魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

1006. 余波に紛れた母の声

 逃げ込んできた魔獣を保護しながら、ベールが溜め息をつく。隣でルキフェルも肩をすくめた。


「あの2人ですか」


「時々アスタロトも羽目外すけど……今日じゃなくてもいいじゃん」


 呆れ顔で文句をいうルキフェルだが、魔法陣で魔獣達の探索と撤退を行なっている。ベルゼビュートが仕掛けたと聞くが、状況的にアスタロトのガス抜きを図ったのは間違いない。ある程度の余波は覚悟しなければならなかった。


「アスタロトに理性が働けば」


「期待しない方がいいって」


 なんだかんだ、僕より子供だよ。匂わせてルキフェルはベールの希望を叩きおる。無駄な期待は裏切られるんだから。


 魔獣の魔力を探しては、自分達が担当した地区へ逃していく。余波に巻き込まれた人族が死ぬのは構わないが、魔獣に被害が出たらルシファーが悲しむだろう。今回の戦いはあくまで掃討戦であり、圧倒的な強者である魔族が人族を滅ぼす作戦だった。


 数千年単位で鬱積を溜めるアスタロトのケアまで同時に行う予定はない。勝手に始めたベルゼビュートへはあとで仕置きですね。顔をしかめたベールに「好きにすれば」とルキフェルは止めずに煽った。


 自動で魔族の回収を行う魔法陣を描き終わり、ルキフェルは安全装置を確認してから発動する。中々の出来に満足していると、次々と魔獣が飛び出してきた。竜族や鳳凰など空を飛ぶ種族は、自力で離脱を試みる。傷ついて動けない者や、奥まで入り込んで撤退指示を見落とした者を中心に回収した。


「僕の障壁で防ぐけど」


「でしたら、私が炎で防げますよ」


 アスタロトの剣を振るった余波だろう。大きな波状の攻撃を弾いたルキフェルが、防御用のネットを編む。有り余る竜王の魔力が可視化されて、隣国から飛んでくる魔力を防いだ。


 これがルキフェルを狙った攻撃ならば、もっと威力があり片手間で防げるものではない。しかし戦う2人の剣技の一部なら、結界で自動的に排除可能だった。アスタロトとベルゼビュートも、こちらに侵食して獲物を奪う気はないだろう。


 ルキフェルの結界に炎を這わせ、途中から保護を担当するベールは、元々防御力に定評がある。神獣や幻獣は他者を攻撃するより、防御に徹して生き残る種族だった。鳳凰族の炎を転用したため、飛んでくる火の粉が魔族を癒していく。


「やっぱ、こういうのはベールだね」


 敵わないな。そう呟いたルキフェルが髪をかき上げる。後ろから抱きしめるように包まれ、唇を尖らせて上を向いた。親や兄のように包むベールの愛情は心地よい。我が侭を許して子供らしくいる時間を作ってくれた。


 幼くして大公に上り詰める実力者の心を護ったベールは、穏やかに笑う。


「防御の私と攻撃のルキフェル、バランスが取れているでしょう」


 もし3大公が争う時代にあなたが生まれていたら、私は魔王を取っていたでしょうね。あなたのために。そう匂わせたベールの元へ、報告に竜族が舞い降りた。


「ご報告申し上げます。結界より向こう側の魔族の撤退、終了いたしました。アスタロト様とベルゼビュート様の戦いにより、人族と都の消失を確認。最後に火を放つべく、鳳凰族が待機しております」


「ご苦労です。危険なので鳳凰族も一度下げましょう」


 巻き込まれでもしたら、鳳凰族が気の毒だ。彼らはすぐに復活できるので、瀕死までいっても死ぬ心配は少ない。寿命以外の死は考えにくいが……アスタロトやベルゼビュートの攻撃が直撃したら、即死の可能性もある。癒す能力が優れていても、その前に即死したら意味がないのだから。


 炎を放つだけなら、鳳凰族の貴重な人材を使うこともありません。あっさり判断を口にしたベールに一礼し、竜族の若者は再び空に舞い上がった。上空まで旋回しながら一気に高度をあげ、結界の向こう側へ飛び出す。


「あの子、飛ぶの上手だなぁ。魔王軍に入ってたんだ」


 雛の頃見かけた子供が、いつの間にか魔王軍の斥候を担当している。若い外見とはいえ、ルキフェルも15000年を超える長寿竜だった。


「っ!」


 突然、魔の森から強烈な風が吹く。何かを訴えるような強い風に、ルキフェルは目を見開いて振り返った。


「……レラジェ?」


 感じた魔力はレラジェのものだ。魔の森の子に間違いないと、リリスが断定した幼児の姿を探す。隣のベールが不思議そうに首をかしげた。


「ねえ、レラジェは?」


「見ていません」


 そもそも戦場に連れてきていたのか。そこから疑問を呈するベールの袖を掴み、ルキフェルは慌てて口を開いた。


「すぐに探して!」

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