魔王様、溺愛しすぎです!
1021. メインは幻の……!
「ありがとう」
「いいえ。気に入った? それはお義母様と一緒に私が作ったドレッシングよ」
「すごく美味しい」
仲の良い初々しいカップルの姿に、向かいの大公女達の鋭い視線が和らぐ。妄想で悪者にされていたが、現実の彼はどちらかといえば善良だ。単に間が悪く運が悪いだけの若者だった。
当人を目の前にすると、余計に善良さが際立つ。多少不器用で鈍臭いとしても、ルーサルカがそれでいいならいいじゃない。そんな変わり身の早い大公女達は、穏やかに見守った。だがアスタロトは一挙手一投足を監視する構えだ。
万が一にもルーサルカを泣かせれば、即座に首を切り落として城門に晒してくれる。そんな意気込みに気づいたルシファーが溜め息を吐く。拾った当初は興味なかったくせに。
「ルカ、サラダに花びらがあるわ」
鮮やかな紫やオレンジの花びらが添えられているサラダに、彼女はにっこり笑って説明した。
「これは食べられる種類です。すこし苦みがありますが、癖になります」
先に口に入れたルシファーが頷き、リリスにも食べさせる。通常で考えると毒見役がいそうだが、この場で一番毒に強いのはルシファーだった。解毒も自動で行われる仕様のため、自然とリリスの毒見を魔王が買って出る事態に落ち着いている。止めても譲らないルシファーの説得を諦めたともいう。
「これは見た目も映えるし、苦みがドレッシングと合う。人気が出そうだ」
エルフとの共同開発だという花びらは好評で、リリスお墨付きの肩書をつけて販売することが決まった。近日、魔王城で販売するお土産コーナーに並ぶだろう。一番人気のルキフェルの魔法陣とどちらが売れるか、大公女達も予想話に花を咲かせた。
魚料理に何かあったのか、省いて肉料理へなだれ込む。巨大な肉の塊が運び込まれ、目の前で切り分けられた。ローストビーフが近いだろうか。柔らかい肉は分厚く切られる。この点はローストビーフと大きく違う点だった。
「すごい厚い肉ですね」
「これ、幻の猪豚ではありませんか」
美しいピンク色の肉の匂いにうっとりしたレライエは、肉が大好きだ。さすがに膝の上に座らず、今日は大人しく自分で席に着く翡翠竜が感嘆の声をあげた。
「あら、流石にアムドゥスキアスは知ってたかしら」
「ええ、一度食べたことがあります」
目をキラキラさせる翡翠竜の言葉に、大公女達の期待も高まる。幻の猪豚……その表現に含まれる希少価値に、ごくりと喉を鳴らした。溢れる肉汁はとろりとした赤い色で、生肉に近いことを示している。
「おお! 久しぶりだ。リリス、この肉は美味しいぞ。滅多に獲れないんだが、北の大陸でたまに見つかる」
ルシファーは何度か食べたことがあるため、若いリリスに説明を始めた。通常、こういった猛獣や魔獣の類は生息数が多い。しかし猪豚だけは交配種で、時折発生するハーフなのだ。
「アデーレが交配に成功しました」
妻の手柄を笑顔で報告するアスタロトに、ルシファーが大きく頷いて、肉を切るアデーレを褒め称える。それほど大きな功績なのだ。
珍しい上に数が少なく、美味しい肉……見つかればすぐに捕獲されて食されてきたため、養殖や繁殖が難しかった。その上、猪豚の親である猪と豚を同じ柵の中で飼っても交配しないため、さらに希少価値が上がるという悪循環だ。人工的な交配や飼育が可能になるなら、高価な肉もいずれ庶民の食卓に並ぶだろう。
甘酸っぱいソースをかけた肉を、それぞれに期待を込めて口に運ぶ。ルシファーも切り分けた一口目は自ら食べたものの、すぐにリリスに切り分けて食べさせた。分厚く切った理由がよくわかる。
とにかく柔らかく、口の中で蕩けて消える。噛んだ記憶がない、不思議な食感だった。ゼリーやプリンが近いかもしれない。飲み物のように飲めそうだった。獣臭さが残るものの、ジビエのようで嫌な後味はない。
「すっごい、これ……美味しいです!!」
手放しで褒めた飾りっ気のないアベルの賞賛に、アデーレは穏やかに微笑んで頷いた。
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