獄卒鬼の暇つぶし

うさみかずと

第1話 

だれか最初に言い出したか考えたこともないだろう。

死後の世界をだれが見てきたというのか。

わたしは六代地獄で働く獄卒であるが、この地獄から現世に舞い戻ったものなど亡者など知るよしもない。しかしながら、念仏を唱える坊主たちは皆口をそろえて地獄の存在を解いてきた。わたしにはそのからくりがわからない、わからなければとことん追求してしまうのがわたしの悪い癖である。そうわたしは一介の獄卒であることに満足せず、人間たちが織り成し築いた文化と人間が大好きだ。

この厄介な性格は獄卒として悩ましい限りで、亡者に浮世のことを訊ねては酒を飲みかわし、仕事もそこそこに許可なく浮世に顔を出しては遠い未来の絵巻物になっていた。そんなわたしの行動を周りの同僚は良しとはしなかったが父だけは趣があると痛く溺愛した。

我が父、冷徹斎宗徹は閻魔大王の側近として戦後の急激な人口増加による地獄の混乱を統治した。地獄、天界に広く名を知られた鬼神だ。文明の開花により豊かになった浮世に関心をもちたびたび浮世を訪れては学んだ知識を地獄の政策に反映させた。

宗徹がいま少し分別のある鬼神であったら天界の神々に喧嘩を売った挙句に左遷され罪人として阿鼻地獄(無間地獄)に落ちることもなかったであろう。しかしながら彼が閻魔大王ですらも頭が上がらない神々に最後まで悪態をつく規格外の無鉄砲であったからこそ数々の伝説が語られる。
「他者からの干渉で無限の可能性にフタをするな」とは父の言葉だ。

その父、冷徹斎宗徹の第一子として、わたしは地獄に生まれ落ちた。

二つのツノがしっかり生えるのも待ちきれずわたしは地獄の問題児として頭角を現した。血の池地獄にて上から糸を垂らしイタズラに亡者たちを弄んだり、浮世に行っては人間や妖にちょっかいをだして「冷徹斎貫徹は無茶苦茶なやつだと」顰蹙を買ったが、父の教えに心酔しその血を受け継いだ鬼が他にどうそればいいのか。

要するには好奇心に勝る恐怖心は無いということである。

わたしという鬼が今日も退屈せず地獄をかけまわるところからこの物語がはじまる。

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