闇を統べる者

吉岡我龍

天族と魔族 -死地-

 サーマが東へ旅立った後セヴァはジェローラの館で養生していた。
彼女は魔人族であり、体の半分には魔族の血が流れている為それほど大仰な治療は必要なかったのだが
長年大事にしていた祠と愛し続けた近辺の環境が大きく破壊されてしまったのでそれらの復興も含めての提案に今回だけは乗る事にしたのだ。
基本的には静かな時間が多かったのだが毎日飽きもせず界隈から土地神の姿を一目見ようと集まって来ては、
「こらぁ!!セヴァ様はお怪我をなさっているじゃぞ?!日を改めんかいっ!!」
ジェローラが鬼の形相で怒鳴り散らしてはそれを追い返す。
もはや風物詩と呼べるものになりつつあったある日、
『ジェローラよ。お主の家はこの地でそれなりに権力を持っておるな?』
日課の追い返しが終わった彼を自身の部屋に呼んで尋ねた。
「はい!この地で500年ほど開墾と農業を営んでおりますから!!」

元は小さな畑を持った農家の一族が台頭し始めたのは周囲がお手上げだった痩せた土地を当主自らが開墾に身を乗り出した時からだ。
新たな農地というのは木々や雑草の手入れもさることながらその土に十分な栄養を含ませる所から始まる。
開墾し、土を富ませ、満足な作物が出来るまで50年かかるといわれる作業。
それを当時の当主達が一代で完成させると次の世代はまた新しい土地を一から開墾する。
代々繰り返していく事で新たな農地を増やし今でこそ大地主とまで呼ばれるようになったが、
これは彼らが地道に子々孫々繰り返してきたかけがえの無い労力の結晶なのだ。

齢2800歳を超える彼女はそれらを全て知っていた。

だからこそ影で土地を潤す手伝いもしたし、初代にだけは自身の正体を明かし祠だけ作るように願い出た。
(まさか再び彼の一族と接する事になるとは・・・)
人とはあまりにもかけ離れた寿命。
自身ですらいくつまで生きられるのか未だにわからない人生の途中でこれ以上人間と深く関わるのは良くないと判断した上だった。

もちろん世界に自分と似たような種族が多数存在しているのも知っていた。

天族、魔族や人間との間に生まれた天人族、自分と同じ魔人族。
それらの溢れ出る力の影響か、人間にも異能の力と呼よばれるものを持って生まれる存在も各地で散見された。
彼らは自身の力に溺れ、流され、利用されるだけされて最後には悲惨な死を遂げる者がほとんどだが、
世界の情勢が危うくなるとそういった半端者ではない、人間以上の存在が時折介入しては均衡を取り戻してきた。
2500年以上前にはセヴァもそういった行動を何度か起こしていたが今の彼女は若々しい容姿とは別に心はすっかり老け込んでしまっている。

数多の酸いも甘いも経験してきた彼女だが今回だけは気になる点を整理しておこうと決めたのだ。

『ではまずサーマについて詳しく調べてほしい。
あ奴は本当に実在するのか?何処で生まれて育った?年齢は?容姿の特徴は?とにかく全てじゃ。』
1つめがウンディーネとサーマについてだ。
相手は自分の正体をすぐに言い当てたのだが、それはセヴァが生粋の魔人族だからだろう。
だがウンディーネ。
彼女は魔人族というには少し、いや、かなり人としての部分が弱い。
ショウもそれには近いが、それでも彼はきちんとした人間の肉体を持っていた。
(言葉を話せないというのもそこに関係しておるのでは・・・)
これは彼女についての心配というよりはジェローラとショウに対しての心配だ。
不気味な何かを感じたセヴァはその2人への実害を考慮して身辺調査を依頼したのだ。
「ははー!喜んで!!」
快く元気に返事をする老人。
しかしその仰々しく跪いて手と頭を地に着ける姿は流石に痛々しいので、
『それは祠が完成してからやってくれ。そういう姿を私は見とうない。』
土地神と呼ばれていても自身がやっていたのは本当にごく僅かな助力だけだ。
結局の所、種を巻き、雑草を抜き、水をやって収穫するのは彼ら人間なのだ。
その全てを見届けてきたからこそ彼女は神と呼ばれても驕る事はなかった。

『それともう1つ。今、世界で強大な力を持った神と呼ばれるに等しい者達が悪さを企てておる。
お主の力を使って世界に注意喚起を伝えるのじゃ。』

自身の前に現れた黒い外套を被った男。
彼の正体はわからなかったが恐らく天族か魔族の血を引いているのだろう。
「偉大な指導者と共にこの世界を我々の手に取り戻す。」
何やらそんな感じの言葉でセヴァも陣営に引き入れようと声をかけてきたが人との直接的な関わりを絶って相当な年月が過ぎている。
特に何の不自由も問題も抱えていなかった彼女からすればその思考に反対こそすれど賛同する理由は無かった。
なので久しぶりの激闘という流れに至った訳だがショウに力を注いでしまっていた彼女の分は悪く結果は惨敗に終わったのだ。
(まずはジェローラの報告を待つ。)
密かにそう決意したセヴァはもう1つ。
彼に声をかけられてから考えていた世界の行く末について自身の答えを出すと、
少しだけこの地を離れてあの男へ制裁の鉄拳を加えねばと心に誓っていた。





 東の大森林についたクレイス達は早速バイラント族が作った簡易の砦付近に集合していた。
前回の騒ぎで影も形もなくなったらしく、ヴァッツが殴られて出来たという湖の畔に仮集落を作っていた彼ら。
あの後食料だけでなく結局『アデルハイド』から人手も借り入れた事でようやく生活出来るまでは復興してきたらしいが。

「おお!よく来てくれたな!!ハルカの強さは知ってるから助かる!!」
彼自体はの兵卒扱いなのだが、傍にリリーとハルカがいるせいで相変わらず浮いた存在となっており、
バラビアが元気に声をかけてくるもこちらを訝しげに見てくる。
「お前は炊事場にいた女だな?こっちの女みたいな男は確か・・・クレイスだっけ?・・・ヴァッツ様はどうしたんだ?」
「ヴァッツ様はお前のような押しかけ女房に構ってる暇はないんだよ。
あとクレイス様はヴァッツ様の大事なご友人だ。無礼は慎めよ?」
あの日の朝食時から感じていた事だがどうもリリーはバラビアに対してあまり良い感情を抱いていないらしい。
クレイスはその容姿を言われる事に慣れていたし、ハルカやリリーに比べると弱いのも重々理解していたので全く気にならなかったのだが、
「まぁまぁお姉さま。バラビアってこういう娘だしあまり気になさらずに。あと言葉遣いが汚いとルーに嫌われるわよ?」
「う・・・・」
義理の妹に注意されると思わず口を噤んでしまうリリー。そして、
「押しかけ女房って・・・お前、まだそれは早いって!いや・・・でももう女房って呼んでもらった方がいいのか?」
リリーの結構な迫力が篭った凄みを全く意に返す事無く別の言葉に反応してもじもじしている。
荒々しく雄雄しい蛮族の姿とは裏腹に乙女のような性格を併せ持つバラビアをみて、
(面白い人だなぁ)
自分も好きな子の前ではこんな感じなのかもしれない、と妙な親近感を勝手に抱いていると、
部隊長から集合の合図と詳しい布陣についての説明が始まった。



