闇を統べる者

吉岡我龍

ジョーロン -解放の条件-

 尋問もどきが終わった後、
ジェリアを時雨に預けて自身も風呂で汚れと疲れを落とす。
あてがわれた部屋に戻ると夕食の準備を知らせる使いがすぐにやって来た。
少し落ち着いて考える時間も欲しかったが栄養補給は必要だろう。
向かった大食堂にはもう全員が揃っており、
空いてる席に座ると給仕が作りたてであろう料理をどんどん運んできて
かなり大きな食卓に所狭しと料理が並べられた。

「さて、神への祈りはそれぞれにお任せします。好きに頂いて下さい。」
信仰心の薄いショウはあまり気にしていないが、
各々が違う形で手を合わせ、ある人間は感謝を口に、ある人間は手を合わせるだけで終わる。
『シャリーゼ』ではセイラムの教えというのが主流だったが商業色が濃く、
あまり信仰深い人間はいなかったように思う。
前菜から始まり、それぞれが料理を堪能し一息ついた頃、

「先ほどジェリアさんとショウ様にはお話ししたのですが、
彼女の身柄を解放する条件を皆様にもお伝えしておきます。」

クスィーヴが一行に向かって話し出した。
まだ情報がまとまっていなかったショウは彼の思惑に嵌っておこうと黙って聞く姿勢に入る。
「そ、それはどんな条件ですか?」
クレイスがジェリアをちらりと見てから領主に質問を投げかけ、
約束をしたヴァッツもその言葉を聞き逃さないように食事の手を止めている。

「はい。簡単な事です。我が王に直接会って、
ジェリアさんを含む『フォンディーナ』の人間を悪く思うのをやめさせてきてください。
そうすれば彼女の身の安全はもちろん、国同士の争いもなくなります。」

元服前の少年の多い一行にもわかりやすく簡潔に依頼を口にするクスィーヴ。
(なるほど。王の出自等を隠し、本丸を落とす事だけを提示してきたか。)
「わかった!明日行こう!」
ヴァッツが先ほどのショウとは違う返事を即決する。
「あれ?さっきそんな話してたっけ?」
途中で気を失ったジェリアは一部記憶が曖昧のようだ。
処刑の可能性などの都合の悪い部分は全部忘れているらしい。
「で、でも、なんでジョーロン王は『フォンディーナ』の事を悪く思っているんですか?」
突っ走るヴァッツを補佐していく形で質問するクレイス。
彼も多少この旅で成長しているらしい。
「そこも含めて王に謁見してきて下さい。国の人間ではもう止めるのが不可能なのです。」

「もし失敗したら?」

あまりに話の展開が速いので水を差す意味でもショウが口を挟むと、
「その時は仕方ありません。『ジョーロン』と『フォンディーナ』は戦争状態になり、
ジェリアさんは即処刑されるでしょう。」
本日何度目かわからない処刑宣告に
真っ青な顔色のジェリアがこちらに怯えた様子の視線を向けてきた。
「大丈夫!オレ達が絶対王様に言ってやめてもらうから!!」
根拠は全くないヴァッツが無邪気に微笑んで断言している。
まぁ彼の場合、根拠などなくとも文字通り『力ずく』で何とでもなるだろう。
しかしこれは危険な行為だ。国と国の関わる話に私達が入るとなると・・・・・
それは時雨もわかっているはずなのに一切口を出してこない。
時々気になって彼女に目をやるが食事を進めつつ、優しく見守っている。

(うーむ・・・・・この流れは止めれそうに無いですね。)

領主の依頼が断れないと判断したショウは、
「では先ほどの質疑応答で話に出ていたこちらからの条件を提示させていただきます。
もし失敗した場合、私達に危害を加えないのと出国以降も身の安全を保障してください。」
最低限の条件だけでもと提示しておく。
「別に構いませんが、失敗した場合だけでよろしいのですか?随分後ろ向きな提案だと思いますが?」
素朴な疑問を不思議そうな顔でこちらに投げかけるクスィーヴに、
「失敗したら・・・私達ってジェリアさんも含まれるよね?」
そんなつもりは全くながったが、提示した条件に彼女を含める事が可能だった為、
「もちろんです。そもそも私達がこれを受ける義理はありませんから。」
クレイスの提案に乗っておく事を選ぶ。
お陰でジェリアからも感謝の眼差しが向けられた。
これで多少は心象を取り戻せたか?と珍しく普段気にかけない部分に頭を使っていると、

