魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

1013. 後片付けと不吉な赤

 困ったものだ。エドモンドが溜め息をつくが、任された以上は役目は果たす。責任感ある真面目な竜は、翼を広げて周囲に指示を出した。


「魔獣の被害はどのくらいだ? エルフと精霊は森へ逃げた人族がいないか確認しろ。それから魔王軍は掃討の結果を報告だ」


 てきぱきと指示を終えた彼の元に、各自の報告が流れ込む。魔獣やエルフのように群れを作る種族は、報告に関するルールがきっちりしていた。まとめてから代表者が報告に現れる。そのため管理しやすいのだが……。


 精霊は周囲を飛びながら各自勝手に話して消える。数十人が一度に話をされても、エドモンドは聞き取れなかった。仕方なく、精霊からの聞き取り役に数人を選んで配置する。並んで報告させても内容が重複し、混乱を来していた。


 この辺はトップに立つ大公達の性格が反映されたような気がする。自由人なベルゼビュートの配下はわりと身勝手だが、ベールやアスタロトの管轄に入る種族はしっかりしていた。


「それにしても、どちらへ行かれたのか」


 突然「ちょっと失礼」と姿を消した銀髪の上司を思い浮かべ、大きく肩を落とした。手元のメモは報告書を作るための資料だ。あとで纏めて順序立てて記す必要があるだろう。その作業も面倒だが、行方不明の上司がいつ帰ってくるのか分からないのも困る。


 魔王軍の指揮官など、好んで就きたい仕事ではなかった。何しろ種族が多すぎて纏まらない。圧倒的強者である大公クラスの実力がなければ、一部の種族は反発する。胃に穴が開くとはこういう場面で使うのか……先日イザヤと話した時に覚えた諺を呟いた。


「エドモンド殿、わしも多少は手伝えるぞ」


 神龍族の長老モレクが苦笑いで舞い降りる。過去にエドモンドと同じように、丸投げされた経験を持つ老人は肩をすくめた。


「あと数百年も経てば、笑い話になるゆえ悩むでない」


 年長者の余裕でけろりと言い放つが、当時はエドモンド同様追い詰められた老人は、集まった魔獣の長に指示を出し始めた。掃討戦が終わった一族から森へ戻らせる。残党狩りは吸血種の得意とする分野だった。追いかけて狩るのは魔獣、その後の処理は吸血種を使うのが効率的だ。


 竜や龍は残党狩りに適性がなく、代わりに炎で死体を焼き払う役割を担った。ケガをして動けない魔族の救出を終えた魔王軍は、各種族の損害を確認して報告書を仕上げる。


 手分けして終えた人族の殲滅作戦は、暮れゆく夕日が沈み切る頃には終わりそうだった。薄暗くなり始めた森と対照的に、人族が占有してきた土地は赤黒く燃える。消えゆく命の灯火のように……ゆらゆらと。


「っ! ご報告申し上げる! 北の奥、ウリエル国に残党あり。現在、吸血種が追っております」


「……取りこぼしか」


 舌打ちしたエドモンドだが、自ら動くわけにいかない。司令塔として権限を預かった立場を放り出せずに唸った。


「よかろうよ、わしが片付けてこよう」


 モレクが龍に変化し、長い龍体を空中に横たえた。ゆったりとした大きな身は、硬い鱗を閃かして夕暮れの空を泳ぐ。圧倒的な存在感を放つ長老へ、エドモンドがほっと息をついた。


 狩り漏らしは許されない。だが龍が止めを刺しに向かうなら、安心できる。


「頼みますぞ、モレク殿」


「承知した」


 鱗が光を弾いて赤く輝く。燃え盛る炎のようであり、同時に……。赤に染まった龍体を見送りながら、不吉な言葉を飲み込んだ。あるはずがない。何も起きるわけがない。自分に言い聞かせ、エドモンドは受けた報告を書き留める作業に戻った。

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