今回の敵は『アンラーニ族』というこの森で一番の勢力を誇る蛮族らしい。
強さもさることながら数がこちらの十倍近くいる為、かなりの激戦が予想される。
そこで今回は『トリスト』の精鋭、魔術師団が派兵されていた。
「森の中にバイラントから弓の扱いに長けている者達と我が軍の弓兵を配置し、
更に上空から魔術での攻撃、別の飛空部隊は後方に回り強く陽動をかけて一気に叩く。」
戦というのは非常に難しく、大勢が必ずしも勝てるものではない。
今回『トリスト』が選択した手段のように一番士気が高くなる最前線に強く攻撃を集中させる事で
混乱による自然な瓦解を狙うもの犠牲を抑えるという意味でも物量差を覆すという意味でも有用なのだ。

元々大森林の中では様々な蛮族が小競り合いを繰り返しているらしい。

黒い外套の男によって半壊まで追い詰められてた『バイラント族』はもはや後がない為、
皆が刺し違えてでも戦い抜く覚悟で殺気立っている。
「まぁ負ければ男は全員殺されるだろうしな。」
バラビアも自身の部族の為に闘志をむき出しにするのかと思いきや、
作戦を聞いて盛り上がりを見せる仲間達とは少し距離を置いた位置からそれらを眺めていた。
「男?男だけなの?」
ふと気になって尋ねてみると、少し意外そうな表情で
「いや、男の子と老人も殺されるだろうな。女だけは新しく『アンラーニ族』の子を産まされるだろうし。
というかお前も1国の王子なんだろ?西側の世界はいまいちよくわからないけど戦ってそんなもんじゃないのか?」
さも当たり前の事を何故知らないのか?という驚きからそういう顔になっていたらしい。
言われれば何となく理解は出来るものの、子供や老人まで殺すというのはいかにも蛮族らしい。
「男の子と老人を殺す理由がよくわからんな。」
隣にいたリリーもあまりよく思っていない相手にも拘らず不思議そうに尋ねると、
「子供であろうと男は将来血を残すからな。老人は遺恨を残す。だから殺すんだ。」
「へー。」
素直に感心しているが、クレイスはその理由に肝を冷やす。
そこに慈悲などは微塵もない、本当に自分の部族を反映させる為だけの考え方だ。
最初蛮族という言葉の意味がよくわからなかったが、こうやって実際彼らに接して意見を聞くとよくわかる。
少なくとも『アデルハイド』の人間からすればかなり野蛮であると。

(決して悪い人達ではない。でもこの文化の違いは・・・)

ここの復興には自分の国が大いに関わっている。
父はこの先彼らとの交流をどのように展開していくのだろうか。
自分では未だ自覚は一切ないと思っていても血のせいか、クレイスは知らず知らずの内にこういった事を考えていくようになる。





 蛮族同士の戦いで宣戦布告をするのは珍しく、更に軍同士のぶつかり合いというのはほぼ前例が無いそうだ。
こちらの事情を知ってか知らずか向こうから仕掛けてきた以上断るという選択肢は存在しなかった『バイラント族』。
物資の供給や復興作業などで多少首を突っ込んでしまっていた『アデルハイド』が『トリスト』に報告した所、
今回は援軍を送る事で話がついたのだ。
片側は湖になっており戦地となる場所は多少開けてはいるものの、それでも万の兵が一度に戦えるほど広くは無い。
木々が所々に生える狭い場所での最初の激突により一気に士気を削って勝敗に持っていく予定だった『バイラント族』の戦士1200人と『トリスト』兵2000人。
だがいざ蓋を開けてみると、

「堪えろっ!!!圧し切られるとこちらが瓦解するぞっ!!!」

各部隊長が兵卒達に檄を飛ばして必死に反撃を試みていた。
どういう訳か『アンラーニ族』の戦士達は空から落ちてくる火球にも森から飛んでくる見えない矢にも一切怯む事なく
こちらの前線とぶつかり合っている。

ばきっ!!・・・ががんっ!!・・・がっ!!どどんっっ!!!

(・・・こ、これは・・・?)
防御を任されているクレイスは最前線で必死に彼らの攻撃を凌ぐもいち早く2つの違和感に気づいていた。
まず相手の動き。これは何度か遭遇した事がある。
ユリアンの邪術によって操られていた騎士団、あれに酷似しているのだ。
証拠となりえるかはわからないが、
弓が刺さっても火球が落ちてきても怯まないというよりは全く気にかけていない不気味さが過去の記憶と合致するのだ。
(ハルカなら気が付いてるんじゃ?)
彼女は旅の途中でクンシェオルトと帰国に着いたものの『シャリーゼ』の小さな村でそれらと一度だけ対峙していた。
ならばクレイスより敏感に感じ取れるはずだとそちらに目をやるも、

がががっ!!がががががっ!!!!

クレイスが相手にしている者とは比べ物にならないほどの強者を相手に壮絶な打ち合いを繰り広げている。
(ええ?!この中にあんなのもいるの?!)
その表情から相当な接戦らしく、彼のようにのん気に考え事をしている暇はなさそうだ。
相手の攻撃を防ぎながら周囲を見ても皆が皆接戦に持ち込まれている事から『アンラーニ族』というのは本当に強いのだと実感・・・

そう、実感出来ないのだ。

ばんっ!!・・・ばきんっ!!・・・がっ!!

クレイスの前には何百もの蛮族がこちらに向かって突っ込んできている。
両側には同隊の大盾持ちが並んでそれらを凌いでいるのだが、何故かクレイスに打ち込まれる攻撃だけは妙に弱く感じていたのだ。
ただ、そう思っているのは彼だけらしく、隊列を組む左右の仲間達は苦悶の表情でそれらを受けている。
(・・・一体どうなってるんだ?)
相手の強さの幅が相当広いのか?
だから自分に来る攻撃は一番弱い蛮族のものしか来ていないのだろうか?
それにしてもハルカが苦戦するような戦士がいる部隊にここまで弱い戦士が混じっているものだろうか?