「それは難しいですね。
そもそもジェリアさんは本来既に処刑されていてもおかしくないのを私の一存で中断しているのです。
ショウ様ならわかりますよね?」

(なんて面倒くさい言い回しだ・・・)
「つまりジェリアさんの命は私達次第、と仰るわけですね?」
ずっと黙っていた時雨が最終確認を兼ねて口を出す。
「少し語弊がありそうですが、意味合い的にはそういう事ですね。」
これらのやり取りでこの領主が相当な食わせ者だと何人が理解しただろうか?
「よ、よし!ヴァッツ君!絶対成功させてね?!」
「任せて!失敗なんてしないよ!ねぇクレイス?」
「う、うん!そうだね!!」
「それはよかった。期待していますね。」
話がまとまったと受け取ったクスィーヴは3人に満面の笑みを振りまいていた。





 食事が終わるとショウ達は客室に戻った。
今回は館の大きさもあり全員が個室を与えられている。自室に戻り早速情報の整理を始めようとすると、

こんこん。

扉が叩かれた。
「ショウ?ちょっといい?」
煙に巻いている少年が自分の部屋を訪ねてきたのか。
カズキにも釘を刺されたので少しだけ態度を改めたのだが、
仲が良くなったと勘違いされたか?もう少し威嚇しておくべきだったか?
「どうぞ。」
とりあえず何か用事があるようなのでさっさと済ませて追い返そう。
クレイスの姿を確認すると後ろにはカズキとヴァッツもついてきている。

追い返す方針から速やかに問題を解決する方向へ頭の中で切り替えたショウは、
「お揃いでどうされました?」
「俺らはクレイスに言われてついて来た。何かお前に相談があるんだと。」
2人だとあしらわれるのを見越しての行動か。
ただの箱入り息子だと思っていたが、いつの間にか知恵を使うようになったものだ。
少し感心しつつ部屋の中にある机を4人が囲んで座ると、
「どんな相談ですか?」
「えっとね。ここの領主のクスィーヴ様、何か隠してない?」

・・・・・・・・

(まさか食わせ物と感じた人間の1人がクレイスだとは。)

一瞬困惑したショウは、それでも予定通り速やかに解決する方向で進めていく。
「俺もジェリアを人質にする所なんかは臭いなぁと感じる。」
「うん。それもそうなんだけど
『フォンディーナ』との戦争回避やフォンディーナ人への罰則を止めさせるとか、
僕達みたいな旅でふらっと寄った人間に頼むことじゃないよね?」
「・・・そうですね。」
話の内容が入ってこないまま適当に相槌をうつショウ。
この少年がそこまで考えて発言している驚きが勝っている為だ。
「さっきジェリアさんと3人でお話してたんでしょ?
何を話してたのか気になって。教えてもらえる・・・かな?」
・・・・・
どうする?どこまで話す?
内密にとは言われていないが、こういった場合あまり吹聴しない方が良い事が多い。
しかし、

「『フォンディーナ』との戦争を避けたいというのはクスィーヴ様の本音でしょう。
ここでジェリアさんを処刑してしまうと衝突は避けられなくなりますからね。
なので当事者達とは全く無縁の私達に仲裁を頼みたい、といった所です。」

ジェリアが気を失っている間2人でやり取りした内容を分かりやすくまとめて説明する。
どうせ彼らが部屋に来なければ1人で整理していたのだ。
ここで仲間と情報を共有しながら考えを進めた方が時間が無駄にならなくて済む。
効率を重視したショウは全てを話すと、こくこくと頷くクレイスに見守る2人。
「ただ、『ジョーロン』は『フォンディーナ』が『ユリアン教』に支配されている前提で方策を打ち立てています。
この国の王はその証拠を掴んでいるようですし。ですから、
侵攻を仕掛けてもらって邪教を滅ぼしてもらったほうが世の為にはなるかと個人的には思っています。」
「ちょっと待て!『フォンディーナ』にそんな怪しい所あったか?」
自身の願望を存分に乗せた発言に思わずカズキが口を挟んできた。
彼はウォランサ王と命のやり取りをしている為、ここにいる誰よりも思い入れが強いのだろう。
「・・・多少匂わせる者はいましたよ。」
「・・・・・」
そう言うとカズキは険しい顔のまま黙り込んでしまった。

