魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

1029. 気になりすぎて仕事中断

 ちらちらと窓の外を気にする。何も起きていないはずだ。そのために監視役も派遣したし、妻の協力を得てルーサルカに魔法陣付きの服も着せた。なのに不安が募るはどうしてか。


 戦の時もそうだが、魔族はカンを大事にする。それらは意味不明の能力ではなく、普段と違う何かを感じ取って得られる情報という認識だった。


 天気も悪くなく、遭難する要素もない。何かあっても数日は持ちこたえられるよう、大量の食糧をアデーレが持たせた。アベルの収納にもテントなどの野営用品を詰め込んである。緊急時用の転移魔法陣も持たせた。それでも気になるのだから、もはやカンという言葉で片付けられない。


「気になるか?」


「ええ」


「アシュタが気にするなら、何かあるのかしら」


 全員で窓の外を見つめる。廊下の扉が開いてベリアルが書類を運んできた。後ろから入った文官が、処理済みの箱を回収する。ベリアルは差し戻し箱の書類を手に一礼して扉を閉めた。


「お天気いいわね」


「本当だな」


 話がなぜか和やかな方向へ流れている。ピクニック日和の青空を眺め、ルシファーがアスタロトの様子を窺う。心配そうな彼に優し気な声で話しかけた。


「そんなに心配なら見てきたらどうだ? 幸いにして今日の処理分は終わりそうだし」


「終わったら出かけますよ。そのために足止め用の書類を混ぜたでしょう?」


 とっくに気づいています。そう告げる側近に肩を竦め、ルシファーは賛否を避けた。うっかり同意したら叱られるし、否定すると嘘をつくことになる。この辺はアスタロトも承知しているため、黙って見逃してもらえた。


「書類はあと少しだからオレが片付けておくぞ」


「……そうですね。リリス姫がピクニックの準備をされていますが、誘惑に流されず我慢できますか?」


 そわそわとお菓子の箱を引き寄せるリリスを横目で見ながら、アスタロトが上司に念押しする。これは私がいなくなったら、あなた方も理由をつけて森へ出るつもりでしょう? そんな嫌味を込めた質問に、ルシファーは口ごもった。


「いや、その……今日中には仕上げるぞ。今日中だ」


 つまり、これからではなく……ピクニックから帰ってから片付けるという意味だ。机の上に残された未処理の量を確認する。大した量ではない。リリスが大人しく膝の上にいてくれたこと、押印を手伝った事情もあって早かった。


 アスタロトが読み上げて、ルシファーが指摘や修正を加えてから署名する。隣でリリスが押印する。この流れ作業がスムーズだったのは、もちろん2人の協力があったから。あまり厳しすぎて反発されても困るか。考えていたアスタロトは、手にした書類の束を机の箱に戻した。


「今日はここまでにしましょう。ピクニックに出たいのでしたら、護衛を伴ってくださいね。明日は午前中から続きをします」


「わかった。そうしよう」


 珍しくすんなりと許可が下りるとあって、ルシファーは大きく頷いた。アスタロトが一礼して出ていくのを見送り、リリスと顔を見合わせた。


「珍しい」


「本当ね、よほどルカが心配なのよ」


「リリスが外にいて、オレがアスタロトの立場なら同じように心配だ」


「アベルって信用されてないのかしら」


 ルーサルカ自身が選んだ恋人だ。仮の婚約者候補から自力で這い上がった、魔王チャレンジの褒賞者である。その実力でも足りないと考えるなら、アスタロトの求める水準は高すぎるんじゃない? 指摘するリリスに、ルシファーは首を横に振った。


「信用はしてる。それでも自分で守りたいんだろ」


 信用してなかったら、一緒の外出なんて許さない。いくら護衛をつけたとはいえ、可愛い娘を男と2人で外出させた時点で、かなりの信用はあるはず。ましてや手作りの魔法陣を刻んだ魔石まで渡したらしいぞ。裏事情を聞いたリリスはほっとした様子で微笑んだ。


「よかった。アシュタとアベルの間でルカが悩むのは可哀想だもの」

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