(・・・いや、それを言ったら相手から見て僕がその位置になるな。)

決して手を抜いている訳ではないのだが終始そんな事を考えられるだけの余裕を持っていたクレイス。
いつもは様々な人間に助けられる立場なのだが、今日だけは体制を崩しそうな同僚の替わりに攻撃を受ける場面が非常に多く、
心のどこかでは自分が強くなった事に浮かれる気持ちまで生まれる。

結局戦とは、軍とは決して強さが統一される訳もなく、
今回はそのぶつかり方が見事に拮抗したものになったのだとこの時までは結論付けていた。





 初日から激しい消耗戦だった事はその夜の生存報告によって明らかとなる。
『バイラント族』からは1000人近い戦死が確認され、『トリスト』からも100人ほどの死者が出ていた。
「不味いな。これでは我らが戦う意味がなくなるぞ。」
前回の内乱で既に大半の民を失っていた『バイラント族』、現在非戦闘民をあわせても500人に満たない数まで減っている。
「まだだっ!!我ら『バイラント族』は最後の一人になっても戦い抜くぞ!!」
族長は息巻いてそう叫ぶが既に軍としての限界が来ている。
『トリスト』としては『バイラント族』の防衛が主目的であったにも関わらずそれも失敗と断言出来る程の損失を出している。
(本来ならここは撤退一択なのだが。)
此度の指揮を任されていたパーレットは33歳。『トリスト』建国時に近い時期からずっと軍部で働いてきた生え抜きの軍人だ。
個の強さもさることながらネイヴン等から高く評価されているのは非情に徹する事が出来る点にある。
彼もそこに期待されているのを重々承知している為、
髪は総髪で固め、眉の角度もわざとつけて整える事で俗に言う強面というのを意識していた。
印象というのは大事なもので、普段から周りがそういう風に自分を捉えていてくれれば
切り捨てるような命令でも多少は納得してくれるだろうというのがパーレットが出した答えだ。

「ヒーシャ殿。ここは撤退しましょう。このままでは我らはともかく『バイラント』は滅びますぞ。」
そんな彼が腹をくくり、族長に唯一生き残れるであろう提案を勧める。
「父上。パーレット様の仰る通りです。意地だけではどうにもなりません!」
彼の息子である参謀のマハジーも大人しそうな外見とは裏腹に声を荒げて強く迫るも、
「いいや!!退く事は死ぬ事よりも恥である!!それは我らが民もよく知っておろう!!」
事前情報からもわかってはいたが蛮族というのは融通が利かないものだ。
もちろんこれは『トリスト』側からの偏った感想であって、彼らには彼らの守るべき誇りと伝統がしっかりとある。
その食い違いが現在はっきりとした形となって現れているのだが、
「バラビアのお父さん。本当にいいの?死んじゃったらヴァッツとバラビアの子供が見れなくなるわよ?」
大将軍の配下であり暗闇夜天族の頭領であるハルカが情に訴えかけるように話かけてみる。
ただその内容は非情に繊細な問題なので、説得の為とはいえ出来れば口に出してほしくはなかったのだが、
「う・・・・・いや!!敵に背を向けた男が祖父と知れば孫は一生わしを軽蔑するだろう!!
死して侮蔑の眼差しを受けるなど族長として許されぬ!!」
多少は心が揺らいだものの決意は固い。
個人的には誰よりも説得を成立させてくれそうな娘のバラビアに期待しているのだが、何故か彼女はずっと黙ったままだ。
「バラビア殿はどう思われますか?」
痺れを切らしたパーレットが軽く声をかけると、
「あたいはどっちでもいい。どっちの決定でも従うよ。」
どうやら自分が思っていた以上に彼女は賢いらしい。
数少ない生き残った『バイラント族』の戦士達に下手な動揺を見せまいとしているのだろう。
(賢いというよりは頼もしい・・・だな。)
部族一勇猛だと聞かされていた事を思い出し、彼女なら本当に大将軍の妃として迎えてもいいのでは?と考えを改めていると、
「パーレット様。」
後ろに待機していた配下から静かに声をかけられて耳を傾ける。
・・・どうやら戦況に大きく関わってくる話があるようだ。
「失礼。少し席を外します。」
軽く会釈して立ち上がると彼は陣幕を出て裏手に姿を消した。



日も暮れてすっかり肌寒くなっている東の大森林。
『バイラント族』の集落から少し離れた所まで案内されたパーレットの前には2人の男が現れる。
一人は見慣れた鎧に身を包んだ男、『アデルハイド』の斥候兵だ。
そしてもう1人、こちらは恐らく初めて見る男だろう。
東方の国ではよく見られる衣装らしいが、この辺りでそれを身に着けている人間はごく僅か。
しかしその僅かな人間が3人とも『トリスト』にいる為、少し驚くも取り乱す事はなかった。
「そちらの御方は?」
ただ、そのような格好をする知り合いはおらず何故2人が並んで自分を呼びつけたのか、そこまではわからなかった。
「はっ!私は『アデルハイド』から『バイラント族』への復興等の任務についているトルドと申します!」
「お初にお目にかかります。拙者は暗闇夜天族頭領補佐のミカヅキと申します。」
元気な方はともかく暗殺集団の名が出た事には流石に驚いたパーレット。
自身が狙われる理由は・・・いや、『トリスト』軍を率いる身分なのだ。狙われても全くおかしくはない。
しかし話があるという事でこの場に呼ばれたのだ。殺すのなら他にやり方があるだろう。
「トルド殿にミカヅキ殿、各々どういったご用件だろうか?」
現在明日の戦についてとても重要な決断を迫られている。
族長さえ首を立てに振れば後は滞りなく事は運びそうだがそれが非常に難題だ。
もしかしてそれらの手伝いか?一瞬淡い期待を抱くも、
「はっ!現在『アンラーニ族』との戦は非常に劣勢だと聞き及んでおります!我らが王子も参戦されている為、
詳しい戦況と、出来れば王子をいち早く安全な場所に退避させて戴きたくお願いに上がりました。」
「拙者も同様です。我が姫は比類なき強さをもってはおられますが大切な御身をすぐに危険に晒す悪癖がございます。
いち早く退却の指示を出していただくようお願い申し上げます。」
お互いがお互いの主を思っての進言に大きく頷くパーレット。
出来る事なら今すぐその決断を下したいのだが大きな問題が1つ立ちはだかっているのだ。

・・・・・

少し考えた後ここは『トリスト』だけではなく彼らの力を、『アデルハイド』と『暗闇夜天族』の力を借りてこの状況を打破出来ないだろうか?
その答えにたどり着いた彼はそのまま3人で即興の会議を開き、
『アデルハイド』からは援軍、もし戻られているのなら大将軍様を呼んでいただき、
『暗闇夜天族』からは『アンラーニ族』の族長及びその側近らを消してもらう事で驚くほど話は綺麗にまとまった。





 本来戦というのは毎日全力でぶつかるものではない。
そんな事をしていたらお互いの兵士はあっという間に散っていき、その被害は取り返しのつかないものになるだろう。
少しずつ士気と物量を消費していき、どちらかが折れれば退却、篭城戦なら降参といった所に落ち着く。
だがそれはあくまで西側による見解だ。
東の大森林に生息する蛮族達は己の部族を繁栄させる為に敵は容赦なく全てを斬り伏せる。
軍という概念はなく、攻撃と撤退の合図くらいはあるものの、基本的には個々が本能のままに暴れるのだ。

開戦してから2日目。

相変わらず圧され気味の『トリスト』軍だったが多少彼らの動きに慣れてきたのか
ほとんど被害を出さずにその日は終えることに成功した。
ただ、それはあくまで『トリスト』だけだ。
戦士をどんどんと減らしていく『バイラント族』はもはや全滅に近い。
族長も沈み込んでしまい、そんな彼に撤退を諭すパーレット。
そして傍についてはいるものの、父に意見することなく静かに見守るバラビア。