「でも、多少匂わせるってことは確実じゃないんだよね?それって早とちりとか勘違いの可能性もない?」
鋭い指摘だがそれを言ってきたのがクレイスという事実に若干腹が立つも、
「そうです。あくまで仮定や推測の域です。
本当に確かめるのならもう一度『フォンディーナ』に戻って洗いざらい調べるしかありません。」
素直に感心した部分でもあるのでそこはしっかりと答えておく。
「えっと。結局オレ達はどうすればいいの?」
静かに見守っていたヴァッツが困惑した顔で小首を傾げて尋ねてきた。
この国やクスィーヴの思惑があれど、結局一行がやる事は1つなのだ。
クレイスと視線を交わした後、
「2人がジェリアさんを助けると約束していますからね。
まずは言われた通りに王と謁見して、説得するしかないんじゃないでしょうか?」
それ以上は国の情勢に関わってしまう。
いや、この内容でも王には会うのだ。すでに手遅れなのかもしれないが、
「・・・それが駄目だった場合は?」
「その時は私達の全ての力を使ってこの国から逃げましょう。」
無理矢理ジェリアを取り返してすぐに旅立てばいいだろう。
ショウは『シャリーゼ』という国で政務に携わっていた為、
国と国同士の仲裁や介入がどれほど面倒くさいかを嫌という程見てきた。
わざわざこんな遠い国にまでやってきてそれに巻き込まれるなど想像しただけでも吐き気に襲われる。
「えー。つまんねぇな。戦おうぜ?」
口を開けばそればっかりなカズキに、
今回はそれを真っ向から否定出来る言質を取ってあるので、
「恐らく戦いにはなりませんよ。ヴァッツと『ヤミヲ』さんがいる限りはね?」
彼らの力は気分次第だと言っていたが、流石にジェリアを守ると断言していたのだ。
危機が迫ればしっかりと活躍してくれるだろう。

【私を出汁に使うとは、小賢しい真似をする。】
名前を呼ばれた為か、利用されるような扱いを受けた為か、
また何の前触れもなしにいきなり姿を現す『ヤミヲ』に、
「申し訳ございません。お気に障りましたか?」
ヴァッツにある程度気に入られていたら身の危険はないと踏んではいるが、
別人格だという話も知っている。
それこそ心象良くしておかないと後でどんな目に合うかわかったものではない。
【いいや、感心しただけだ。好きに扱ってくれてかまわん。】
「そうそう!よくわかんないけどヤミヲは怒ったりしないからね!」
それも以前言っていた内容だ。彼自身は常にやすらぎの状態で、
ヴァッツの感情に反応した時にのみ『ヤミヲ』もそれを共有する事が出来るらしい。
「・・・まぁヴァッツも滅多に怒らないでしょうし。」
これで明日からのやるべき目標が定まったのだが、
どうしても腑に落ちないショウは警戒の意味も含めてクレイスに手招きをした。
「な、何?どうしたの?」
こちらから彼を呼ぶのは初めての事だったので緊張な面持ちを浮かべているが、
彼の心情など一切お構いなしに耳元に口を近づけると、
「クスィーヴ様はまだ何かを隠しています。
もしかすると彼自身がユリアン教信者の疑いがあるかも?」
「えっ?!」
耳打ちすると短くびっくりするクレイス。
その反応があまりにも面白かったので思わず心の底から笑いが込み上げるが、
「あくまで私の推論です。一応心に留めておいてください。」
そう言っておけば彼をある程度警戒し続けてくれるだろう。
この時は軽い気持ちでそういう行動を取ったのだが、これは後ほど禍を呼ぶことになる。





 翌朝、少年4人が馬車に乗り込み王都へ向かっていた。
もちろん従者の時雨が自身を置いて行く事に大反対をしていたが、
ショウがクレイスとヴァッツに入れ知恵をして
ジェリアを守って欲しいという名目を立てて何とか出発できたのだ。
「しっかしお前、本当に悪知恵が働くなぁ・・・」
カズキが領主の館が見えなくなった頃、感心を込めてつぶやく。
「カズキは本当に失礼ですね。事実を並べただけです。そこに善悪はありません。」
ジョーロン王がどのような人物かわからない為、
ヴァッツは絶対に必要な人物だ。そして抑止力としてカズキ。
『ユリアン教』関係を知りたい自分はもちろん、今回に関してはクレイスの視点と意見もほしかった。
もし何かあったとしてもクスィーヴがすぐに動くことはないだろうが、
念の為、時雨とガゼルが護衛に回る。
個人的にはこれ以上ない完璧な選出だと思っていた。

