魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

1065. 君達、監禁されてたんだよ?

 きちんと食べてくれる。アンナの変化に、イザヤもアベルも安堵していた。痩せすぎた頬を動かし、ゆっくりと食べる。特に急ぎの仕事もないため、彼らも付き合って時間をかけて食事を取った。

「人に作ってもらうのって、なんかいいわね」

 穏やかな口調でアンナが笑う。今までは料理も楽しかったが、疲れていると休みたい時もある。食べなければならない食事を、自分で作るのは気が滅入るわ。そう呟いたアンナに、アベルが肩をすくめた。

「作らせて悪かったけど、俺が作ると炭になんだよな。なんでだろう」

「お前は料理から目を離すからだ」

 イザヤがすぐに欠点を指摘した。料理に集中力を発揮しないアベルは、調理中に別のものに気を取られることが多かった。鍋を火にかけたまま、外で鍛錬を始めた夜は、中の汁が蒸発するまで稽古に熱中していたのだ。

「確かに、お鍋の焦げを落とすのが大変だったわ」

 思い出して笑うアンナは、家にある鍋の焦げを落とすのに魔法陣を買ったことを口にした。

「本当に便利、買ってよかったわね」

「ああ、あの食器洗いに使ってる魔法陣か」

 イザヤが納得した様子で頷く。ある日突然購入してきた魔法陣は、鍋の焦げどころか食器洗いに日常使いされていた。

「そう。怪我の功名っていうのかしら。すごく使いやすいし、汎用性があるのよ」

 食器をつけたタライに魔法陣を適用すれば、中の食器はすべて綺麗になる。浄化の魔法陣を弄ったものだと聞いていた。そのため購入時に種族を確認される。吸血鬼など浄化に弱い種族もいるためだろう。

「そういや、洗濯物を乾かすのに使う魔法陣、なんで魔獣厳禁なんだ?」

「さあ? 今度聞いてみるわね」

 毛皮に悪影響でもあるのかもしれない。この世界に来てから忙しかった日本人は、ようやく異世界を堪能していた。魔法陣の話、異世界の住人に驚いたこと、魔王と出会った頃の思い出――それぞれに好きなだけ語った。

 午前中に片付く程度の仕事をして、午後はお茶を飲みながら話をする。贅沢な時間を2週間ほど過ごした頃、突然ルキフェルが飛び込んできた。

「おめでとう! 元の生活に戻れるよ」

「「え?」」

 驚きすぎて、アンナとイザヤは反応できない。間抜けな受け答えをした後、顔を見合わせた。

「帰っていいんだ。もう実験は終わり。アンナも顔色良くなったじゃん」

 水色の髪の青年は一方的に話し始めた。

「獣人の方が顕著に結果が出たんだけどね。アベルも含めて、全員改善してる。だから、過去の食べ物の生命力は安全という結論に至ったわけ。しばらく食べ物は配給制になるね」

 関係なく生存できる種族もいるが、ほとんどの種族は配給制で食材をもらうことになった。その説明を終えると、ルキフェルは笑顔で尋ねる。

「ご褒美、何が欲しい?」

「褒美、ですか?」

「私達、治療していただいたんですよね」

 日本人の感覚では、医師が治療してその対価を払う。だが今回は治療された自分達に褒美が出ると言われた。不思議そうにする2人に、ルキフェルは頬を緩める。

「治療っていうか。君達は実験のために監禁されたんだよ? その不自由を強いられた対価を払わなきゃいけないし、そもそも治療は無料だし、ね」

 魔族にとって治療は対価を支払うものではない。生きていくために治療を受ける権利は保障され、ベルゼビュートや精霊、妖精族に至るまで対価をもらっていないのだ。言われて考えてみたが、確かにお礼を言われている姿は見たが、金や物を受け取る姿に覚えはなかった。

「人によっては、対価に飴やお菓子を渡すみたいだよ」

 その程度の仕事だし、魔族にとって強いものが弱いものを助けるのは美徳とされる。治癒能力を持つものが、治癒を苦手とする種族を治すのは、当たり前だった。治癒が苦手な者達も、なんらかの形で他種族に貢献するのだから。

「私達も貢献できてるかしら」

「うーん。少なくとも僕は書類運んでもらって助かってるよ。アンナ嬢の書類処理も早くて正確だって、あのアスタロトが褒めてた」

 驚いた顔をする2人に、ルキフェルが淡々と予定を伝える。

「明日は休み、明後日から出勤ね。勤務形態は以前と同じで、食料配給は自宅へ手配しておくよ。ちゃんと食べてね、残したら……また監禁だから」

 悪戯好きな子供の顔で笑って、ルキフェルは部屋をでた。隣のアベルは彼らが伝えるだろうし、獣人も話が終わっている。あとは……魔獣だけかな?

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