「クレイスってそんなに強かったっけ?なんでそんなに元気なの?」
首脳陣の悩みなどは微塵も興味がないのか、彼らを遠くから眺めていたクレイスにハルカが話しかけてきた。
「いや。強くは無いよ。ただ・・・何だろう。相手がそんなに強くない?」
「嘘?!私も少しは慣れてきたけどあいつら尋常じゃないわよ?!」
「それはハルカが相手をしてる奴らだけじゃないのか?あたしも苦戦はするけど強いってほどじゃないと思うけどな。」
リリーが水の入った椀を持ってクレイスの隣に座るとその話題に入ってきた。
慕っている姉も同意するような事を口走ったので猫のような目をぱちくりと開けて驚くハルカ。
「お姉さままでそんな・・・」
「いやほんとだって。証拠といっちゃ何だけどあたしはこの戦い一度も『緑紅の力』を使ってないし。」
「ええ?!あ・・・・・でもお姉さまが凄く長い間戦えてたのは確かに不思議だったわ。
となると私は向こうから目をつけられてるから猛者を当てられてるのかしら?」
自身の中で納得したのか、今度は別の疑問で頭を悩ませはじめたらしい。
しかしリリーが『緑紅の力』を使わずともそれなりに強いのは訓練場で散々実感していた。
そんな彼女と同じ意見だということはクレイス自身もそれなりに力をつけてきたということだろうか?
(全然実感がないんだけどなぁ・・・)
相変わらず不思議な相手だというのだけは感じていたが、この時はまだそれ以上の感想は生まれてこなかった。







暗闇夜天族頭領補佐のミカヅキは非常に頭を悩ませていた。
何せいきなり頭領が姿を消したり、『トリスト』の大将軍側近になったとか言い出したり、
そしてまたいきなり姿をくらましたりするのだ。
そもそも『トリスト』という国が何処にあるのかすらこちらは掴めていない。
連絡を取りたいし傍に配下もつけておきたいので場所を教えてくれと頼んでもはぐらかされる。
(少し前に『アデルハイド』の王子を殺そうとした事までは情報がしっかりと手元に届いていた。なのに今は・・・)
彼女の強さは4将を超えていたので身の危険という心配は必要ないのかもしれない。
しかし流石に1ヶ月もの間音沙汰無しというのは心臓に悪い。
今回の戦も傍から様子を見ていたがどういう訳かハルカと戦う者はどれも相当な猛者なのだ。
それこそその全てが4将に並ぶかもしれないほどだ。
(東の大森林に巣を構える蛮族・・・我らはもっと視野を広げねばならないのかもしれない。)
万が一の事があっては困るのでハルカの周囲には常に数人の配下が暗躍してはいるものの、
此度の『アンラーニ族』との戦。
これはあまりにも危険すぎると判断したミカヅキは早々に指揮官への接触を試みて速やかな退却を要求した。
ただ、彼らには彼らの悩みがあったらしく、それらを解決する為に今回早期の退却を条件に『仕事』を請け負ったのだが。

物音どころか吐息すら感じさせない暗殺者達が5人。
『アンラーニ族』が野営する場所に忍び込むと妙な違和感に気が付く。
「い、いてぇ・・・いてぇよ・・・」
「うう・・・もう帰りたい・・・」
「・・・・・戦いたく・・・ない・・・・・」
『バイラント族』にも相当な被害が出ているのは知っていたが、それでも彼らからは闘志を感じていた。
しかしこの場にいる怪我人や重傷を負った戦士達の何とも情けない事か。
口を開けば弱音ばかりで、士気などはとうに底をついている。なのに今日の戦いも苛烈なものだった。

その違和感。

全員が疑問を胸に族長らしき者がいる陣幕へ向かうと、
「おや?また来客か?今度はどちら様かな?」
暗闇夜天の技術を見抜いた男がこちらに声を掛けてきた。
完全に虚を突かれた彼らは一瞬体をびくりとさせると掟ともされる緊急行動に則って全員が一定の距離を取って陰に姿をくらます。
暗闇夜天族に限らずこういった場合全滅だけは避けねばならないのだ。
5人が辛うじてお互いを助け合える、もしくはその様子を探り合える距離。
最終判断は個々に任されているが彼らはそれだけの能力を備えている。
いざとなれば頭領だろうが補佐だろうが見殺しにしてそれを上回る情報を持ち帰らねばならない。
「うん?会話をしないのか?何か目的があってここに入り込んだのだろう?要件くらいは聞いてやるぞ?」
暗闇に紛れているにも関わらず黒い外套を頭から被っている男が各々に話しかけてくる。
それだけで非常に高い武力を保持しているのはここにいる誰もが理解していた。
「『アンラーニ族』の長と停戦について話し合いに来たのだが、貴様は蛮族ではないな?何者だ?」
無言を貫く方が危険と感じたのか、ミカヅキが虚報を立てて話しはじめた。
まさか族長とその側近を殺しに来たと素直に打ち明ける訳にはいかないのでこれは真っ当な行動だ。
皆がそれに対しての動きを見守っていると、
「そうなんだ?いや?でも彼らは死ぬまで戦い続けるよ?私が指揮を執っているからね?」
軽い口調ながらかなり重い内容をさらりと言いのける男。
「そこまでして何を望まれる?もはや『バイラント族』は風前の灯。
東の大森林で最大の勢力を誇る『アンラーニ族』として懐の深さを周囲にも喧伝出来るようこれ以上無益な争いは止めてくれまいか?」
強さだけではなくその性格も極めて残忍だと判断した頭領補佐は半分は本心でそれを訴えた。
彼らにとって一番大事なのは自分達一族であり、その頭領であるハルカの身なのだ。
暗殺は失敗に終わったがここで停戦という選択肢を考慮に入れてくれればと考えたミカヅキ。

「いや?『アンラーニ族』も滅ぼすよ?この森に巣食う蛮族は全て私が駆除するんだよ?」

・・・・・
この男は一体何を言っているんだ?
唖然とするミカズキの様子を4人の配下も陰から見守っている。
もし彼に何かあれば全員がこの場で起こった出来事を仲間に伝える為に命を賭けて走るだろう。
事実ここから少し離れた場所には第二、第三陣の暗闇夜天族が中継として5人態勢で待機している。
こういった抜け目のない緻密な布陣と個々の強さが暗殺の世界で名を上げているのだ。
「・・・話し合いは難しそうだな。」
「だね?用はそれだけ?」
「そうだな。最後に1つ、何故蛮族を滅ぼそうと考えておる?」
正直そこの部分も含めて不明瞭な部分が多すぎるのだが、頭領補佐として何かを感じ取ったミカヅキは、
非常に残念そうな表情を造りつつ静かに命を燃やしながら情報を引き出そうと試みた。

(この男から逃げるのは相当難しいだろう。ならばせめて・・・)