「でもさ、僕らみたいな子供っぽい人間だけで王様を説得出来るかな?」

「それは・・・・・」
子供の頃から大人と対等に国政に関わっていたショウは言われて初めて気が付く。
(そういう見方もあるのか・・・)
ここのところクレイスの発言は目を見張るものがある。
偶然かもしれないが新たに発見、考えさせられる事が多い。
(これが永遠に続けば我が国に招聘するのも悪くはない・・・のか?)
アン女王はこれを見越して私に命令を出していたのだろうか?
「いざとなったら力ずくだろ。」
「それはダメ!」
ヴァッツがカズキに釘を刺す。今までカズキの剣にそこまで強く反対したことはなかった。
恐らくジェリアを無事に開放するという使命感からだろう。
見たことのないやり取りと、推測を交えて意見交換をしながら旅路を進む一行。

『ジョーロン』は5つの領土からなる国だ。
4つの領土の中央、そこに王都がある。
御者席に1人、案内と護衛の4騎に囲まれて進む事5日、街道脇の木々がなくなり広大な平野が見えてきた。
その中央には西に小高い山が隣接するように城壁と城が見えている。
「あれがジョーロン城です。」
御者席に座っていた衛兵が顔を覗かせる4人に紹介すると、
「おおーーーー!!なんか今まで見た中で一番大きい?」
「だね。平野も広いし相当大きな国みたいだね。」
「城下街もあるんだろ?ちょっと刀がないか後で見てみるか。」
事前知識のない一行は思い思いの感想を口に出している。
この瞬間こそが旅の醍醐味であり、仲間も大いに盛り上がりを見せるのだが、
「『ジョーロン』はこの大陸で一番大きな国です。
ナルバリ様と『羅刹』様が懇意の仲というのも影響力として大きいですね。」

「「「「えっ!?」」」」

忘れていた訳ではないが本来の目的であった『羅刹』の情報が不意に転がり込んできた。
「ナルバリって誰?!」
ヴァッツが御者席に顔から飛び込んでいく。
「うおっ!?え、えっと、ナルバリ様は王都から北の領土を治めておられる方です。」
驚きつつも質問に答えてくれる衛兵。クスィーヴにしっかりと教育されているらしい。
「謁見が終わったら行くか。」
カズキもその気だ。だが、
「待って下さい。まずは謁見後、クスィーヴ様の元へ戻らないと。」
「そうだよ!ジェリアさんを守るって約束してるし!!」
「そうだね!!じゃあまずは早く謁見を終わらせよう!!」
ヴァッツが鼻息を荒くしている。
(うーむ。あまり事を焦りたくないのだが・・・・・)
ショウはクレイスに手招きすると、
「ヴァッツが暴走しないように見守って上げて下さい。
急いては事を仕損じる、という言葉通りにならないよう。」
「うん。そうだね・・・」
耳打ちして彼にも協力を仰ぐ。
昨夜の一件から知らず知らずのうちにクレイスに頼るようになったのだが
この時はまだ本人にはその自覚は無かった。

その日、一行は城下に入ると疲れと身なりを整えるために1泊すると、
翌朝、登城していよいよ王との謁見が始まった。





 王城は外観よりも広く大きく感じた。
実際衛兵の数が相当多い。作りも無骨な感じで装飾より機能を重視しているのだろう。
クスィーヴの衛兵と少年4人は案内されるまま応接の間に通されると、
「『シャリーゼ』に着いた時を思い出すね。」
きょろきょろ周囲を見回しながらヴァッツが隣のクレイスに話しかけている。
「そうだね。もうあれから2月近く経つのか・・・」
クレイスは少し思いにふけっている様だ。ただ緊張などは感じない。
(・・・・・間違いなく成長している。)
いつからだ?
剣の修行を実直にこなしているのは知っていた。
だが精神的な面でもかなり鍛えられているのが見て取れる。
元が元なだけに少しの成長でもかなり見違えるように感じるにしても、ここまでの人間だったか?
『シャリーゼ』で応接の間にいた時はもっとおどおどしていたはずなのに。
カズキに言われたからではないが、最近気が付けば彼ばかり見ている。
ショウ本人はそれに気は付いていないが・・・

