魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

1031. 1匹いたらまだいるぞ

 パン! 軽い音と同時に、危険を感じたイポスは横に転移した。彼女が寄りかかっていた木に、穴が開く。魔力のない攻撃に、魔の森がざわりと揺れた。


「っ、何……今のは」


 大木の幹が大きく抉れている。見た感じでは爆発したようだ。火薬の臭いが鼻についた。眉を寄せて敵を確認すると、倒れたのは人族に見える。


「まだ生き残って?」


 はっとして湖の近くにいる魔王と魔王妃に目をやれば、ルシファーが物理結界を複数展開していた。表面で何かを弾く衝撃音が聞こえる。おそらく同じ火薬による爆発の攻撃だろう。


「ここは魔王軍の管轄地域だから、ベール大公閣下かしら」


 今の状態で転移しても、魔王ルシファーの結界に弾かれる。近づいたイポスを守ろうとして、結界を緩めたりすれば逆に危険だった。ここは遠くからの援護に徹するべきだ。


 イポスの判断は早い。呟いた言葉に魔力を込め、ベールへの呼びかけに変えた。魔王の護衛に出ると聞いていたからか、ベールは通信ではなく自ら転移する。ふわりと風が後毛を揺らしたが、ほとんど衝撃なく目の前に美丈夫が現れた。


 紺色のローブを捌き、銀の髪を揺らす青年は状況を一瞥して額を押さえた。


「……ご苦労でした、イポス。討ち漏らしがあったようです」


 むっとした顔で溜め息をつく。人族の国があった場所に近いが、まさか生き残りがいたとは……イポスも苦笑いになった。


「この辺りは魔獣に与える予定でしたが、その前に調整が必要になりそうです」


 ベールは手元に複数の召喚魔法陣を描き、周囲に放り投げた。適度に間をあけて大地に焼きついた魔法陣から、さまざまな種族が現れる。巨人やドラゴン、獣人など幅広い。だが共通点はあった。魔王軍の小隊を率いる部隊長ばかりだ。


「人族が生き残っていました。狩り尽くしなさい」


「「はっ」」


 ドラゴンが最初に動いた。尾で地面を打ち、羽を広げて息を吸い込む。間髪入れずにブレスを吐いた。


「あ……」


 そちらは湖の方角で、まず間違いなく無事だが魔王と魔王妃がいたのに。イポスの脳裏をそんな感想が過った。ブレスが焼き尽くした森の木が、炭となって大地を黒く染める。その中央部分で腕を組んで不満げなルシファーが仁王立ちだった。


「ベール、気を使え。オレ達が焦げたらどうする」


 文句を言った後、リリスと一緒に転移する。歩いても大差ない距離だが、リリスの白とピンクの靴が汚れるからだろう。しっかりお姫様抱っこで移動したリリスは、そっと地面に降り立った。


 驚いたせいか、久しぶりに背に白い羽と天使の輪が浮かんでいる。光る輪に感動した巨人が、ぺたりと平伏して崇め始めた。


「こら、仕事をしなさい」


 ベールに叱られて、巨人も人族の残党狩りに向かう。先に駆けていった獣人はすでに背中も見えない。森の異変に気づいたエルフが加勢し、弓矢を構えて掃討に加わった。ドラゴンは空から敵を探すようで、時折ブレスを吐きながら敵と一緒に森も焼いている。


「あれは問題ないのか?」


「1匹逃すと増える害獣ですから、処理は最後まで行ったあとで事後処理をするのが正しいでしょう」


 最もらしいことを口にする魔王軍の総指揮官へ、軍の最高司令官である魔王は首をかしげた。


「オレが同じことをしたら叱るくせに」


「当たり前です。あなたの行動の被害は大きすぎるのですよ」


 揉める魔王と大公の騒動に、応援に駆けつけた魔狼がおろおろと周りで困惑気味だ。尻尾を足の間に巻き込んでいるのは、とばっちりが怖いのだろう。


「もうっ! 狼さんに迷惑でしょう。2人ともいい加減にして」


「「……はい」」


 リリスに正論を吐かれたルシファーとベールは肩を落とし、イポスは己が討ち取った人族の死体を確認して戻ってきた。


「武器は銃ですが……この死体は変です」


 イポスの指摘に、ベールは慌てて死体を検分する。全く魔力の気配がない死体に眉を寄せ、研究職のルキフェルの判断を仰ぐことにした。

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