恐らく自分達が暗殺に来た事くらいは見抜かれている。そしてそれらを見逃してもらえるとは思えない。
ならばか細い可能性だがぎりぎりまで情報を集めてここにいる誰かが頭領の下まで届けねばと皆が同じ覚悟を抱く。
暗殺集団という面で名の知られている暗闇夜天族だが基本は忍びの技術と通ずるものがあるので汎用の幅も広いのだ。
ミカヅキの質問に答える黒い外套の男の発言を各々が筆で簡単に書き取ろうと暗闇の中で構えていると、
「世界を我々の手に取り戻す為、かな?まぁこの森が私の領分なんでね?」
「世界を・・・随分規模が大きい。しかし貴殿から感じる力、大風呂敷とも思えんな。」
「お?私の強さがわかるとは、君も中々の猛者なんだね?だったら皆にこう伝えておいてよ?
『七神』が1人『ガハバ』が護るこの森に許可なく人が踏み入る事は許さないってね?」
『七神』と『ガハバ』という言葉を全員が脳裏に刻み込むと同時に筆を走らせる。
あとは誰かが無事に逃げおおせれば・・・
「おお?そうだそうだ。君の名は?」
「拙者か?・・・暗闇夜天族の頭領補佐ミカヅキと申す。」

ここにきて彼が暗闇夜天族の名を出した事に配下達が静かに大きく驚いた。
それもそのはず、暗闇夜天族の名は依頼者こそ使うものの普段は隠して表に出さず、
部外者がその名を耳にした場合それらは例外なく排除せねばならない。
そういった秘匿の掟も彼らの名をより高める要素となっていたのだが・・・
「暗闇夜天族のミカヅキね?・・・長いね?でも覚えておくよ?」
黒い外套の男は納得したのか、何度も頷くと彼らに興味を失ったかのように背を向けて去っていった。





 今日の戦で大将軍ヴァッツが参戦出来なかった場合は撤退する。

何とかその方向で話をまとめたパーレットは温かい紅茶を片手にやっと一息ついてこれまでを振り返っていた。



あの夜、暗殺を失敗したというミカヅキの報告に周知徹底されていた黒い外套の男の名が上がったのだ。
点と点がおぼろげながら線となって浮かび上がってきた為『トリスト』としても重大な局面を迎えていた。
地面を軽々と持ち上げて大きな崖を作る大将軍。その少年を殴りつけて大きな湖を作ってしまったという黒い外套の男。
それと接触して『七神』と『ガハバ』という言葉をミカヅキが無事に持ち帰るとすぐに情報を共有する為まずは全員に伝える。

「「「ガハバ?」」」

すると『バイラント族』の長、補佐と娘がその名をきいて同時に返してきた。
「はい。何か知っておられますか?」
何かしらの情報が得られるかと尋ねるパーレットに、
「いや、知ってるも何も大森林の大精霊様のお名前だ。」
ヒーシャが代表して答えるとマハジーとバラビアも何度か強く頷く。
「大精霊?」
「うむ。昔からこの森に住んでおられると言われておる。皆を見守ってくださっていると。」
「しかし拙者は彼の口から確かに『この森に巣食う蛮族は全て駆除する』と聞きました。
見守る立場にいる者の言とは考えにくい・・・」
命懸けの情報を掴んで帰還したミカヅキは昨夜の出来事を事細かく皆に伝えてくれたが、
「いや・・・流石にそれは考えられない。恐らく大森林の事情に詳しい者が偽名として名乗ったのでしょう。」
「うむ!!奴はわしらにも接触してきた・・・いや、接触してきたのは別の男か?」
「だね。少なくともあたいらに話を振ってきたのは別の奴だ。」
『バイラント族』からすると崇める存在の名なだけあって聡明なマハジーも直接的な関わりはないと考えているらしい。
『ガハバ』と名乗るのは黒幕の男であり、大精霊は別に存在していると。
念の為報告にあがっていた内容と直接接触した彼らの話を確認しながら情報の齟齬を細かく修正するパーレット。
「つまり黒い外套の男は2人。その内の背の低い方が今回の騒動を起こしている『ガハバ』という事ですね?」
「でしょうな。しかしこのまま蛮族同士が争えば奴の思う壺ですぞ。」
流石に暗闇夜天族の頭領補佐というだけあって彼は私情を挟む事無く情報を俯瞰的に捉えてその真意に眉を顰める。
「・・・いや。黒い外套の男は我が国でも最重要危険人物。すぐに伝令を送ってヴァッツ様に参上していただこう。」
パーレットも全てを排して考えた結果、まずはそれに対する行動が第一と考えて速やかに伝令を送った。
そして同時にこの戦の狙いを達成させない為に今日中にヴァッツが参戦出来なかった場合は撤退をと説得せしめたのだ。



(ヴァッツ様・・・来ていただけるだろうか?)
敵に黒い外套の男がいる以上こちらも無理をして犠牲を増やす訳にはいかない。
彼も戦場では非情な采配を下す時はあるものの、好き好んでそれをやっているわけではないのだ。
ただ『フォンディーナ』は話でしか聞いていないが陸路と海路を使うと『アデルハイド』からだと
どれだけ急いでも1か月強はかかるという。
行きと同じで恐らくは王女様が抱えて空から戻って来られるのだろうがそれでも・・・

この2日間で『トリスト』兵の死者も200人を超えた。

これ以上話の通じぬ蛮族の為に無駄な命を失いたくないと感じていた彼は誰よりも大将軍の参戦を願っていた。





 今日ヴァッツが来なければ撤退するという報せを受けて隣にいたハルカが一番安堵していた。
「お前いつの間にヴァッツ様を大好きになっていたんだ?」
リリーがいやらしい笑みを浮かべながらからかうも、
「好きとかじゃないから!あいつは味方にすると安心・・・頼もしいから!それだけだから!」
ムキになって反論すると余計にそんな感情があるのかと勘ぐられそうなものだが、
「そうだね。来てくれるといいんだけど・・・『フォンディーナ』は遠いからなぁ。」
彼女の意見と気持ちには同意しつつも、今回だけは友人を当てには出来ないだろうと感じていたクレイス。
そもそも移動がかなりのぐーたらであるアルヴィーヌ任せなのでそこからして期待が薄い。
(彼女の事だし暑さでバテてたりして・・・)
その想像はほぼほぼ間違ってはいなかったのだが・・・



じゃーーーーーーん!!!

『アンラーニ族』の軍勢が姿を現したので合図と共にこちらも慌てて陣形を整える。
この2日間でこちらの犠牲は『バイラント族』と合わせて1300人ほど、対して相手は4000を超えていた。
怪我人を含めると戦線を離脱している者も多くいた為お互いの人数はかなり減少していたはずだが
相変わらず相手の戦意、いや殺意か?妙に目をぎらつかせて皆が殺気立っている。
(凄いな・・・でも、僕も・・・)
この戦場では何故か思っていた以上に活躍出来ていると自負していたクレイスは最終日という事もあって気合を入れ直す。
まだ周囲には回収されずに放置されている死体の数々が転がったままだが、
今の彼にはそれが目に入っても気に留める様子はない。
元々最弱といってもよかった彼がいきなり次元の違う人間達と出会い、それらと共に戦ってきたのだ。
強さは伴わなくとも覚悟と死に向き合ってきたクレイスに恐れはあっても怯えはなかった。
更に彼自身が相手を殺すという場面がなかったのも大きいだろう。

