魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

1017. 戦後処理のついでが多すぎた

 人族の滅亡が告知され、同時に勇敢に戦って命を落としたモレクの訃報が伝えられた。喪に服す意味もあり、魔王の視察は一時中断となる。今回の騒動でリリスやレラジェの存在が広く知られ、お披露目の意味が薄れたことも影響した。


「……それで、どうしてオレが書類漬けなんだ?」


「伝言もなく勝手に出かけたからですよ」


 アスタロトが淡々と理由を突きつけ、目の前に大量に積まれた書類を差し出す。新たに広がった領地は、魔王直轄領とされた。今後何らかの褒美として与えたり、人口が増えた種族に割り当てる予定だ。以前に異世界から捨てられた有鱗人ザギエルに一部が割り当てられることは決定した。


 その他の地域は、もっとも近くに領地を有する魔獣やエルフが一時的に管理することになる。委託料の捻出やら領地の計測に関する書類が山積みだった。


「これを最優先でお願いします」


 目の前に差し出されたのは、モレクの功績に報いる褒賞の申請書だった。大公連名による書類にさっと目を通す。降格された公爵位の復活を追記し、ルシファーが空欄を署名で埋めた。


「押印するわ」


 隣に座ったリリスが朱肉の上に置いた印章を乗せて、ぐっと体重をかける。椅子の上に立ち上がって押した印鑑はくっきりと鮮明で、満足そうにリリスが笑った。


「上手に押せたな」


 黒髪を撫でて、タカミヤ公爵家の名誉回復をアスタロトに命じる。過去の出来事はすでに魔王史に記載されたが、その名誉回復もしっかり記載するよう指示した形だ。命令として発することで、公式の記録となる。


「ルキフェルの様子はどうだ?」


「まだ落ち込んでいますが、昨夜も研究所の一角に明かりがついていました」


 レラジェの告白で自分が魔王や森を蘇らせる役目を放棄していたと知り、ひどく落ち込んでしまった。魔王軍の統括の合間にベールも頻繁に声をかけるものの、まだ復活していない。研究所にこもり真剣に何か調べている様子だが。


「どうしたもんか」


 新しく増えた魔の森の調査はベルゼビュートに振った。たまった事務仕事はアスタロトと一緒に頑張るとして……ベールも身動きできない状態でルキフェルが動かないとなると。


「手が足りませんね」


「ルカ達に頼めばいいじゃない」


 何を悩んでるの? そう言わんばかりの口調でリリスが別の書類に押印する。ルシファーの署名が終わった書類に体重をかけて印章を押し付け、上手に押せたと手をたたいて喜んだ。斜めになったり掠れたりするのが気に入らないようだ。


「……実績を積ませるのに、よい環境かも知れません」


 盲点だったというより、すっかり忘れていた。そんな顔でアスタロトが唸る。その間も彼の手は止まらず、黙々と書類を分類していた。読んで分類しながら考え込む姿に、アスタロトは化け物に違いないと失礼な感想を抱く魔王が顔を引きつらせる。


「任せるのもいいが、書類が増えたりしないだろうな」


 これ以上はキャパシティを超えるぞ。ぼやくルシファーがちらりと斜め後ろを見る。今まではなかった棚が増やされ、びっしりと書類が詰まっていた。これらすべてが未処理の決裁待ち書類だ。視察で留守にしてもある程度は処理してきたが、この騒動の報告書が各部署から上がるにつれて、予算配分の見直しや相続に関して滞っていた書類が一緒に届けられた。


 基本的に寿命が長い種族ばかりなので、書類が数年遅れて届くことも少なくない。特に相続系の書類は緊急性に乏しく、後回しにされる暗黙の習慣があった。他の書類を出すついでに混ぜられたこれらの書類は、数か月かけて処理される予定で新しい棚に積まれている。


「仕方ありません。手伝いますので頑張りましょう」


 珍しく励ますアスタロトの前向きな言葉に、ルシファーは項垂れた。リリスと2人きりのピクニックの約束が果たされるのは、まだまだ先になりそうだ。

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