獄卒鬼の暇つぶし

うさみかずと

第19話

私は目を開け周囲を見渡し、状況を確認した。恵美子を吹き飛ばすはずのトラックは鼻の先が当たる寸前の距離で止まっている。否、トラックだけではない全てのものが止まっていた。体も風も太陽の光でさえもだ。

「あの大学生に関わるなといっただろう」

かろうじて動いた首から上を動かして見上げると警備服を着た男、もといいつぞやのいけ好かない死神がが眠そうな顔をして立っていた。

「なにが起こった?」

そう言うとは一歩ずつ近づいてきて私に触れた。そのときなにかから解き放たれたように体が動いた。私が落ち着くのを待って少し歩こうと言ったいけ好かない死神は、呆然と横断歩道の前で立ち尽くす死神に「広域が数字欲しさに俺のテリトリーを荒らすなよ」と呆れた口調で言い放った。

「黙れ819番今さら出てきて何を言う!」

死神は怒り狂った顔で近づいてきた。その顔や歩き方は不格好なものだったが、とてつもない怒りを感じることができる。

「残念だったな、といっても本当はもっと早く受理される予定だった。誰かがターゲットに付きまとっていたおかげでずいぶん時間がかかっちまった」

いけ好かない死神は私に視線を向け、「だから言ったろ」と言いたげに笑みをこぼした。

「バカな多かれ少なかれこの人間は死に瀕している! 残りの寿命だってせいぜい五、六年だ。運命は決まっていたのだ!」

「なにを言うか運命は変えられる!」

私は断定的な発言に苛立ちを覚え襟元を掴んで激しく揺らした。

「浅ましい、変えることが出来ないから運命というんだ」

死神は吐き捨てるように私の手を払うと着崩れを即座に直す。

「そうだな、だが仮に運命は変わらなくても意味を変えることはできる。その人生は価値のあるものだったのかそれが意味だ。まぁ今回は俺の気まぐれも相まって寿命まで生かすことにした……、あと俺のテリで二度と勝手なことはするな、102番」

死神は人間の姿に戻ると、今度はウシャシャシャと声をあげて笑った。
「これは俺に対する宣戦布告だぞ819番、そうやって余裕な顔をできるのは今のうちだ」

そう言って私たちの前から姿を消した。いけ好かない死神はため息をついて私に一切れの紙を手渡した。そこには誰かの住所がかかれている。

「閻魔の倅の住処だ、明日にでも訪ねてみるといい」

「あんた、死神向いてないんじゃないか?」

私の質問に苦笑したいけ好かない死神は「そうかもな」とつぶやいた後、じゃあと手を上げて、私に背を向けて歩き出した。

「どうして二代目のことを知ってるんだ?」

突然の質問にいけ好かない死神は立ち止まり顔を少し私がいる方へ向けた。

「腐れ縁なんだよ。お前らとは」

だらしない笑顔の男はそれから静止した人ごみの中に消えていった。

「うん、あ、そうだこのままあそこの喫茶店で二人でお茶しない?」

恵美子の声で我に返った。時間が数分前に巻き戻されていることを気が付くのに少し時間がかかった。

「貫徹くん聞いてるの?」

「あぁうん、そうしよう」

「決まりね!」

恵美子は強引に腕を引っ張った。その勢いにバランスを崩しかけながらも私は地面をしっかり踏みしめて体勢を整える。遠くに見えた人波を直視してみるが男の姿はなかった。








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