大楯を使って仲間への攻撃を阻止し、反撃への起点を生む働きは周囲の斬り込み隊を大いに活躍させた。
いつもは傍にいたカズキと違って今はリリーとハルカがクレイスの傍にいた為、士気の質もいつもとは違うらしい。
蛮族達の動きに慣れてきた『トリスト』兵は昨日以上の働きで戦場を駆ける。
ただ、やはりハルカだけは苦戦を強いられてるようだ。
(彼女は強い。でも・・・出来れば・・・)
頼もしい友人が来ることを願って戦い続けるクレイス。恐らく周囲も同じ気持ちだろう。
いや、もし来れなくても今日でこの激戦も終わるのだ。何とか今日この日を生き残れば・・・

気を緩める事無く堅実に戦う『トリスト』兵達。

やがて小康状態に陥り軍と軍の距離がやや離れた時。
「『アデルハイド』のトルド、ただいま強力な助っ人を連れて戻りました!」
聞きなれない男がとても嬉しそうに大声を上げると多頭引きの馬車から見たことのある少女が降りてきた。
休息の為最前線から後方へ移動していたクレイスは意外な人物を見て、
「あ。えっと確かショウのところにいた、サーマだっけ?何でこんな所に?」
ここは激戦の場であり決して遊びに来るような場所ではないのだが、聞いた話だと彼女の使う魔術は相当な物だという。
「貴方達を助けに来たの。だからショウの事も助けてくれる?」
「えっ?!」

あのショウを助ける?

強さと信念に絶対の自信を持ち、常に心のゆとりを感じていた赤毛の少年を?

「あいつに何かあったのか?おっと、あたしはリリーっていうんだ。よろしくな。」
「私はウンディーネ。この体の名はサーマなんだけど彼女は話せなくて。」
一瞬声を失ったクレイスに替わりリリーが自己紹介がてら手短に尋ねると、
「詳しくはよくわかっていないんだけど魔人が言うには黒い外套を被った男に攫われたらしいの。」
「「えっ?!」」
今度は2人揃って言葉を失う。
まさか奴らがそんなところにまで・・・しかもショウを攫うなんて何を考えているんだ?
「ウンディーネ。それなら私の部下が詳しく知ってるからこっちに来て。」
どこにいたのか暗殺者らしく突然姿を現したハルカが彼女を連れて森の木陰に入っていく。
もっと詳しい話を聞きたかったが今はまだ交戦中だ。
「やれやれ、そろそろ戦線入れ替えだ。いくぞクレイス。」
リリーも話の続きが気にはなっていたらしいが、ここで集中を切らせば命に関わる。
「はい!」
姉のように慕う彼女と気合を入れなおしたクレイスは再び最前線へと向かっていった。





 「ミカヅキー!」
森の中に少しだけ入って声を出すハルカ。すると、
「はっ!こちらに。」
暗闇の影から30を越えたくらいの男が静かに姿を現した。
高い背丈も気になったが見かけよりだいぶ老けた声が印象に残ったウンディーネは、
「貴方がハルカの部下さんなの?黒い外套の男について詳しく教えてもらえる?」
「ははっ!」
そこで昨夜起きた出来事というのを静かに聞いていた。



「『ガハバ』と『七神』。それと黒い外套を被った男は2人いるのね。全て覚えたの。」
セヴァの話とは若干印象に違いがあるので『七神』という言葉から考えるに、つまりは7人いるのだろう。
(ショウを攫ったのは恐らく別人。でもその『ガハバ』とかいうのを捕まえれば・・・)
いつものように可愛らしく答えたウンディーネは早速目的を果たすために魔術を開放する。
ハルカとミカヅキの前でみるみる伸びていく蒼い髪、そして滴る雫。
双眸にも力強い蒼が走るとそのまま『トリスト』と『アンラーニ族』が戦う戦場へ一直線に飛んでいった。

今回の目的はまず劣勢なクレイス達を助けなければならない。

いきなりショウへの手がかりが掴めたものの、これを無視してしまったら今後彼らとの関係も悪くなるだろう。
一応『トリスト』らしき魔術師達も敵陣の中腹から後列にかけて火球を打ち下ろしてはいるものの効果はあれど怯む様子は全く無い。
(・・・あれ?これは・・・)
その様子を見てすぐに違和感に気が付いたウンディーネはそれらが展開している下に高度を落として地面にいる数多の蛮族達を見下ろす。

ぱぁぁ・・・・・・ぱしゅっしゅしゅぱしゅしゅっ!!!!!

僅かな時間で無数の水球をあたりに展開するという高等な魔術に一同が手を止めて目が釘付けになる魔術師達。
更にそれらが槍のように、蛇のように伸びて地上の敵陣に突っ込んでいくと、

ずぼぼぼぼぼっずぼぼっずぼぼぼっぼぼぼぼ・・・・

縦横無尽に駆け巡るそれは『アンラーニ族』の体や頭部を瞬く間に串刺しにし、貫通しながら走り抜ける様はまるで布を縫い合わせる糸のようだ。
1本でも脅威なのにその数はゆうに100を超えている為、
いくら士気が下がらない戦士達でも命を繋ぎとめておく事が出来ない状態にまで風穴をずんずんと開けられると流石に事切れて倒れていく。
「・・・数が多過ぎて時間がかかるの。ちょっとその水を使うの。」
しかし今までの膠着した戦況を軽く覆したにも関わらず彼女はその戦果に納得がいかない。
そこで近くにあった湖の水を見るとそちらに向かって両手をかざすウンディーネ。
静かだった湖畔から巨大な水の塊が山のような高さまでせり上がってくると、膨大な水が『アンラーニ族』の中央目掛けて一気に落ちてきた。
突然大量の水に襲われた蛮族はそれでも驚く事無く敵を殲滅しようともがいている。
(間違いない。これは何かの力で操られている。)
個々の感情などとうに失っているのだろう。それでも死ぬまで戦うように術をかけられている蛮族達。
万を超える『アンラーニ族』は大量の水に飲み込まれながら、その中で自分達がどんな状況なのかもわからないまま溺れ死んでいく。
ある程度の数を減らせたと納得したウンディーネは地上に呼び寄せた水の塊を今度はそのまま湖に戻すと、

