魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

1053. 貯蓄を吐き出すための散財

 成長した分だけ衣服を新調しなくてはならない。魔王が貯め込んだ私財を吐き出させるチャンスを、アスタロトが見逃すはずはなかった。生地から作るアラクネ達はもちろん、靴を担当するケットシーや宝飾品のスプリガンも呼ばれる。広いはずの部屋が狭く感じるほどだった。

「こんなに作るの?」

「ええ、アスタロト大公閣下のご指示ですから」

 ケットシーに足のサイズや形を計測されるリリスは、もう飽きてきていた。タイミングを見計らって、シトリーが甘いチョコを口元に差し出す。食べさせてもらうことに慣れたリリスは、ぱくっと素直に口に含んだ。

「これ、美味しい」

「以前に植えたカカオから作ったチョコです。ナッツを入れてみました」

 シトリーのお手製らしい。それを絶賛しながら、リリスは3つほど食べた。量が用意されていたため、集まった職人にも振る舞われる。集まった大公女達は、採寸に飽きるリリスを想定してさまざまな準備をしていた。

 まず第一段階はシトリーがクリアした。残る策は3つである。靴の採寸が終わったのは幸いだった。完全オーダーメイドのため、これからデザインや色も選ばなくてはならない。そちらに関してはあまり心配はなかった。

 リリスは自分で何かを選ぶ行為が好きだ。誰かへの土産を選ぶことも楽しんでいるので、採寸という退屈極まりない時間だけ乗り切れば、あとはどうとでもなった。

「リリス様、立ってくださいませ」

「こう?」

「大変結構です。さすがは姫様ですね」

 今度は服の採寸だ。こちらの方が細かいので、まずは褒めるところから入ったアラクネである。巨大蜘蛛である彼女達は手の本数が多かった。そのため作業は意外と速く進む。

「こちらと……ここで終わりですわ。お疲れ様でした」

 アラクネが脚をがちゃがちゃ言わせながら下がる。宝飾品のサイズに関しては、似た体格のルーシアが先に長さや石の大きさ合わせを済ませた。

「採寸は全部終わりです。リリス様、先に服から選びましょうか」

 靴や宝飾品は、服に合わせるのが基本だ。手早く広げる生地を眺め、リリスはこてりと首を傾げた。いままではある程度までルシファーが決め、最後にリリスが選んだ。生地やデザインの候補が多すぎて、イメージがわからない。

「どうやって選ぶの?」

「リリス様の好きなデザインと色で構いませんわ。それを形にするのが職人です。多少奇抜でも、リリス様なら着こなせますから心配いりません」

 ルーシアが当たり障りのない回答をする。デザイン画はラフの段階ではなく、かなり詳細に描き込まれていた。これならばイメージが作りやすく、ここまで描く時点で人前で着用できないデザインは排除されている。手元にあるデザインなら、どれを選んでも間違いなかった。

「このデザインは斬新ね。これがいいわ」

 まずデザイン画を眺めて、複数選び出す。それからアラクネ達の複数の脚を使って広げる布を見つめ、こちらはこれと合わせ始めた。機嫌よく鼻歌を始めたお姫様は、音階がズレている自覚がない。いくつか服を選ぶと、ルーサルカが後ろで付属品の色合わせを始めた。

 斬新すぎる色合わせを中和しながら、小物で誤魔化す技術に優れた側近は手慣れた様子で修正していく。ケットシーやスプリガンが並べた新作を確認し、いくつか選んだ。

 この辺りでリリスの集中力が切れ始める。窓の外を見つめたり、手元の記事見本をぱらぱらと興味なさげに広げた。目配せで合図を受けたレライエが、お茶の準備を始める。

「リリス様、青いお茶で休憩しませんか。少し疲れました」

「そうね。みんなも疲れたでしょうし、お茶にしましょうか」

 リリスが疲れたからお茶にすると言わないあたりが、レライエの気遣いだ。彼女がお茶のお湯を沸かし、アムドゥスキアスがよたよたとお茶っ葉を運ぶ。ポットを温めた婚約者の竜を撫でて、お湯を注いだ。

 色を変えるためのレモンを添えて、青いお茶が室内の空気を変えていく。

「失礼します。リリス姫、もう少しでルシファー様の仕事が終わります。姫のお買い物はお済みですか?」

「こちらになります」

 金額を記した伝票を受け取り、ざっと頭の中で計算したアスタロトはにっこり笑った。使わずに貯めるルシファーのせいで財政が滞っていますから、ここは大量に使ってもらいましょう。義娘にもっと使うよう合図し、アスタロトは下がった。 

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