不意に奥の扉が開いた。
衛兵を連れて立派な装飾の付いた衣装を身に纏い、頭上に王冠を載せた肌の浅黒い男が入室してきた。
流石に要領がわかってきたのかヴァッツを含めた4人が席を立ち、頭を下げる。
「構わない、楽にしてくれたまえ。」
それを手で御し、王が座った後に4人も座ると、
「上手くできた?」
隣のクレイスに評価を仰ぐヴァッツ。それに大きく数度頷いて答えるクレイス。
そんな様子を涼しい眼で見ていた王が、
「私がジョーロン王ビャクトル=フォン=ジョーロンだ。
クスィーヴからの使いで私に意見があると連絡があった。早速話を聞こう。」
ウォランサよりも年も上で体も大きいが、物静かそうな男だ。
口調も淡々としていて声に力はあるが非常に落ち着く声質をしている。
「はい!ビャクトルは何で『フォンディーナ』を嫌ってるの?」
ヴァッツが開口一番、敬称も無く手を上げて核心を突く質問を投げかける。
「あの国が『ユリアン教』に支配されているからだ。」
「その証拠は?」
ショウがそのまま続ける。
「私自身が証拠であり証言者だ。」
聞いていたのと同じ回答だったが、それ以上にビャクトルの対応が渋い。
無表情な上に淡々と返してくる。
「そのお話を聞かせていただけませんか?」
更に続けて質問すると王は目に見えて大きなため息をして、

「何故君達みたいな子供を遣いに寄越したのか・・・・・」

まさか本当にクレイスの心配通りの事が起こるとは。
その発言に各々が様々な反応を見せる。特に、
「見かけで判断してると痛い目見るぜ?」
隣にすわっていたカズキが殺気を放つので周囲の衛兵も慌てて反応する。
ここで場を壊されたら『羅刹』の情報すらつかめなってしまうので、
「カズキ、抑えて下さい。王の言う事はもっともです。」
「そうだよ!怒っちゃダメ!」
ヴァッツにも注意されて呆れ顔で殺気を引っ込める。
しかしここに来て自分では思っていなかった出来事が次々に起こっている。
これは話を継続する事すら難しくなってきたな・・・
ふと前に座るクレイスと目が合った。
その目には力があり、こちらに向かって強く頷く。何かをしようというのか?
ならば今何も手札がないショウは彼に任せると頷き返す。
「ビャクトル様、カズキの発言は少し度が過ぎましたが真意はあります。」
クレイスが胸を張り強い意志を乗せた視線を王に向けている。
とても堂々としたその姿を見て、改めてこの少年は元王族だと思い出した。
「というと?」
先程ため息をついていた時よりは興味を取り戻したのかしっかりと向き合って質問するビャクトル。

「はい。ヴァッツとカズキは『羅刹』『剣鬼』の親族、
ショウはシャリーゼ女王の側近で、僕も小さな国ですが王の子です。
ただの子供の使いではないと認識を改めて頂けたらと存じます。」

(おお~。)
声には出さずカズキも同じく感心した表情をしている。
国は滅んでいるがそれを出さず王族の部分だけを使ってきたか。
言われてみればこの4人、それなりの身分か名声を持っているのだ。
クスィーヴがそこまで考えて送り出したとは思えないが、
「ふむ・・・・・それならまぁ子供だけの遣いでも理解は出来るか・・・」
一応4人への態度を改めたようだが、
「しかし、それでも我が国への介入を認める訳にはいかないな。
そもそも何故君たちが『ジョーロン』と『フォンディーナ』に介入する事になったんだ?」
素朴だが、こちらが一番答えにくい質問を返してきた。
これを聞いた瞬間、自分とクレイスが同じ表情になる。
「だってジェリアの命がかかってるから!」
・・・・・
口止めしておけばよかったと、
2人が同時に視線を落としたのを隣で座っているカズキがとても楽しそうに見ていた。

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