・・・・・ずずずずず・・・・・ざざざざざざざ・・・・・

大量の命を飲み込んだ湖は死体とついでに巻き込んだ木々がごみのように浮いていた。

空から見下ろしながらやっと敵兵力が同数くらいになったのを確認すると最後にまたも水蛇を撃ち放って念入りに残存兵力を潰していく。
彼女からすれば操られていようがなかろうがどれだけ多くの犠牲が出ようが関係はない。
今は速やかにこの雑務をこなしてショウの行方について調べねばならぬのだ。
「ちょっとちょっと??やりすぎじゃないかな??君??」
やがて例の黒い外套を被った男が地上から飛んでくると苦言を呈しにウンディーネの前に現れた。
敵意は感じられないが彼女の行動を咎める為だけに攻撃を仕掛けるわけでもなく堂々と姿を見せたのだ。
強さには相当な自信があるのだろう。
「あ。あなたが『ガハバ』なの?」
「そうだよ?君は・・・また変わった種族だね?若干人間の香りがするけど一体?いや?それよりも私の手駒を潰すのはやめてくれないか?」
はっきり手駒と言う辺りは逆に清清しいが今は彼だけが手がかりなのだ。
派手に暴れた甲斐があったと心の中で納得しつついよいよ本命との交渉に入る。
「そっちにショウがいるでしょ?彼を返してくれたらすぐにでもやめるの。」
詳しい説明は必要ないだろう。
最も重要な用件を手短に伝えるとガハバという男は少し考えて、
「うーん・・・あれは私以外の仲間が気に入っているからね?中々答えにくい条件だね?」
「だったらあなたも含めて全てを始末するの。」
これは決して脅しではない。
サーマとウンディーネの強い想いは目の前に現れた手がかりを逃がす事を許さない。
瀕死まで追いやってどこかに吊るせばその仲間とやらが現れるかもしれないのだ。
「ううーん?仕方ないね?じゃあ私と勝負して勝てたら教えるっていうのはどうかな?」
とてもわかりやすい提案に断る理由は無い。地上で暴れまわっていた水蛇を全て自身の周囲に戻して水球の形で待機させると、
「わかったの。」
興奮状態からか了承の返事が妙な言い回しになったが合図などというものはない。
お互いが普通に会話出来る距離から一気に全ての水球を仕掛けたウンディーネ。
相手の武器が何かはわからないが彼女は中、遠距離から一方的に攻撃を加える水の魔術な為よほどの事がない限り反撃はないだろう。
そう踏んでの行動だった。





 自身と違う感じはしていた。そして多数を操る類は天族が得意とする術だ。
以前戦ったアルヴィーヌが例外なだけで本来彼らが戦うときは肉弾戦を主とする。
そこまでは読めていたので後は近づかせる事なく攻撃を集中させれば容易に落とせると考えての先制攻撃だった。
だがガハバという男は予想以上の速度でその水弾をかわして一気にウンディーネの懐に飛び込むと、

ぼくぅっっっ・・・・・!!!!

常人なら腹から全てを破壊されて風穴どころか手足が辛うじて残るか?という拳が刺さると、

ばきんっっっ・・・・・・ばぁんんんんっ!!!!!

すぐに引いた右拳を今度は両手で組んで大きく振りかぶると前かがみになったウンディーネの頭目掛けて破格の大槌を叩き下ろした。
ヴァッツの頭を地面ごと殴り続けて湖を作った事実を知らなかった彼女にとってこれはとても大きな誤算だといえる。
見ればまたも地上に大きな亀裂が入るも、咄嗟に水を展開し地面への衝撃を和らげる事には成功したウンディーネ。
しかし腹部に突き刺さった拳によって明らかに動きが遅くなっていた。
出来る限り素早く体勢を立て直そうとする姿をガハバはゆっくりと地上に降りながら見守っている。
突然勃発した激しい戦いに『トリスト』や『バイラント族』の人間は気をとられるも
ただの操り人形と化している『アンラーニ族』は巻き込まれようとお構いなしに攻撃を続けていた。
「おや?不意をついたつもりが付かれてしまったね?でもこれからだよね?」
相変わらず感情が読み取りにくい男だが手加減をするつもりはないらしい。
自身から話を持ちかけておいてなんだがこのままでは非常に分が悪いと察したウンディーネは、
「・・・少しだけ待ってもらっていい?大事なものを友人に預けておきたいの。」
厚顔無恥だと揶揄されるのは間違いのない言動だが、それを聞いても特に感情を乱すことが無いガハバは、
「大事なもの?いいよ?待っててあげよう?」
こちらも力の差を測り終えているのか、その提案をすんなりと飲む。
恐らく彼女は自分に勝てないと確信しているのだろう。
その言葉を信じたウンディーネは腹部を押さえつつ
周囲を見回してショウの友人であるクレイスを見つけると力なくゆっくりと飛んでいく。

ずずっずずずんっずずずっずっっずずっ・・・・!!!


彼の周りを水蛇で一掃すると唖然とした彼がこちらを見つめてくるが今は急ぎだ。
そこにリリーとハルカがいるのも都合がいい。
「やっぱり魔術ってずるいわ!あれだけ苦戦してた私が馬鹿みたいじゃない?!」
「いや。お前は本当によく戦ったよ。えらいえらい。」
癇癪を起こす少女を姉が頭を撫でてなだめている中、
「クレイス、それにハルカとリリー。お願いがあるの。聞いてくれる?」
「お、お願い?な、何?僕達で出来る事?」
色々想像を超えた出来事が立て続けに起こっているので頭の中がやや混乱しているらしいクレイスがおどおどしながら尋ねる。
「うん。サーマを護っていてほしいの。このままじゃ全力で戦えないから。」
「う、うん!わかった!・・・うん?」
まるでガハバのように見事な疑問符を浮かべて首を傾げるが、今は説明している時間が惜しい。
彼らの周囲にいた敵兵は片付けたし、この戦場で恐らく自分達に次いで高武力を保持するハルカとリリーがいれば十分なはずだ。
「じゃあお願いね。」
そう言ったウンディーネはクレイスの胸元に近づいていって体を預けた。
咄嗟の出来事で何が何だかわからない彼は手にしていた長剣と大盾を手放しながら慌ててその肩を掴むが、
「えっ?!?!ちょっと・・・ええっ?!?!」
いきなりの行動にまず驚くも、その体に全く力が入っていない事で崩れ落ちそうになったサーマを慌てて抱きとめて更に驚いている。

大きな傷を負った事で今までウンディーネが力を与えながら動いていた彼女の体。

今そこから本体が抜け出した事でみるみる顔色が土のように変わって死体のように、いや、死体と化していく。

それと同時にクレイス達の眼前に現れた蒼色に光る体の少女。
蒼い髪はそのままだが後ろで束ねている為今までと印象ががらりと変わっていたが何より眼を引いたのが、
「じゃああいつを倒してくるの。安全なところに避難してて。」
恐らくこちらが本当のウンディーネの姿なのだろう。
上半身は非常に露出が多い衣装を身に纏い、下半身に関しては何も着用していない。
半身半魚の彼女はまるで空を泳ぐかのように尾びれを数回ひらめかせるととんでもない速度でガハバの方へ飛んでいった。





 「お待たせ。」
明らかに人ではない形の生き物が再び目の前に現れたにも関わらず、
「いいや?思っていたより早く戻ってきたんだね?てっきり逃げ帰ったのかと思ったよ?」
相変わらず顔は隠れてよくわからないが、それとなく彼女の正体には気が付いていたようだ。
ガハバは落ち着いた様子でそう答えていたがウンディーネも自身とは全く異質な力か似た力かくらいでしか判別出来ない。
だが彼女は真正の魔族だ。この世界では早々出会える存在ではない為その本質までは理解出来ていないと読む。
「じゃあ再開しましょうか。」
今度もまた手短に言い終えると先程までとは比べ物にならないほど多数の水球を周囲に生成する。
ただ、彼女が思っている以上にこの男は早く力強い。
同じ轍を踏まないようまずはガハバの周囲を囲むようにそれらを一定数展開し、残りの2/3程は防衛の為自身の傍においておく。
全方位攻撃の準備が目の前で行われているはずなのに相変わらず落ち着いたままなのはそれの威力を軽く見ているのか。

今までのウンディーネはサーマの体を維持する為にその全てを開放するのは難しかった。

死んだ者を、死んだ意思と共に蘇らせ続けていた時の莫大な魔力を全て攻撃へと移したのだ。

ぴしゅん・・・・・っっ!!!!!

