女神様が現れた。


透明感とうめいかんなんて言葉では言いあらわせないほどのき通ったはだ


そして、すべてをおだやかにつつみ込むような大きなひとみ


私は女神様の姿に見惚みとれてしまっていた。


「……って、何を見惚れているんだ、私はっ!」


だけど、そんな場合じゃないと首をはげしく左右にる。


「女神様、私の奥に眠っている力って何なの!?」


私がまくし立てながら訊くと、女神様は微笑ほほえみを見せる。


そして、それからゆっくりと答えてくれた。


女神様がいうに、晴巻倫理はれまきりんりこと私のおさななじみが、聖騎士せいきしとして、人やモンスター、そしてアンデットなどの邪気じゃきや悪い心を浄化じょうかできる力があるように。


私、雨野比丘尼あめのびくにには、暗黒騎士あんこくきしとして、相手の邪気や悪い心を受け止める――吸収きゅうしゅうすることができる力があると説明せつめいしてくれた。


「リンリがその太陽たいようのような明るい心で相手を浄化するのなら……。ビクニ、あなたは自分以外の者のいたみを理解できる子……受け止めることができる子……。それがあなたの奥に眠っている力なのです」


「私なんかに自分以外の人の痛みをわかるっていうの……?」


女神様の言葉に、私は何をどう返していいのかわからない。


正直、自分なんかに人の痛みがわかるだなんて思えないからだ。


「ビクニ、あなたは日陰者ひかげもの心許こころゆるせる友人もリンリだけ……。その上なまけ者で、すぐに他人のことを悪く思ってしまいます」


「えぇっ!? なんでこんなときにダメ出しをしてくるわけ!? 全部当たっているけどやめてっ!」


うつむいていた私が、突然わめき始めるのを見て、女神様はクスッと笑った。


「ですが、だからこそなのですよ。努力どりょくできない者や、悪意あくいを持つ者の心を理解できるのは」


「……女神様」


「さあ、もうおきなさい。あなたを待っている者たちの元へ」


女神様がそう言うと、さっきこの空間へ来たときに出てきた光が私を包んだ。


そして、目を開けるとライト王国へと戻っていた。


目の前には幻獣バク。


それと、私を抱えて飛んでいるソニックの黒いコウモリのようなつばさが、バサバサと音を立てていた。


「戻った……の……って、何これっ!?」


そして、いつの間にか私の手には、真っ黒な剣がにぎられていた。


どうやら腕に付けていた魔道具が、今握っている剣へと変化したみたい。


でも、ナイフとは言わないまでも、その真っ黒な剣は、ひどみじかほそくとてもたよりないものだった。


「その黒い剣がお前の力か? なんかよわそうだな……」


「私もそう思う……」


私に握られた剣を見て、明らかにあきれているソニック。


私は、何か言い返してやりたかったけど、その通りだと同意どういするしかなかった。


「……ともかくだ。もうやる以外の選択肢せんたくしはない。そいつであのバグをなんとかしてみせろよ」


「うん! やってみる!」


そして、ソニックは私を抱えたままでバグのふところへと飛び込んでいった。

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