僅かな音と共に大きさも早さも強さもが数倍に跳ね上がった水槍が上下前後左右の六方からカハバの体を貫く。
彼も精霊王と呼ばれる男だ。
その拳と脚で打ち落とせるものは全て打ち落とし、かわせるものは全てかわす。
しかし全力で殺しにかかっているウンディーネの魔術は先程と質が違った。
送り出した水球からの攻撃だけではなく自身も彼の周囲を泳いでは隙を突いて自ら水槍と水蛇を放って手傷を与えていく。
それらは二の腕や肩甲骨、肋骨の隙間に突き刺さっては貫通してを重ね続けた。

黒い外套はぼろぼろになり、満身創痍で顔が露見したガハバと無傷のまま見事な魔術を展開し続けるウンディーネ。

ほぼ抵抗しなくなり体中に突き刺さった水の魔術を一旦引いていつでもまた攻撃出来るように展開しなおすと、
「さすが天族。それとも天人族?もう反抗する力は残っていないみたいだし、私の勝ちでいい?」
涼しい顔で白い髪と黒い肌を持つ男に軽く問いかける。
「・・・まだ私は生きているぞ?殺しておかないと後で後悔するぞ?」
その言葉にはまだ力が残っていた。ウンディーネとしてもそれは是非そうしたい所なのだが、
「いや、あなたの命はどうでもいいの。私はショウを連れ戻したいだけ。監禁されてる場所を教えるか一緒に連れて行ってくれるか。
こちらに連れて来てくれてもいい。どうするか今この場で教えてもらえる?」
本命はそこなのだ。サーマとしてもウンディーネとしても。
本来魔族は戦いを嫌う性格なのでここでの発言はその本能から来ている部分もある。
(さっさと教えてほしい・・・こんな面倒は当分ごめんだわ。)

「・・・魔族というのは本当に隙が多いね?」

勝手に勝利を確信し包囲こそしてはいたものの、その手傷から勝負は決していたと勘違いをしていたウンディーネ。
何よりも戦いを好む天族の血からか。ガハバは周囲の水弾などおかまいなしに重傷を負った体を一気に前へと推し進める。
それでも力の差が変わることは無い。
変化した無数の水槍と水蛇が再度襲い掛かると彼の体は瞬く間に傷の数を増やしていく。
もはや人の体とは程遠い形にまで損傷し、彼女との距離が3間(約5,4m)にまで迫った頃、

ぼうっ・・・!!

渾身の右拳を放つガハバ。
当然距離はまだまだ遠く、届くはずはなかったのだがその拳は肘の部分から千切れて一直線に彼女へと向かう。
まさに決死の一撃だがウンディーネの容赦ない迎撃に腕はみるみる形を変えて辺りに肉片と血を撒き散らしていった。

ぷすっ。

それでも油断があったのか。彼の執念が勝ったのか。
辛うじて勢いを残していた拳は人差し指と中指だけになった後更に再加速すると、最後はその二指が彼女の腹部に突き刺さっていた。





 自身の体に触れさせてしまった事に多少の苛立ちがあったものの
ほんの少しだけ若干爪が皮膚にめり込んだ程度だと思っていたウンディーネは気にせずそれを摘んで下へ投げつける。
「私の体に触れるなんて大したものなの。」
この発言自体に彼女の驕りが現れているのだが、この時はまだ気が付かない。
右腕を失い、いや、体の四肢はとうに形がなく生きているのかどうかさえわからない姿になっているガハバに軽く返すと、
「・・・いっういお・・・あおう・・・い・・・」
顔にも無数の穴を開けられ、下顎は既に無く舌なども損傷しているのだろう。
何かを言いたいようだがこうなるとやりすぎたかと内心後悔するウンディーネ。これではショウを返してもらうためのやりとりすら難しい。
だがガハバの方にはもはや生き残るという考えは無いようだ。

ぱあっ!!・・・・・・・・どさっ!

一瞬だけ激しく体を薄い紫に発光させると糸の切れた人形のように肉の塊となって地面に落ちた。
「・・・はぁ。これでまた振り出しか・・・ん?」
諦めのため息をついた彼女はすぐに異変を感じる。
先程刺さったかどうかすら怪しかった腹部の傷。そこに燃えるような痛みが走り出すと、
「・・・がっ?!こ、これは・・・?!」
短い悲鳴を上げてその部分を手で触りながら覗き込む。
そこにはどす黒い紫の痣が小さく浮かび上がっていたのだがそれはあっという間に彼女の腹部いっぱいに広がっていく。
同時に激しい痛みと体中に走る強烈な痺れ、魔術の制御さえ難しくなると瞬時に悟った彼女は
迷う事無くサーマの体を預けた彼の下に向かって空を泳ぐ。
(ま、まず・・・い・・・これ・・・)
最後の力を振り絞って何とか彼らの前まで戻ってはこれたが、

ざざぁぁーっ!

「えっ?!」
「ウンディーネ?!」
「手傷を負ったのね?!」
辛うじて地面への落下は避けられたものの、飛空状態を保てなくなった彼女は体を滑らせて地上に戻ってきた。
3人が慌てて近づいてくるも、今の彼女は体を起こすどころか言葉を発する事さえ難しい状態に陥っている。
戦闘という意味では圧倒的だったはずだ。
そこに油断があったかと聞かれたら周囲も本人さえも答えるのは難しいだろう。

これは単純に見極めを違えたのだ。

ガハバはただ人を操るだけではなく、力が強いだけでもない。
人の体に触れる事で猛毒とも呼べる破壊の邪術を発動させる事こそが彼の最も警戒すべき力だったのだ。
「こ、これは・・・」
その腹部を見たリリーがおぞましいものを見たかのような表情で口元に手を当てている。
ハルカはそれを見た瞬間懐からとても高級そうな小さい漆塗りの小物を取り出し、蓋を開けると急いでそこに何かを塗り始める。
クレイスもサーマの体を抱きかかえてこちらにのっそのっそと歩いてくる。
彼はまだまだ体力不足の為、少女とはいえ人一人を抱えての行動はこれが限界なのだろう。

だが今は言葉どころか視界すらぼやけてきた彼女にとって今一番必要なのは彼なのだ。

鉛のように重くなっただけでなく体の自由がほぼ利かなくなってきた中、腕を必死で伸ばしてクレイスに強い眼差しを送るウンディーネ。
しかし思ったように動いてくれない。
自分ではわからなかったがそのどす黒い紫の痣は既に胴体を侵食し、首の下までその牙を伸ばしてきている。
ここでやっと自由の利く手段を思い出した彼女は水球から大きな手の形を作ると、
サーマを抱きかかえるクレイスを無理矢理目の前まで引き寄せた。

・・・もはや迷っている時間はない。

覚悟を決めたウンディーネは一縷の望みを賭けて死を覚悟すると相手の了承などはお構いなく体を水色に激しく発光させると、
「うわっ?!」
「まぶしっ?!何々っ?!」

命に関わる猛毒を受けた彼女はサーマの死んだ体に戻る事は許されず、この3人で唯一魔力を感じたクレイスの中へ溶け込んでいった。

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